第3話

小川を渡ると、目前に斜め右方向に伸びている路地があった。

その路地の先は樹木が密生していて、濃い緑の枝葉がまるでアーチのように入口を覆っていた。

元きた道の位置関係から見て、その路地もまたかつては水路であったはずで、ここから東南に伸び、全ての川が合流する一級河川に向かっているはずだ。

とはいえ、この道ははじめて歩くような気がした。左右に伸びる緑の印象が、小川までの遊歩道と異なる。ここはよりワイルドで樹木はジャングルのように猛々しい。

小川までの遊歩道の両側に、所々設けられていた花壇もここにはなく、花も滅多に咲いていなかった。ただ、木々のいくつかは果実をつけている。ここでは、花はすでに終わっているのだろう。

ふと見ると、進行方向30メートルほどのエリアに、ことさら背の高い木々が枝を伸ばし、

その手前に、背の低い種類の木々の植え込みがあった。

その一角に目をやって驚愕した。

外灯の明かりに浮かび上がる白いものは、

生首?!!

息を飲んでよく見れば、人が木の間にしゃがんでいて、こちらから顔だけが見えていたのだ。

大きく深呼吸した。驚きが大きすぎると、声も出ないものらしい。

どうやら、その人物は木の間にしゃがみ込んで、植物を撮影していたらしい。

私が近づくと、彼は立ち上がって、こちらを見て微笑んだ。

「驚かせてしまいました?すみません」

彼の「生首」を見て私は多分、ものすごく驚いた顔をしていたに違いない。

「ああ、いいえ・・・こちらこそ。続けてください」

そう言って会釈をして通り過ぎようとした。すると彼は植え込みから出てきて、

「こんばんは。ここであなたを待っていたんですよ」

と静かな口調で言った。心臓が止まるかと思った。あの、カサコソの一味か?

次の瞬間、私は踵を返して逃げようとしたが、彼の手の方が一瞬早く私の腕を捉えた。

「大丈夫、僕はあなたの味方です」

はああああ?なんだそれは?!

「味方」とはどんな意味だ、いきなり仮想敵を暗示されて、私はややパニック状態に陥る。

こいつ、サイコパスとかシリアルキラーじゃないだろうな?!

私は掴まれた腕を振りほどこうとしつつ、周囲に忙しなく目をやった。

(誰か、助けて!!)

「誰もきませんよ。ここは、立ち入り禁止のエリアですから」

全身の血の気が引いて、それから逆流しているような気がした。

意を決し、

「あなた、誰なんです? なんの用なんですか?」

出来る限り落ち着いた、あまり丁寧すぎない口調で聞いてみた。

相手を刺激して興奮させないように。今のところ、興奮しているのは私の方だけれど。

20代半ばから後半くらいか? 小さな顔、額にかかる前髪。

いかにも今どきの青年という風貌の彼は、相変わらずの静かな口調で言った。

「これを見てください。そうすれば、少し事情がわかります」

示されたのは右の手の甲で、その中央の指にしている指輪には、ジグザグとしたラインの断面があった。彼はそれを外して、私の手の平にそっと落とした。

今度は私の番だ。

左手の中央の指にしていた指輪を外して、彼の指輪と重ねると、断面はピタリと合致した。

ようやく、ここで繋がった。そもそも、なぜ、この遊歩道に導かれてきたのか。

なぜ、ここ数ヶ月、私の周りに奇妙なことが起こっていたのか。

彼は、その疑問を解いてくれる道案内であり、本当に強い味方になる相手のはずだ。

私は、やっと、大きく深呼吸した。

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