《第一章》 第三話

衣服専門店前 11時45分AM

洋服専門店”パンドーラー”

店の中で服を選ぶメルと

店の外で待機しているゼファ


ゼファ:

「なにがどーなってこーなったんだ…」


ゼファとメルは今、服屋に居る

発端はゼファの”ある一言”が原因

それは遡(さかのぼ)る事、三時間前―――


シュナイザー:

「そうだメルちゃん、街を歩いてみない?」


メル:

「…街を?」


ゼファ:

「(ポテトを頬張り)そいつぁ良い!

肉買おう、肉!」


シュナイザー:

「…行儀悪いよ、ゼファ」


ゼファ:

「(ポテトを食べながら)んな事言ったって

やめられねぇし止まらねぇよ!」


シュナイザー:

「飲み込んでから喋れよ…」


ゼファ:

「はぁい(水で流し込む)っぷは~!」


メル:

「ふふふ」


シュナイザー:

「もしかしたら街の物に触れて

何か思い出すかもしれないし、

僕たちも調達する物があるからね

気分転換にもなるよ、どうかな?」


メル:

「うん…行ってみたい」


ゼファ:

「それよかメル?

街に出るなら着替えとかねぇとな?」


メル:

「…私?」


シュナイザー:

「そのローブだと目立っちゃうかもね

万が一、アイツ等に見つかっても危ないし…」


ゼファ:

「あぁ、確実にまずい」


メル:

「…そーなの?」


ゼファ:

「いろいろとな?」


メル:

「どうして色々…?」


シュナイザー:

「僕の服を貸してあげるから、着替え―――」


ゼファ:

「だって”その下”、なんも着てねぇんだろ?」


メル:

「―――ッ!」


シュナイザー:

「おい…ゼファ…」


ゼファ:

「あ?どした」


早足で歩き出すメル

扉を開けてから振り向き


メル:

「………えっち」


そう言って扉を閉めた


ゼファ:

「俺、なんか悪い事言ったか?」


シュナイザー:

「はぁ…も~君って奴は

デリカシーがないなぁ…」


ゼファ:

「んむ?」


―――というやり取りがあり、

​どうせならと服を新調する流れになったのだ

ちなみにシュナイザーは食料調達でいない

”馴染みの店”だからお金の心配はしなくて良い

との事だが…女性店員に相当気に入られたのか

試着もといファッションショーが続いている


ゼファ:

「とは言え此処から離れる訳にもいかねぇし…

はぁ~…シュナイザー…帰ってこぉ~い…」


言い終わるタイミングで丁度良く

シュナイザーが駆けてくる


シュナイザー:

「おぉーい、ゼファ!」


ゼファ:

「遅っせーぞシュナイザー!何してたんだ!」


シュナイザー:

「ごめんごめん、あれ?メルちゃんは?」


ゼファ:

「まだ中に居るぜ?」


シュナイザー:

「そうなんだ?楽しんでるみたいだね~」


ゼファ:

「此処の店員、センスだけは良いからな…

お、出て来たみたい…だ…?」


シュナイザー:

「…ゼファ?どうしたの?」


ゼファ:

「シュナイザー…天使が居る」


それはまるで…おとぎ話の登場人物

丸襟ブラウスにコルセットスカートが広がり、

装飾の施(ほどこ)された柔らかなケープが

その小さな身体を優しく包む

フリルの付いたソックスやショートブーツは

可愛さと動きやすさを両立させ、

ブラウン系で統一された色合いと

ループタイに輝くエナジーストーンが

繊細な女の子らしさを見事に纏め上げていた


シュナイザー:

「わぁ!とってもかわいいね、メルちゃん」


ゼファ:

「…ああ!良いと思うぜ?」


メル:

「あ…ありがと…

でも沢山迷って遅くなっちゃった…」


ゼファ:

「気にすんな!

シュナイザーも遅かったよな?」


シュナイザー:

「そうなんだよ、今日は市場が凄かったんだ!

取り合いでちょっとした戦争だったよ…」


ゼファ:

「なに!肉は買えたのか!?」


シュナイザー:

「一応ね?けど、西大陸で何かあったのかな…

”砂モグラ”の燻製肉がかなり高騰してて

これだけしか買えなかったよ」


鞄から紐で括られた紙袋を取り出す


ゼファ:

「やったぜ!さっすがシュナイザーだ!」


シュナイザー:

「…後で調理しなきゃね?

他の物資もあまり流通してないみたいだった

けど、雫豆(しずくまめ)は手に入れたから、

とりあえずコレ食べよう?」


小さな三つの袋、その一つを手渡す


ゼファ:

「オヤツにしちゃ質素だな…」


シュナイザー:

「文句言わない」


ゼファ:

「へいへい…ほら、メル」


メル:

「…?」


ゼファ:

「育ち盛りだろ?半分やるよ」


シュナイザー:

「僕の分もどうぞ?」


メルの袋が二人の雫豆でいっぱいになる


メル:

「…いいの?」


ゼファ:

「気にすんなって」


シュナイザー:

「そうそう、沢山食べてね?」


メル:

「…ありがとゼファ、シュナイザー…」


瑞々しい半透明の小さい豆

一口頬張って噛んでみる

小粒の中からジュワっと甘い蜜が溢れた

自然と、笑顔になる


ゼファ:

「良いって事よ」


シュナイザー:

「良かったねメルちゃん

そうだゼファ?気になることが…」


ゼファ:

「ん?」


少し小声になるシュナイザー


シュナイザー:

「さっき市場の人達が噂してたんだ

軍服の来訪者を数人見かけたって…

アイツ等、やっぱり追いかけて来たね

なるべく早く離れた方が良いよ

”コラプサー”のエネルギーも

まだ溜まって無いだろ?」


真剣な顔になるゼファ


ゼファ:

「あぁ…”コイツ”にも苦労をかけるな

まだまだ働いて貰わねぇと…」


”崩せし者”(コラプサー)

と呼ばれた黒い拳銃を撫でるゼファ

斜めに突き出した三つのエネルギータンク

その内、発光しているのは一つだけ

つまり必殺技を撃てる回数は…


ゼファ:

「一発、か…

それでも通常の弾は撃てる、

なんとか成るさ?」


メルを見つめるゼファ


ゼファ:

「ただ、それより気になるのは…」


シュナイザー:

「メルちゃんの…首の”アレ”?」


ゼファ:

「あぁ、店員の趣味にしちゃ…だろ?」


シュナイザー:

「…発信機の可能性は高いね」


メルの首元には”機械”が取り付けられていた

まるで、ペットに付ける為の首輪のように


ゼファ:

「聞いてみるか…なぁメル?

その首のチョーカー…それもあの店で?」


メル:

「ううん…コレ、ずっと外れないの…

だから店員さんが凄く気を遣ってくれて…」


鉄のチョーカーを摩るメル


ゼファ:

「やっぱりヤツの仕業か…」


シュナイザー:

「アジトの工具なら破壊できるかもね」


ゼファ:

「ホントか?」


メル:

「外せるの…?」


シュナイザー:

「確証は無いけど、やってみよう?」


ゼファ:

「そうと決まれば行動あるのみだ

アジトに戻ろう!」


メル:

「うん…」


ゼファ:

「心配すんな!肉も待ってる!」


メル:

「…うん!」


シュナイザー:

「も~、一番待ってるのは君だろー?」


三人は笑いながらアジトへ戻るのだった

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