実況14 “気弾”の正体についての考察、その他(解説:GOU)

 俺は、自分の仮想端末ウインドウに表示した魔法スクリプトの最終チェックを行っていた。

 LUNAルナに頼まれたものだ。

 彼女もようやく、小回りの利く中級魔法が欲しいと思い至ってくれたらしい。非常に有難い事だ。

 例によって、本人から渡された草稿は★15消費・先日のキリエ古城跡が消し飛んでクレーターになるレベルの内容だったので、これを★2~4相当のものにまで書き直した。

 彼女のお陰で、俺の“圧縮技術”もかなり鍛えられたと思う。

 

【死の息吹(★2~4)

 バスケットボール大の“気弾”を撃ち出す】


 以前、彼女がちらりと解説したそうだが、“波動拳”をモチーフとしたスクリプトだ。

 とは言え、天から降臨させると言う、このゲームの魔法の仕様上、そのままでは真っ直ぐに飛ばせない。

 “必殺技”として石ころでも投げる動作に付加する、苦肉の策で対応した。

 彼女は波動拳の属性が果たして打撃なのか熱エネルギーなのかで悩んでいたようだが、俺が大昔の資料ストリートファイターシリーズの動画を観た限りでは、被害の質は“打撃”であると解釈出来た。

 しかし、充分な打撃力を伴わせるには弾速があまりにも遅いと思った。

 いや、波動拳がそれこそ音速で飛んで行ったら、ゲームにならないのは重々承知しているが。

 ただ、俺のこの無粋な着想は、逆に開発に進展をもたらしてくれた。

 弾速が遅い、それ自体は一概に悪くは無い。

 尚且つ、命中時に充分な破壊が生じれば良いのだ。

 具体的には“気弾”が何らかの物体に接触した地点に、圧力波ーー言い換えれば衝撃刃が放射する設定にすれば良い。

 これも野暮な重箱の隅つつきなのかも知れないが、元ネタの波動拳は、被弾者にダメージが生じていた。

 これは波動拳が弾丸と言うよりは機雷に近い性質を持っているからだと解釈した。

 勿論、容赦無く音速で飛ぶパターンも作ったが。

 HARUTOハルトの回復魔法と同様、望む威力に応じて発動時の★消費を調整出来るようにした。

 ★消費に比例して、気弾のスピードも上がる仕組みだ。

 五行スクリプトの文法的には、木行の風属性としてのイメージと“成長”を拡大解釈して膨張の性質を付与し、後は少々の金行の“変化、変質”の性質を拝借する事になるだろう。

 ……最終チェック、異常無し。

 魔法は問題なく仕上がったようだ。

 

 LUNAルナがこの魔法案を持ち掛けてきたのは、先日の“人喰い庭園”戦で思う所があった為だろう。

 正確には、それより以前からKAIカイに言われて居た事に、ようやく耳を貸す気になったのだろう。

 あの戦いは、俺達パーティにとってあらゆる角度から進歩をもたらした。

 あれからも何件か甲種を始末するクエストをこなして来た。

 負けた事もあったが、最終的な収入は飛躍的に伸びた。

 今や俺達の、このゲームにおける生活は完全に安定していた。

 勿論、金だけではない。

 特に俺にとっては「状況を“映像”として脳に焼き付け、360度シミュレートし続けろ」……後ろにも目を付けろと言う言葉一つで実戦の見方ががらりと変わった。

 表向きの疎遠なやり取りは変わらないものの、少なくとも俺やLUNAルナの、彼への印象はかなり変わったと思っている。

 ……俺は、あの時のターゲットが俗に言う“★潰し”であった事を最初から把握していた。

 と言うより、クエストの選定は実質俺達二人の仕事になっていたからだ。

 無謀だとは思った。

 反対しようと思えば出来たし、その場合、彼も俺の意見を尊重してくれただろう。

 簡潔に言えば、好奇心に負けた。

 彼が持って来た、一見して訳の分からない話をスルー出来ない体質になっていた。

 前回、彼と共にプレイしていたゲームの時点で、俺は彼の事を“得体が知れない、ともすれば気味が悪い”と認識していた。

 だが、今は。

 少しずつ、彼の事が分かって来た気がした。

 恐らく、彼があの時“人喰い庭園”をターゲットに選んだのは、このパーティ内の(様々な意味での)好転を狙ってのものだったろう。

 俺達とKAIカイの間にある溝をどうにかしようと言うのも、その内に含まれていた筈だ。

 ただ彼は、それを“目標”としていたのでは無く“過程”の一つとしていたのだろうとも思う。

 パーティの問題を解決しようだとかの、打算も何も無い。

 ただ淡々と、パーティ全体の最適解を選び続けている。

 

 さて。

 早速、出来上がったスクリプトをLUNAルナに持って行こう。

 それと、MALIAマリアが海を見たいと提案していたか。

 別段、俺達には断る理由も無い。

 メンバー誰かの思い付きと言うのは、丁度良い旅の指標となるだろう。

 海が見える場所で、ここから最も近いと言えば、西へ40キロ程行った先にある海上都市バーンズだろうか。

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