実況07 昏き深淵にて閃く我が爪牙、抑圧に燻らん(解説:LUNA)

 この遺跡……とにかく狭い!

 学校の廊下くらいの広さしかない通路が延々と続いている。

 確かに現実での遺跡なんてこんなものかも知れないし、ともすれば建物ですらない、吹きさらしの廃墟でしかない事の方が大半だろう。

 このゲームのダンジョンも、大抵はリアリティよりもプレイヤーの快適性だとか、攻略のし甲斐を優先して、広大な建物を生成されているのだけど。

 様々な需要に応えるためか、たまにこうした「現実の地下迷宮なんてこんなもんだよ」と無粋に突き付けくさるものが造られている事があった。

 そして今回、それを引き当ててしまったらしい。

 私達のパーティにとって大変ありがたくないことに。

「……環境を選り好みしていては、進歩が無い。行くぞ」

 鶴の一声で攻略決定。

 まあ、ここで撤退すると収穫が物足りないし、仕方がないのだけど。

 何が嫌って、私の選択肢がほぼほぼ【魔女の爪牙ヘクサネイル】しか無くなる事。

 こんな狭い所で★7以上の魔法をぶっぱなそうものなら、遺跡ごと私達が生き埋めになるだけだ。

 私達も遺跡も復活処理リスポーンはされるけど、だからと言って誰も得はしない。

 やっぱり、波動拳みたいな、威力を戦術規模に抑えたスキルをもう少し作るべきだったかな。ロマンとのバランスも取れてるし。

 でも、かめはめ波とか波動拳を撃った気になって喜ぶのって小学生まででしょう。

 それに、波動拳ってスクリプト的にも難しいんだよね。

 だってあれ、ダメージの性質が割りと曖昧だし。

 あれは打撃なのか、エネルギーで熱損を与えているのか。まず、属性が判然としない。

 ……と、話が横道に逸れた。

 ゴーレム姿のGOUゴウも、辛うじて通れる幅しかなく、前列に置けば他の仲間の行動を阻害するだけだ。

 最後尾に配置して、敵の分析などに徹してもらうしかない。

 

 ……あとはまあ、色んな意味で気になるのはMALIAマリアの存在かな。

 パーティに加入当初。まーた黒髪ロングだ、とまず思ってしまった。

 本当に、前ゲームからの因縁の相手であるINAイナもそうだし、それ以前に私とプレイした他3タイトルのゲームでも、悉くそうだった。

 HARUTOハルトと関わる女は皆、私も含めて黒髪ロングばかり。性格も、千差万別のように見えて、どこかしらキャラがかぶっている。

 ……彼の好み、と言うのが一番現実的なようで、一番あり得ない。

 言っちゃなんだけど、好みど真ん中のタイプが相当数引き寄せられるほど、“モテの試行回数”が多いキャラでも無いし。

 また、彼にそんな嗜好があるとは思えない。

 そもそも女に、明確なベクトルのある“興味”を持っているかすら怪しい。

 私は、彼がアセクシャルなのでは無いかと、半分疑っている。

 となると、彼にはそうした因果律が働いているのかも知れない。

 ……宿命に導かれし、黒き……黒き……、…………今は作戦行動中で、“こっち方面の”コンディションも悪いので、気の利いた続きが思い付かないな。

 悪い娘ではない、と今のところは判断している。

 あのキャラを狙ってやっているとしたら、大抵の同性からはすぐ見破られる。

 少なくとも、私は、そんな“要らないモデルケース”を嫌と言うほど知っている。

 ただまあ……服装が似ている上、ほぼ似たようなお腹周りウエストであるにも関わらず、胸だけあちらの方がほんの少し大きいのが、やっぱり面白くない。

 本当に誤差で、男どもは逆に気にしないレベルなのだろうけど。誓って負け惜しみではなく。

 戦闘用の服については、魔力的強化エンチャント技術が発達した世界と言う設定上、コートやローブのようなものばかりが用いられている。遠目で見たフォルムがかぶりやすいのは、これも仕方がない所はある。

 着心地としては、ほぼ普段着と変わらない。

 ローブに対衝撃ファイバーだとか混ぜ込まれている感じかな。

 鎧なんて窮屈なモノ、いちいち着なくていいようにって配慮だろうね。

 本当に、だと思う。

 まあ、話は彼女に戻すけど。

 仮にMALIAマリアが、この私でも見抜けないような一物を腹に持っていたとしても、HARUTOハルトがカモられるような光景は想像もつかないけれど。

 素直に、お互い節度ある関係でいれば問題ない。

 私は孤高の魔術師。他人に対して、好意も負の感情も抱かない。

 愛情の反対は憎悪ではなく、無関心ってトコ。

 

 狭い通路、くらい光景の中で人影のようなものが蠢いていた。

 何らかの方法で防腐処理された動屍体リビング・デッドや、スケルトンの群れだった。

 こんな閉所でも、一つだけメリットがあるのを思い出した。

 ドラゴンだのジャイアントのような大物が居ない、もしくは居たとしてもロクに動き回るスペースが無いことだ。

 とは言え、私達生物と違って肉体の保全を気にしなくて良い分、筋力がセーブされていない。貧相でみすぼらしい見た目に反した怪力と瞬発力は危険だ。

 ……リミッターを外して、真の力を、か。何となくスキルのインスピレーションをもらった気がするけど、考えるのは後だ。

 それと、「状態の良い死体」が都合よく、無尽蔵に生み出されるのもVRMMOならではの光景だと思う。

 こいつらは、この世に生まれた瞬間から、成人の死体を使ったゾンビ・スケルトンなのだから。


★★★★★★★★★★

【1ターンスケジュール】

HARUTO 筋力増強(★5)→対象者:KAI

LUNA   ヘクサネイル(★3)

GOU   戦う

KAI    戦う

MALIA  アースグレイブ(★2)

 

 さすがに他の仲間達も、かなり行動が制限されている。

 特にMALIAマリアは、あの大きな鎌を振り回すスペースは無いし、かといって、石つぶてのマシンガンとも言うべきストーンショットでは、誤射の危険がある。

 そうなると、HARUTOハルトKAIカイの強化からスタートするのも、一応理解できる。

 素早く強化された老兵が、緊急事態にしてはノロノロした足取りで最前列に出た。

 実際には間に合ってるからいいものの、やっぱり態度が悪いな。

 次にMALIAマリアが壁に手をついて“接地”。

 突然、私達から見て遥か前方、左側の壁が鋭利な穂先と化して、中肉中背の男の形をしたリビングデッドを貫いた。

 昆虫標本のように刺し留められた死者の脳天を、HARUTOハルトのメイスが粉砕した。

 狭い通路を無理やり通り抜けてきたスケルトンが、メイスを振った直後の彼に斧を振りかぶるがーーKAIカイの突き出した大剣に、刺されると言うより車か何かに轢かれるような勢いで押し戻された。

 私も、ただ見ていたわけではない。

 左手の封印を解くと、高らかに挙げて、そして振り下ろす。

 一瞬、具現化した魔力の剣が私の手から伸びて、なおも向かってきたスケルトンを、唐竹割りに両断した。

 魔女の爪牙ヘクサネイル

 私が持つ、唯一の近接魔法だ。

 実在する鎌を造り出すMALIAマリアのそれとは違い、“切断”と言う概念そのものを手の先に形成する、非実体の剣。

 メリットは、物質的な重さが無い事、装甲とかに阻害されないから貫通性能が高い事。

 デメリットは、一瞬で消えるから当てるのがシビアな事と、質量が無いので敵の攻撃をブロックする用途には使えない事。

 まだまだ、リビングデッドとスケルトンが、狭い通路を奪い合うようにして押し寄せてくる。

 自由に動けないのは、私達もアンデッドどもも同じ。

 KAIカイが大振りな剣で器用に奴らの進路を妨害しているけど、さすがにMALIAマリアが前衛に参加できず、GOUゴウをただの置物にせざるを得ない状況。

 一人ではキツそうだ。

 まあ、たまには真面目に働いたら? とも思うけど。


★★★★★★★★★★

【1ターンスケジュール】

HARUTO 筋力増強(★5)→対象者:HARUTO

LUNA   ヘクサネイル(★3)

GOU   戦う

KAI    戦う

MALIA  アースグレイブ(★2)

 

 泥仕合はまだまだ続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る