第6話

「財宝が隠されているところは見当がついているんですか?」

 それまで身を乗り出して説明していたアマカツさんは、ソファに背をもたせて言った。

「いや、それはまだ。どの程度のなにが隠されているかもわかっていません」

それから再び身を乗り出して言った。

「ただ、水田さんや、わくくんが持っているこの指輪が、財宝のありかを知るための非常に重要な要素であろうと。というよりそれしか知る方法はないと、私は思っています。

この指輪をすべて見つけ出して、つなげると、なんらかの形で財宝の隠し場所が示されてるのではないかと私たちは考えています」

わくが、自分の指輪を外して私に示した。

「僕のリングは、多分、一番端にくるはずなんです。というのは、ここに・・・・」

 わくの指輪のダイヤのような紋章の一部には、「漆」の文字が刻まれていた。

「アマカツ先生によれば、これはシツ、7のことだそうです」

「私のは、、、」

「くりこさんのは、ここに、、、陸とあります。6番目のリングです」

 確かに指輪の中のペーズリー模様をよく見れば「陸」と読める部分がある。

「おお、そんな文字が隠されているとは。わくくん、こんな文字、よく見つけられたね」

「僕も最初はまったく。そもそも、このリングの正体はコウタのひいばあちゃんが教えてくれたんです」

 コウタを見ると、胸の前で小さくピースをしてみせた。

「1年くらい前にコウタんちに行ったとき、ひいばーさんがこのリングを見て、あんた、その指輪どしたのっていうから、親父が死んだとき形見でもらったって言ったら、あんたのうちは湧水一族なのかっていわれて」

「わくくんも知らなかったの?」

「それで思い出したんです。そういえば、オヤジが以前、言ってたことがあったなって。ただ、詳しい話は聞いてないし、オヤジも多分、詳細は知らなくて、さっくりした昔話みたいな感じで、じーさんとかひいじいさんに聞いた程度だと思うんです。なんで、僕もくりこさんと同じで、おもしろいデザインだと思ってつけてただけで」

「おもしろいか?俺、不気味に見える」

「それが湧水一族じゃねー証拠なんだよ」

 わくは笑いながら言った。

「コウタくんのひいおばあさんはなぜ湧水一族のこと知ってたの」

「ひいばーちゃんの実家がそれらしいっす。なんで、実家のいとこ、つってもだいぶ年上のおっさんなんすけど、が、それと同じのしてるっていうんで」

「見せてもらいに行ったんだよな」

「ミズハラがどうしても見たいっていうから。俺、あのおっさん苦手なのに」

「それはどーでもいいよ、この際。で、見せてもらったら、コウタのいとこのが、壹(いち)だったんだよな」

「そう。ひいばーちゃんの実家がナンバーワン! みんな下っぱだから。

ミズハラなんか最下位だし」

「ラスボスが一番つえーし。で、デザイン的に、俺のは下に波々っぽい装飾があるんです。ほらね。コウタのいとこのは上にこれがある。くりこさんのはないでしょ?」

「本当だ。私のは、上下と繋がれるようなデザインになってるね」

「そうなんです。これに気づいたのは、あとの2個、、、」

わくはポケットからスマホを取り出して、写真フォルダを検索した。

「これ。ちょっと見てください」

見せてくれた画像は2枚。

ひとつずつ、指輪がアップで写っている。

「それぞれ、ここに、弐、伍、って読めますよね」

「あー、ほんとだ」

「この2個も上に波々がなくて、上下でつながれるようになっています」

「ってことは、そのときすでに、4個は見つかったわけね」

「そうなんです。2と5は、コウタのいとこの関係で芋づる式に見つかったんです。

そんなんで、リングはどうやら、全部で7個あるって推定できて。

あとの3個を探そうというんで、それに、誰も、このリングの由来とか知らなかったから、

知ってる人間を探したいと。それで、コウタのひいばーさんや俺の親戚とかの知り合いから探って行こうと。そうこうしているうちに、なんかトトロみたいなばーさんの家で」

「トトロみたいなばーさんてどういうの?」

「あー、なんかもう人間じゃないみたいなばーさんです」

ますますわからない。

「105って言ってたよな」と、コウタ。

「そうそう。迷子になったとき狐に連れて帰ってもらったんで、母親が油揚げ持たせて帰したっていうばーさん。そこで、聞き取り調査に来ていたアマカツ先生と知り合ったんです」

よね、と言いながらわくはアマカツさんを振り返った。

「そうです。彼から指輪のことで相談を受けて、非常に興味が湧いて、私なりに色々調べてみたのです。その結果、湧水一族のことや光道一族のことがわかってきました。そして多分、指輪に、秘密が隠されているのだろうと」

「アマカツ先生に相談しながら、3と4、6を探したけれど、そこからがどうしても見つからなかった。そのうちにアマカツ先生が市史編纂室の会議でくりこさんと会って、リングを目撃したというわけです」

「湧水一族は、中央の寺院からの川と、湧水稲荷からの川沿いに住んでいたらしいことがわかっているので、それで確認のためにお聞きしたんです」

「そうだったんですね。でもそのときは指輪のこと、なにもおっしゃらなかったですよね」

「あの会議室のタイミングでいきなり、あなたの指輪は、とか、あなたは湧水一族の人ではないですか?なんて、立場上、聞けないですよ。しかもそんなこと言ったら水田さんに、この人ちょっと頭がおかしいとか思われそうですし。どこのどなたかはわかるので、折を見て接触しようと思っていました」

頭のおかしい人がしそうな話だという自覚はあるわけだと、その夜はじめて、少しホッとした。

 わくが付け加えるように

「そして、今日、くりこさんがこの遊歩道に来てくれたので、このチャンスを逃さないようにしようと」

と言った。

「小川までの遊歩道で何者かに追われたんです。それも大勢いたんですよ。でも姿が見えなくて。本当に怖かったんです」

「多分、光道一族のやつらでしょう」

と、アマカツさんは眉を潜めていった。

「へんなこと言う猫までいて」

わくとコウタは気まずいような表情を浮かべた。

「なぜ、今の段階で狙われるのか、理解しづらいですよね。なんにもしていないのに」

「もうすでに、くりこさんが湧水一族で、なおかつリングを継いでいるのがわかっているんでしょう。ターゲットのひとりなんですよ」

とわくがいう。

「自分でも知らなかった私の情報を、なんで他人が先に知ってるのか、腑に落ちん!!」

と、思わずテーブルを拳で叩いてしまって、

わくに(うぜー)という顔をされたので、

「じゃあ、これから私はなにをすればいいんですか?」

と取り繕った。

アマカツさん、わく、コウタの3人がじっと私を見ている。

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