10月

 10月に入ると暑さも完全に和らぎ、気持ちの良い日が続く。


 そして、この月は春からずっと続いていた忙しさから解放される。言ってしまえば、農繁期から農閑期へ移り変わる移行期だと思っていただければいい。


 植え付け作業も9月末で一旦終了し、新たに苗を用意する播種の作業もない。しかも、10月11月は穏やかな日が続き、雨も控えめであるため、作業もしやすい。


 この穏やかな時期にやっておきたいのは、土壌消毒だ。


 作物の中には、同じ畑で同じ物を作り続けると、発育不良や病気にかかりやすくなる。いわゆる『連作障害』というものが発生するのだ。


 この原因は、同じ作物を作り続けてその土地に含まれる栄養素が偏ってしまったり、あるいはその作物を好む病原菌や寄生虫が増えてしまったりと、原因は様々だ。


 それを解消する意味で行う連作障害用の対策は2つ。休耕地と土壌消毒だ。


 先述したが、自分の農園では、畑を2年使用し、それから1年休ませるようにしている。休ませている間は緑肥を植え、地力の回復と寄生虫の除去に努める。


 これをやっておくと、連作障害が起こりにくくなるというわけだ。


 そして、土壌消毒は消毒剤を畑に散布し、それをトラクターで畑に混ぜ込むというやり方をやっている。混ぜ込んだ薬が土中の水分に溶け出してゆっくりと気化し、寄生虫や病原菌、あるいは雑草の種などを処理してくれる。


 これをやるかやらないかで、病気の発生率が大きく変わるのだが、残念なことに、これをやらない農家もいたりする。


 理由は土地不足とコスト削減だ。


 休耕地を用意できるということは、土地に余裕があって、休ませることができるということでもある。しかし、予定している作付面積に対して確保している畑の面積が小さいと、休ませる余裕がないのだ。


 そのため、収穫しては畑を均(なら)し、そのまま次の植え付けを始める、などということをやっている農家もいたりするのだ。


 当然、このやり方では病気が発生しやすく、実際そうした畑の横を通り過ぎるときは、発育不良や発病している白ねぎをよく見かける。


 そして、コスト削減で土壌消毒を行わないのは、単純に土壌消毒の薬剤が高いのだ。そのため、使うのを敬遠してしまうのである。


 どのくらい高いのかと言うと、自分の農園で年間使用する農薬の金額に換算すると、おおよそ6、7割が土壌消毒の薬剤にコストを費やしている。


 ここを節約できるのであれば、どれほどの経費が浮くのかはお分かりいただけるだろう。


 なお、病気が蔓延していい仕上がりにはならず、儲けにならないのは言うまでもない。


 経費ケチっちゃ、いい仕事なんぞできないというわけです。


 無論、コストを抑えられるのであれば抑えるのは当然でしょうが、削るところと必要なところの区別ができていない農家もいるのも事実です。


 問題なのはそうした農家の畑が自分の畑と隣接しているところです。こちらの畑に病気や虫がうつってしまうからだ。


 無農薬農家が『他の農家』から嫌われるのはまさにこの点。安定供給を第一に考えているこちらからすれば、無農薬は害悪以外の何物でもないのです。病害虫の巣窟にもなりかねないからだ。


 ブランド産地の維持に努めるのも所属する農家の義務と考えているこちらとしては、そうしたケチな農家はさっさと消えて欲しい限りです。


 実際、その数は減少していますけどね。



           ~ 11月に続く ~

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