壮二君の行方
松野君の語ったところによりますと、結局、賊は次のような突飛な手段によって、まんまと追手の目をくらまし、大勢の見ている中をやすやすと逃げ去ったことが分かりました。
人々に追い
ところが、人々のあとに残って、ひとりでその辺を見廻していた松野運転手が、その竹切を発見し、賊のたくらみを感づいたのです。思いきって竹切を引張ってみますと、果して、池の中から泥まみれの人間が現れて来ました。
そこで、闇の中の格闘が始ったのですが、気の毒な松野君は救を求める
そう分かってみますと、壮二君達を学校へ送って行った運転手は、いよいよ
先ず早苗さんの行先、門脇女学校へ電話がかけられました。すると、意外にも、早苗さんは無事に学校へ着いていることが分かりました。では、賊は別に誘拐するつもりではなかったのだなと、大安心をして、次には壮二君の学校へ電話をして尋ねますと、もう授業が始っているのに、壮二君の姿は見えないという返事です。それを聞くと、お父さまお母さまの顔色が変ってしまいました。
賊は罠を仕掛けたのが、壮二君であることを知ったのかも知れません。そして、足に受けた傷の
サア、大騒になりました。中村捜査係長は直ちにこのことを警視庁に報告し、東京全市に非常線を張って、羽柴家の自動車を探し出す手配を取りました。幸い自動車の型や番号は分かっているのですから、手掛りは十分ある訳です。
壮太郎氏は、
ところが、その日のお昼過になって、一人の薄汚れた背広に鳥打帽の青年が、羽柴家の玄関に現れて、妙なことをいい出しました。
『あたしはお宅の運転手さんに頼まれたんですがね。運転手さんが、何だか途中で急に私用が出来たとかで、頼まれて自動車を運んで来たのですよ。車は門の中へ入れて置きましたから、調べて受取ってほしいんですがね。』
書生が、そのことを奥へ報告する。ソレッというので、主人の壮太郎氏や支配人の近藤老人が、玄関へ駈け出して、車を調べてみますと、確かに羽柴家の自動車に相違ありません。しかし、中には誰もいないのです。壮二君はやっぱり誘拐されてしまったのです。
『オヤ、こんな妙な封筒が落ちていますよ。』
近藤老人が、自動車のクッションの上から、一通の封書を拾い上げました。その表には『羽柴壮太郎殿必親展』と大きく書いてあるばかり、裏を見ても、差出人の名はありません。
『なんだろう。』
と、壮太郎氏が封を開いて、庭に立ったまま読んでみますと、そこには左のような恐ろしい言葉が書きつらねてあったのです。
昨夜はダイヤ六
しかし、お礼はお礼として、少しお恨があるのです。何者かが庭に
壮二君は今、拙宅の冷たい地下室に閉じ込められて、暗闇の中でシクシク泣いて居ります。荘二君こそ、あの呪わしい罠を仕掛けた本人です。これ位のむくいは当然ではありますまいか。
ところで、損害の賠償ですが、それには、僕は御所蔵の観世音像を要求します。
僕は昨日計らずも貴家の美術室を拝見する光栄を得たのですが、その立派さに驚き入りました。中にもあの観世音像は、鎌倉期の彫刻、
ついては、今夜正十時、僕の部下のもの三名が、貴家に参上しますから、黙って美術室に通して頂きたいのです。彼等は観音像だけを荷造して、トラックに積んで運び去る予定になって居ります。人質の壮二君は、仏像と引換えに貴家へ戻るよう計らいます。約束は二十面相の名にかけて間違いありません。
このことを警察に知らせてはなりません。又部下のトラックの跡をつけさせてはいけません。
この申出は必ず御承諾を得るものと信じますが、念のため、ご承諾の節は、今夜だけ、十時まで正門を開け放って置いて下さい。それを
二十面相より
羽柴壮太郎殿
何という虫のよい要求でしょう。壮太郎氏を始め、
なお、賊に頼まれて自動車を運転して来た青年を捕らえて、十分
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます