ゼロから始める農業生活 (1)

 さて、今回は役場のやらかし案件についてお話いたしましょう。あまりにもバカバカしい理由でとんでもない状況に追い込まれ、危うく本格スタート前に潰されかけた出来事です。


 この件の大元は“土地”と“補助金”に関することです。


 何度も先述しましたが、上記の案件は最重要項目です。これなくして、ゼロから始める農業生活は極めて難しいと言えるでしょう。


 まず、なにより自分が欲したのは“倉庫”と“作業場”です。


 当たり前ですが、農業する上では数々の機械や道具類が必要なため、それを保管するための倉庫は必須です。家庭菜園レベルの道具ならいざ知らず、農業を本格営業しようと思ったら、かなり大きな倉庫が必要です。


 ちなみに、現在使用している倉庫の大きさは6×10mの60㎡です。これでも最近、手狭になってきたかな~、と感じるほどです。


 そして、作業場です。作業場は収穫してきた白ねぎの梱包作業を行う場所で、これまた必須案件です。こちらの現在使用している作業場の大きさは6×12mの72㎡です。


 当初の計画としては、作業場を先に建ててその半分で梱包作業、残り半分を倉庫とし、資金に余裕ができてきたら倉庫を建てていく。こういう感じでした。


 1年目2年目なら白ねぎの収穫量もそこまでいかないので、半分の作業スペースでも対処可能と判断したからです。


 道具類、機械類も徐々に増やしていく計画なので、購入する機械のサイズを間取りと照合すると、3年目に倉庫を建てれば問題ない、という結論に達しました。


 倉庫、作業場のサイズが決定したので、次にそれを建てれる土地探しです。


 畑として貸す分には問題ないとする地主さんはいるのですが、そこに建造物を建てるとなると、話は違ってきます。畑として使えないのですから、当然と言えば当然です。


 しかし、この案件を呑んでくれる地主さんが現れました。先にも述べた“神社の奉賛会”の顔見知りの方でした。土地の買い上げが条件でしたが、購入するのは資金に余裕ができてからでいいと、これまた好条件で応じてくれました。


 土地は十分な広さがあり、作業場、倉庫、さらには育苗用のビニールハウスを建造しても余裕があり、水も地下水用のポンプがあれば汲み上げれるので、家から少し離れていることを除けば条件としては最適です。使用予定のJAの集荷場からも近いので、むしろ好都合とも言えます。


 建設予定地の選定が終わると、早速に地元役場へ“農地転用”についての相談に出掛けました。


 “農地転用”とは、畑や水田などの農業耕作地に建造物の建築等の、耕作以外の用途で農地を使う際に必要とする許可です。ビニールハウスであれば、扱い上は農地であるので無許可でいけますが、倉庫、作業場の建造となるとそうはいきません。必ず転用許可がいります。


 まあ、昔からやっている人は、畑の中にあれこれ建てて、違法建築てんこ盛りなわけですが、それはスルーと言うことで(笑)


 その建設予定地に市の担当者を案内して“確認”を取ってもらったり、転用手続きの処理をしてもらったりしてもらいました。


 そして、2月に営農開始、雪解けの3月に倉庫兼作業場の着工、5月に完成、6月に物品や機械の納入、7月から収穫と出荷作業に入る。これが“当初”の計画でした。


 作業工程表、ならびに資本管理も完璧で、補助金も市議会の承認を得て、市長の署名捺印を終わり、しっかり下りることになりました。準備は万端です。


 が、それがすべてひっくり返りました。


「該当地への倉庫の建設を認めない」


 これを担当者から言い渡されたとき、あまりのショックで言葉を失いました。あれほど準備を整え、資金の流れからタイムスケジュールまで綿密に組み上げ、議会と市長の承認を得た計画が潰れたのです。


 こうなった理由は“新規建造物の建設条件”を満たしていない土地だったからです。


 具体的に言うと、“建設予定地に接する道路の幅員不足”です。


 新規建築に関して、接する道路の幅が4m以上という規定があり、それを満たしていなかったというわけです。ちなみに、予定地前の道路の幅は3.5mでした。


 ここには自分の勘違いも入っていました。というのも、側溝は道路の幅員に加算することができ、それを考えると4mを超えていたので、問題ないと思っていたのです。


 昔の話ではありますが、道路幅の件でもめたことがありまして、その際に建築法の道路幅についてはある程度知識が入っていたため、今回もそれが適応されて大丈夫だと思っていたのです。


 しかし、登記上はその側溝は“水路”として登録されており、水路であるならば幅員に加算することができないため、予定地の道路幅が足りないということでした。


 これが倉庫の建設ができない理由でしたが、ならば担当者に土地を見せて確認を取り、さらに各スケジュールの作成と開示、議会の承認に市長の署名、この間およそ5か月間に担当者は何をしていたのかと問いただしたところ、“何もしていなかった”のです。


 確認作業を怠り、建築部署へのデータ検証をしていなかったため、着工直前になってようやくその事実に気付いたということでした。


 そして、しれっと建築できないと通告。もう代替地を探す時間的余裕はありません。すでに様々な物品はスケジュールに合わせて発注をかけていますし、倉庫が出来上がることを前提に、事前提出した企画書のまま動いていましたから、中止もできない状態です。


 そして、追撃の一言。担当者からこれを聞いた時は、ショックで倒れそうでした。


 曰く!


「補助金は“全額”停止させていただきます」


 無慈悲な宣告。ここで実質、自分の破産が確定した瞬間でした。


 以前の回で述べましたが、補助金には高額な買い物の際に半額を補助してくれる「就農条件整備事業」と、無利子での融資を受けれる「青年等就農資金」を利用していました。


 購入した物品はこれをあてにしており、提出した資金計画案にもその旨を記載していました。


 つまり、半額補助も、無利子融資もなくなってしまうと、発注をかけた物品や機械は“全額”自分が支払うことになります。


 その合計金額は、余裕で自己資金の限度額を超えています。


 そう、一度も白ねぎを収穫することもなく、破産することが確定した農家となってしまったわけです。


 補助金停止の通告を受けた際に、そのことがすぐに脳裏に浮かんだため、自分は絶望しました。意気揚々と農業を始めようと田舎に引っ越したというのに、一度も農家として営むことなく、借金だけが残るかもしれない、と!


 さて、これからどうなるのか。次回を待ってね♪



            ~ 次回に続く ~

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