第7話 殺人事件発生!?


 緊張の時は、ユキのひとことでほぐれた。


「タマちゃん、待つニャ! 大丈夫ニャ!」


 誰かが松明を灯し、辺りが急に明るくなった。


 まわりには大柄で牙のある猫、山猫たちが立っており、全員が足に鎖で鉄球をつけられていた。


 その中でも、一番大きいボサボサの長毛の猫が聞いてきた。


「なんやお前ら、作業員か?」


 タマは警察の身分証を出し、敬礼しながら言った。


「違います! 本官は警察官であります!」


「みんなを助けに来たニャ!」


 二人は作業着とヘルメットを脱いだ。


「あ!お前、たしか野猫の村のユキか! 大きなったな! ワシはレオや! 覚えてるか?」


「知り合いなの? ユキにゃん。」


「遠い親戚ニャ。」


「そっちの変な服の人間のねえちゃんは誰や?」


「だから警察! わるものを逮捕にきたよ! さあ、あなたたちを強制労働させて虐待してる奴はどこ?」


「総現場監督ならそこや。」


 レオは地面を指差した。

トロッコの下から、鞭を持った手とブーツを履いた足その他もろもろがはみ出ていた。


「…。つまり下敷き?」


「そゆことやな。」


「…吐いてきていい?」


「タマちゃん、ケイサツカンなら我慢するニャ!」


 タマはユキの励ましに気を取り直すと、手帳を出してメモをし始めた。


「暴行罪および略取の被疑者の中年男性、外国人は死亡、と。まずは現場の保存、それから目撃者に聞き込み、それと県警本部に連絡、と。」


 レオは腕組みをして不思議そうにタマを観察し、自分の頭をツンツンしながらユキに聞いた。


「ユキ、お前のツレは大丈夫な奴か。」


「そっとしておいてほしいニャ。」


 タマは声を張り上げた。


「誰か犯行を目撃された方はいますかー!?」


『いや、おまえやろ!』


 山猫たちが全員同時につっこんだ。


 タマは頭を抱えてその場にへたりこんだ。


「いやああ! ユキにゃん、どうしよう! 本官、警察官なのに人を殺めてしまうなんて! これって殺人罪? それとも業務上過失致死?」


「タマちゃん、ボクも共犯だから心配するなニャ。それに、これは正当防衛ニャ。」


「…? そ、そうかな…?」


「そや。気にすんな、人間なんかに情けは無用やど。さあみんな! 逃げるで! 足かせを外すんや!」


 身軽になった山猫たちは、次々と手にシャベルやツルハシを武器に持ち歩き始めた。

木箱を担いでいる山猫もいた。


「ユキ、お前もはよこい。人間なんかほっとけ。」


「タマちゃんは良い人ニャ!」


「どうせそいつも同じやろ。」


 タマは悲しそうに聞いた。


「ユキにゃん、ひょっとして猫と人間って仲が悪いの?」


「うん。まあ…。でもタマちゃんは別だニャ!」


「ありがとう、ユキにゃん。ところでレオさん、ここはどこかな?」


「最深最奥の第9工区や。どうしても壊せん岩盤があってな。

アホな総現場監督がこんなところで#㷔硝岩__えんしょういわ__#を使え言うて無茶を言うてな、それでもめとる時にちょうどお前らが落ちてきたんや。」


「㷔硝岩?」


「そこの木箱に入っとるやろ。危ないからお前らは触ったらあかんで。ほなワシらは行くわ。」


 レオはスタスタと行ってしまった。


「第2班…第9工区…。もしかして!?」


「タマちゃん、どうしたニャ?」


「ここにあるかも、#虎目石__とらめいし__#!」


 タマは奥の行き止まりまで走って行った。

そこは岩盤というより、硬い金属のような壁になっていた。


「ユキにゃん、㷔硝岩って何?」


「たしか、火をつけたら爆発する石らしいニャ。」


「あ! いいこと思いついた!」


 タマは木箱を開けて、中のハンドボールくらいの大きさの丸い石を取り出した。

そして、行き止まりと往復し始めた。


「ユキにゃんも手伝って!」


「これ、さわって大丈夫ニャ?」


 しぶしぶユキも手伝い、二人は壁の前に㷔硝岩をうず高く積み上げた。


「でもタマちゃん、どうやって火をつけるニャ?」


「これで!」


 タマはユキの手を引いて離れ、いっしょに岩陰にかれると拳銃を構えた。


「当たるのニャ?」


「動いてないし、大きいから大丈夫!」


 パン!

 

 タマが狙いを定めて発砲したが、何も起きなかった。


「あれえ?」


「タマちゃん、ホントに『ケイサツカン』ニャ? 外してばっかニャ。あのときも…」


 ドッカーン!!


 いきなり凄まじい爆発音がして、

二人は岩陰にいたにもかかわらず爆風で後ろに倒れてしまった。


「あいたたた…。ユキにゃん、ケガはない?」


「え? 耳が聞こえないニャ。まったく、タマちゃんといたら命がいくつあっても足らないニャ!」


「え? なんか言った?」


 爆煙がおさまると、破壊された壁の奥に何かがキラキラと光っているのが見えた。


 二人は用心しつつ光に近づいて行った。


 光の中心には、猫目石によく似た美しい石が落ちていて強い光を発していたが、近づくとその光は消えてしまった。


 タマは石を拾ってよく観察した。


「綺麗…! 猫目石によく似てるけど、色や文様が微妙に違うね。」


「ボクにも見せて! これが帝国が探しているもう一つの石、虎目石かニャ?」


「テイコクさんはなんでそんなに必死で石を探してるのかな?」


「わからないニャ。道具屋で高く売れるからかもニャ?」


「いくらくらい?」


「たぶん、プール付き豪邸が100軒買えるくらいニャ。」


「…売っちゃう?」


「…それってありニャ?」


「冗談だよ、これ、ユキにゃんにあげるよ。」


「ええっ! いいのかニャ!?」


「本官は猫目石を後で取り戻すし、ユキにゃんにはうんとこわい思いをさせちゃったからね。」


「ありがとう! タマちゃん、大切にするニャ。」


 ユキは虎目石をそっとポケットにしまった。


「もうユキにゃんをこわい目にはあわせないぜ!」


「タマちゃん、頼もしいニャ~。」


 その時、地底から鳴り響いてくる轟音がして地面が揺れ始めた。


「ユ、ユキにゃん、地震かな?」


「はやく逃げようニャ!」


 二人が戸惑っていると、

轟音は大きくなり揺れは激しくなる一方だった。


 二人は走り出そうとしたが、地面に亀裂が生じ始め、亀裂から大量のお湯や蒸気が吹き出し始めた。


「やった! 温泉発見!」


「言ってる場合かニャ!」


 必死で走った先に、ロープで吊られた大きなカゴが何台かあり、そばには何かの機械があった。


「あ! これきっとエレベーターだよ!」


「動かしかたはニャ?」


 タマとユキは機械の操作盤をあちこち触ったが、カゴは全く動く気配がなく、

大量の熱湯の濁流がみるみるこちらに迫ってきた。


「タマちゃん、もうこわい思いをさせない、って今さっき聞いたような気がするニャ。」


「はは…、ホントだね。」


(でも本当にまずいかも…このままだとやけどして死んじゃう…。)


 タマは、先に流れてきた木箱を掴んだ。


「ユキにゃん、これにしっかりつかまって!」


 ついには二人の足元に熱湯が流れ込んできた。


「あちちちニャ、タマちゃん、熱いニャ!」


ユキは肉球のある両足を交互にあげたがあまり効果はなかった。


(私はいいから、せめてユキにゃんだけでも助けないと…。)


 ざっぱあ!!


 ついに、熱湯の波が強烈な勢いで二人に襲いかかった。


 タマはユキに覆いかぶさり、大量の熱湯からユキを守ろうとしたが、

命を奪うほどに熱い激流が無情にも二人を飲み込んでいった。

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