実況11 何となく昔のことを思い出した。つまらなくても文句は言うなよ。(解説:KAI)

 おれはこう見えて、かつて中学教師をしていた。

 あの頃のおれは、熱意に満ち溢れていた。

 将来、この国を背負って立つ、無限の可能性を秘めた子供達。

 ……彼らを、VR世界なんかではない、きちんとした現実世界側の住人でいられるよう、面倒を見る仕事に誇りを持っていた。

 おれも若い頃は、どこか子供っぽいヤツだった。

 だから、学生達とも仕事抜きで気が合った。

 今じゃ、考えられない。

 そして多分、おれ個人にとっては、それがいけなかった。

 

 三年生の学年を受け持つようになった。

 自然、進路相談も仕事になる。

「夢が無いんです」

「将来とか、まだわからないです」

「目標って、持たなきゃダメなんですか?」

「焦らなきゃ、落伍者なんですか」

 皆、示し合わせたように同じ事を言ってくる。

 勿論、中には違う生徒もいた。

 自分の人生を、中三……いや、中二の頃から真剣に考えていたヤツはそれなりにいた。

 それが“考えられない側”の学友達を更に追い詰めて行った。

 何故だ。

 高校進学で頑張れないヤツは、大学進学も頑張れない。

 大学も頑張れないヤツは、就職も頑張れない。

 就職を頑張れなければ、人生終わりだ。

 シルバーゼリーなんてものを食わされ、死ぬまでVR空間を彷徨う事になるんだぞ!

 夢だと? 目標だと?

 そんなもの、社会に飛び込んでから見つける事だって出来るんだよ!

 ……おれが真実を話すと、まるで酷い裏切りを受けたかのように、傷ついた顔をしてヤツらは去って行った。

 それに。

 何を選べばいいのかわからない現実世界。

 それでも「選べ!」と強要してくる現実世界。

 そんなものよりも、無数のゲームに満ち溢れたVR空間のほうが、よほど生きるに値する。

 そんな声が次々に聴こえてきた。

 VRMMOのプレイヤーだって、立派な社会貢献だ。

 次世代の、精神的にも無理のない働き方なんだ。

 ……ヤツらは、自分自身に言い訳をすることにかけては頭が回る。

 そして。

 おれ自身、今となってはどちらが正しいのかわからない。

 おれは、三十路を前に現実世界を“降りた”よ。

 もしかして、おれが昔担当した3-D組の卒業生と、このゲームですれ違った事があるのかも知れないな。

 

 多くは語らないが、ゲーム世界でも、おれは後進を導けなかった。

 おれも含め、自分に妥協して逃げ込んできたヤツばかりだ。

 それにこのゲーム自体が万事、プレイヤーに至れり尽くせりの忖度に満ちている。

 ほどよく中世ファンタジー。

 ほどよく現代的。

 その両方の汚い部分はオミットされている、夢の世界。

 そのくせ、戦闘システムだけがシビアだ。

 プレイヤーには夢を見てもらいながらも、ほどよく苦労をしてもらわねばならない。

 そんな折衷の中で生まれた、アンバランスなのかも知れない。

 

 だが。

 近頃知り合った、あの若造は。

 HARUTOハルトだけは、何かが異質だ。

 いや、異質と言うよりは、おれ自身が遠い昔に知っていたーー「中二の頃から高校進学を頑張れていたタイプ」と同じなのだ。

 おれからすれば、あり得ない矛盾だった。

 そんなヤツ、そもそもVR側にわざわざ来たりはしないからだ。

 おれの二十年間がそれを証明している。

 あるいは、おれが間違っていたのか?

 VRMMOを、人生最良の進路だと確信するヤツも居ると言うのか。

 

 今ある、現実的な話に戻ろう。

 昔の職業病が染み付いているのか、どうしてもヤツらを“教えようと”身体が動いてしまうことがある。

 そしてHARUTOハルトは、恐らくおれの意図をほぼ正確に掴んでいる。

 ここまで、何かとおれへの強化魔法が多いのも、おれを戦力として当て込んでいるからだろう。

 おれが逆の立場なら、おれを弾よけ以外に使おうとは思わないし、これまでのパーティでは事実、いつも最後にはそうなっていた。

 だが、あそこまでおれのだらけた態度に対するスルー力が高いと、おれもそこそこ真剣にやらざるを得ない。

 近頃特に

 そして、その仲間達も……気づいているのかいないのか、ヤツに影響されて少しずつ変わってきている。

 

 おれも、

 あるいは?

 

 つまらない考えを、振り払う。

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