第13話 ラクダ車競争!


「いいのかな? 黙って出てきちゃったけど。」


 タマ巡査の問いに、ユキはキッパリと答えた。


「かまわないニャ! あんな奴!」


「でも、食事や宿泊まで世話になったし…。」


 振り返ろうとするタマに、ユキはイライラしながら言った。


「タマちゃん、まさかあいつを一緒に連れて行くなんて言わないニャ?」


「それは…。」


 早朝にもかかわらず、街の大通りは人であふれて朝市がたち、活気があった。

歯切れが悪いタマに、ユキは畳みかけた。


「あいつ、どうもあやしいニャ。盗賊のくせに法典に詳しいし、贅沢に慣れてる感じだったニャ。」


「そういえば…。すごいね、ユキにゃんは刑事になれるよ!」


「ケイジって何ニャ?」


 二人のそばを、子供を連れた家族らしき一団が通りかかった。子は親と手をつなぎ、笑いながら歩いていた。


 ユキの質問には答えず、タマは歩きながら言った。


「彼女も親はいないって言ってたよね。未成年だし、また盗賊に戻らないように教え導くのも警察官の役割だと思うんだ。」


「…タマちゃんは誰にでもそうやって優しくするから、あんなのにすぐにつけ込まれるニャ。」


「ユキにゃん…。」


(タマちゃんには、ボクにだけ優しくしてほしいニャ。)


「え? 何か言った?」


「なんでもないニャ!」


 慌てて取り繕ったユキは、街の出入口の大門に目をやった。


「あニャ。やっぱり気づかれてたかニャ。」


「えっ?」


 門の周りには荷車などが多数停車しており、乗せる者と乗る者であちこちで交渉をしているようだった。


 その中に、こちらに近づいてくる青い姿が見えた。青髪のベーリンダだった。


「よう! タマにユキ、おはよ! ラクダ車の手配完了だ。早く乗ろうぜ。」


「頼んでないニャ!」


「チビユキ、まさかお前ら歩いて首都まで行くつもりだったのか? 俺でさえ帝国首都には行ったことねえんだぜ。さ、早く乗れよ。」


 ユキは不服そうに尻尾を揺らした。


「タマちゃん、どうするニャ?」


「乗せてもらおっか? 暑いし…。」


「律儀にそんな服を着てっからだろ? 脱ぎゃいいのに。」


「本官は警察官の服装規定があるの。」


「わかった、わかった。さあ、さっさと出発しようぜ!」



 馬の代わりにラクダにひかれ、ラクダ車は進んで行った。

 地図を見ながらユキが言った。


「このまま進むと帝国中央領の郊外エリアに入るニャ。しばらくは小さい村しかないニャ。」


 ベーリンダがラクダを御しながら聞いてきた。


「お前ら、知り合ってから長いのか? タマはどこから来たんだ?」


「ノーコメントニャ!」


「チビユキには聞いてねえよ! なあタマ…」


いきなりタマが彼女に叫んだ。


「ベーリンダさん! 本当にありがとう! 警察の捜査活動へのご協力に感謝します!」


「あ、いや…。どういたしまして…って、何だよ急に。」


 ベーリンダが顔を少し赤くして言った。


「だいたいさ、ケイサツやらソウサカツドウってなんなんだよ?」


「本官は、テイコクさんの犯罪の証拠を集めながら首都を目指そうと思ってるの。」


「そんなの、帝国の奴らはあちこちで悪さをしてるぜ。すぐにわかるさ。俺だって奴らに…。」


「犯罪被害を受けたの!?」


 ベーリンダはなぜか慌てて言った。


「いや…、なんでもねえ。ちびユキ、お前はどうなんだよ。」


「ボクはチビじゃないニャ! 帝国は大嫌いだけどニャ。」


「ユキにゃん、テイコクさんに何かされたの?」


「うん…。ボクは帝国の徴税役人だったある人を探したいニャ。」


 タマはそれを聞くと、手帳とペンを取り出した。


「まかせて! その人の特徴を教えて。似顔絵を描くね。まず、輪郭は? 目は? 鼻は…。」


 ユキはタマのすべての質問に答えていった。しばらくすると、手帳には中年男性の顔が完成していた。


「タマちゃんすごいニャ! この男ニャ! 今はもう少し歳をとっているはずニャ。」


「へえ、うまいもんだな、タマ。」


「てへっ。ありがと。でもユキにゃん、この人は誰?」


「…親の仇ニャ。」


「ええっ!? ユキにゃん、それって…」


「話はあとだ! 絵も描けたみたいだし、とばすぜ!」


 いきなりベーリンダはラクダ車の速度をあげた。


「うわわっ! どうしたの急に? ラクダって走れるんだ…。」


「お前ら敵が多いな。またつけられてるぜ。」


 タマとユキが後ろを見ると、3台のラクダ車が砂塵をあげて迫ってくるのが見えた。


「また鞭打ち係の人かな?」


「そりゃちがうだろ。まずいな、追手の方が速いな。」


 ベーリンダが舌打ちをした。


「おいタマ! ちょっとこれ持ってろ。」


「えっ? えっ! これ、どうするの!?」


 急にラクダの手綱を押しつけられたタマはメダパニ状態になった。


「チビユキ! またたのむぜ、タマを守るんだろ?」


「あったり前ニャ! キミこそがんばるニャ!」


 急速に追い上げてきた黒幌のラクダ車には黒い布ですっぽりと顔から全身を覆った者たちが乗っていた。


 その黒布の一人がタマたちへ弓を射ようとしていた。


「させるかよ!」


 ベーリンダが得意の得物を投げると、弓矢ごと射手の手を切り裂き、また手元に戻ってきた。


 ユキはその隙に敵の黒幌に大ジャンプで飛び乗ると、背後から乗り手に襲いかかった。


 ユキは敵中で暴れ回り、次々と黒布の一味は車から落下してみるみる後方に小さくなっていった。


 ユキは手綱を奪い、ラクダ車を操ると2台目のラクダ車に幅寄せしていき、思い切り車体をぶつけた。


(ガッターン!!)


 ぶつけられた側のラクダ車は大きくバランスを崩し、道を大きく逸れていくと木に激突して大破した。


「すごーい! ユキにゃん、カッコいい!」


「やるう! チビユキちゃん!」


「チビじゃないって言ってるニャ!」


「あ、もう一台来るよ!」


 タマが言う通り、3台目のラクダ車がユキの乗った車体を無視して追い抜いて肉薄してきた。


 ベーリンダは警戒しながらつぶやいた。


(こいつらの狙いはタマか?)


 3台目のラクダ車にも同じく黒布の一団が乗っており、2本の短剣を抜いて次々とタマとベーリンダの乗るラクダ車に飛び移ってきた。


 ベーリンダがタマの背を守るように武器を構えて立ち塞がった。


「いい度胸してるな、てめえら! かかってきな!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る