第2話 1月2日のキミ

横に座った菜月の横顔に、春海はふと初恋の人の面影を見た。

初恋の人……それは従姉の桃歌だった。

歳は7つも離れていたが、初めて会った時の高校の制服姿は、幼いながらも何か感じるものがあった。

それが春海持ち前のシャイで、恋や愛ではなかったかもしれないが、間違いなく憧れはあった。

そんな菜月は今年で14歳になる。結局、春海の咲き始めた憧れが枯れるのは早かった。

振り返ればいろいろあった桃歌だったが、今や3人の子どもを育てる立派な母親になっている。

それでも、若干15年という時の流れはやはり驚異的だった。

歳を重ねるごとに、菜月は桃歌に似てきていた。春海は普段、どうとも思っていなくとも時折ドキっとさせられることが増えたような気がしていた。


「……でなぁ、私初詣のおみくじ大吉やった!勉強も運動もええ年になるって!ハルミちゃんはどうやった?そうや!旅に出たらええってあったからどっか旅行行こかなぁ……そん時はハルミちゃんも誘ったげる!‥‥…なぁ、聞いてる?」


「……あ、ああ……ごめんぼーっとしてたわ‥‥おみくじはオレ、末吉やったわ。旅行?ええやん、友達や彼氏と行ってきぃ‥…」


「彼氏って、私おらんよ?」


「‥‥…菜月、ちゃんと青春しとるか?」


口にして我ながらおっさんくさいと春海は苦笑した。

自分も歳をとったなと思った。


「私これでもようモテるんやで?やけど回りガキばっかやし……ハルミちゃんみたいな人がおったらええんやけどなぁ~」


チラチラ見て来る菜月の顔は子どもっぽいが、時折小悪魔のような妖しさを垣間見せている。


「俺みたいなって‥‥…」


「アハハハハッ……どう?ドキドキしたぁ?」


「お前のパパの顔がちらついてドキドキしたわ。からかったってなんも出ぇへんぞ?」


学校や好きなアーティスト、最近よく見る動画の話など他愛ない話が続いた。

一方的に菜月が話、基本春海は聞きに徹する。

春海は上司のHの自慢話は、煙草でもねじ込んでやろうかと思う程聞くのが嫌だったが、菜月の話はいくらでも聞けるような気がしていた。

無邪気な笑顔に無限のパワーを感じるのだった。

そうこうしていると、時計の針が11時に差し掛かろうとしていた。


「もう……こんな時間か。菜月、俺そろそろ……菜月ももうぇやぁ―」


「寝るって、私もう中学生やで?まだまだこっからや!…それはそうとハルミちゃんはこの後何があるん?毎年いっつもおらんくなる‥‥…」


別にぃ…と伸びをしたりしてお茶を濁しながら春海は自然体を装った。


「『コタツ部屋』でなんかしよるまでは分かってる!なぁハルミちゃん、私も連れてってやぁ!」


「あかんあかん。菜月には早い!……いや、オトナんなっても知らん方がええかも……とにかく今はだめや!無理についてきたらモモちゃん呼ぶで?」


春海がジト目で振り返ってみると、菜月はやれやれといった風に肩をすくめてすっと立ち上がっていた。


「ママ呼ばれたらさすがにキツイって!そうよな、春海ちゃんは大人やもんな!また明日遊ぼうな!お年玉ありがとう……」


「‥‥…おう…」


菜月がそう言って部屋を後にしたのを見届けて、春海は暖房の電源を切った。


「俺が大人か‥……」


廊下はうって変わってとても冷えていた。






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