エピローグ(1/2)

ドタバタの生放送からひと月が経った。

空達とA4Uのコラボ曲は放送後一気に再生数が増えた。

A4Uの動画再生数も増えてはいたけれど、音声のみにしてからは誹謗中傷も少なくなっていた。


アキとミモザは今日、久々に電車で大きな駅までやってきた。

この駅の前には大きな大きなスクリーンがある。


「もー、なんで待ち合わせ場所がここなのぅ?」

背中を丸めて縮こまるミモザにアキが明るく笑いかける。

「それはもちろんっ、大画面で堪能できるようにだよっ」

「だからそれが恥ずかしいんだってば……」

アキは道ゆく人々がスクリーンを眺めながら通り過ぎてゆく様子を満足げに見渡している。

それにつられるようにして、ミモザも恐る恐る顔を上げた。

「結局、優勝は麗音さんだったよね」

アキの呟きに、ミモザがアキの顔を見る。

勝負には負けてしまったけれど、優勝者が麗音さんだったのは二人にとっても嬉しかった。

「麗音さん、すっごい泣いてたね……」

ミモザがあの日の事を思い出すようにしながら言う。

「うん、すっごい泣いてた。あれは号泣だったね」

「……私達の歌に感動してね」

「いやそこね。自分の受賞に感動してほしいよね」

「本当にねぇ」

涙でべしょべしょの麗音さんに「貴女らの歌声は至高だ!!」と伝えられて、この人はやっぱりLeonNoteさんだ……。と納得したりもした。


麗音さんのお父さんとお母さんも、番組を見てちょっとだけ、麗音さんの音楽を認めてくれたらしい。

音楽の『方向性の違い問題』ってよく聞く話だけど、それがまさか家庭でも起こるなんてね。

優勝はテレビの前の視聴者さん達の投票で決まったんだから、私達はまだまだなんだなって、あの時はちょっと落ち込んだりもした。


そんな私達のところにメールが届いたのは、放送から三日後の事だった。


「あっほら出たよっ! ミモザっ!」

アキの弾む声に、ミモザが近くの銅像の影へササっと姿を隠す。

大スクリーンに映るのは、空とA4Uコラボの二曲目の曲がレコード会社からリリースされる旨のCMだった。曲タイトルは『明け空に咲く花』と書かれている。

恥ずかしすぎて直視できないミモザとは違い、アキは満足そうに頷いている。

「アキちゃん、もう行こうよぅ……」

「ええー、もう一回見たかったなぁ」

「次いつ映るかわかんないじゃない……」

「電車の中でCM流れた時はビックリしたね!」

「うん……音がなくてよかった……」

「ええー、音があったらよかったのに」

「やだもぅ、こんなの恥ずかしすぎるよぅぅぅ」

半べそになるミモザの背を撫でて、アキはスクリーンとは反対側を指差す。

「わかったわかった。じゃあほらコンビニ行こ? 今日の新作お菓子は私が奢っちゃうから!」

アキは生放送後、弟妹からの見る目がちょっとだけ変わって、なぜかお小遣いもアップしていた。

寝坊常習犯のダメ姉から、遅刻知らずの歌うま姉へと進化できたのも、全部空さんのおかげだよね。


ミモザの背を押すようにしてコンビニに入れば、そこは変わらず二人にとってのパラダイスだった。

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