実況03 我がパーティに於けるスキル自作状況(解説:GOU)

 もう一つ、このゲーム・HEAVEN&EDENには目玉となるシステムがある。

 スキル自作システムである。

 パーティ内では俺の管轄でもある。説明させて貰おう。

 

 読んで字の如くだ。

 このゲームは、プレイヤーの一人一人がオリジナルの魔法や必殺技、身体強化や毒耐性のような常駐パッシブスキルを自由に作る事が出来る。

 その為には、自分の思い描いた“思考”をゲーム側のシステムと言う“機械”が理解出来るように機械言語スクリプトを組まなければならない。

 勿論、単純なものであればNPCの魔法屋から買う事は出来る。

 だが、NPC販売のスキル等、必要最低限でしか無い。

 他プレイヤーの組んだスクリプトを売り買いするのも自由だが……出来の良いもの程高価なのは言うまでも無い。

 自作出来れば理想的なので、俺がその役割を請け負う事にした。

 元々俺は、どんなゲームでも物作りが性に合っていた。

 だから、パーティの仲間がスキルでやりたい事を俺に提示し、双方で擦り合わせつつスクリプトに書き起こして行く訳だが……。

 彼女ルナにこんなオモチャを与えたら、どんな悲劇を招くか……分からない俺達では無かった筈なんだがな。

 俺はゲームに標準装備されている仮想端末ウインドウを目の前に映していた。

 これを見て欲しい。

 現在、彼女が持っているスキルの一覧だ。()内は消費コストを意味する。


魔女の爪牙ヘクサネイル(★3)

・死蒼天のカーネイジ・シュテルン(★9)

・虚偽のニブルヘイム(★7)

・ヴォイド・ブルート(★8)

・インフィニティ・クライノート(★9)

 

 ……これでも、俺が改稿に改稿を重ねて現実的なコストに抑えた程だ。

 彼女は、なまじスクリプトを自分で書くセンスが優れている為、とんでもない仕様の草稿を寄越して来るのだ。

 作ったスキルの消費コストは、ゲームの運営AIに判定され、決められる。

 当然、効果が強い程、高コストに設定されてしまう。

 ……最初、彼女が俺に持って来た段階では、平気で★10オーバーのコストになっていた。

 酷いものになると、★35のものさえあった。

 当然、★10を遣り繰りする戦闘システムだから、発動すら出来ない机上の空論だ。

 思い出すだけで頭が痛くなって来た。

 俺の苦労を、お分かり頂けただろうか?

 なお、HARUTOハルトはこのゲームでは回復魔法や強化バフ魔法を主体とするヒーラーでプレイしている。

 彼のスキルは以下の通り。


・微動回復(★1~3)

・汎回復(★4~6)

・完治(★8)

・範囲治癒(★7~9)

・蘇生(★9)

・状態異常初期化(★1~3)

・筋力増強(★5)

・反射神経増強(★4)

 

 味気無いと思われるかも知れないが、作る側からすれば非常に模範的だ。

 全てのコスト帯をカバーする事で、ターン切り替えを迅速に行えるように考えてあるのも良い所だ。

 なお、俺のスキルは実戦の際に追々説明するが、ゴーレムを自分にドッキングさせる事での盾役タンク、及び、ゴーレムでしか持てないような特大弓による後衛への砲撃だ。

 LUNAルナの存在は、最早小回りの利かない主砲と割り切るしか無いので、反対に俺の戦闘スキルは低コストを徹底した。

 有り合わせのパーツで応用するのも嫌いでは無い。

 

 話はスキル、及びそのスクリプトの仕様に戻す。

 このスクリプトは“五行属性のモデル”と呼ばれる言語がベースとなっている。

 あの、木火土金水の五要素を世界の構成元素とする、中国から伝わる自然哲学だ。

 一見してたったの五属性と思われるかも知れない。

 だが、例えばここで言う“火”とは、単純な燃焼だけを意味しない。

 観念的・抽象的な“火”の性質にも関わり「右脳的な能力を高める」バフ魔法や、ともすれば熱力学的な分野もカバー出来るので“冷気”の魔法を作る際にも必要となる。

 元となった中国の五行思想よりも物理的・抽象的に広範囲なカスタマイズが可能で“浄化”のイメージから解毒魔法も作り出せる。

 NPCが店売りする魔法が最低限の性能と評したのは、この創意工夫が無いからだ。

 それこそ、“火”の属性には火炎放射のような魔法しか無い。

 また、意外な事に木行は“稲妻”のモチーフにもなり得る。

 先刻、LUNAルナが放ったカーネイジ・シュテルンの落雷群は、火・水・木・金の四属性が複雑に絡み合ったスクリプトなのだ。

 通常、五行同士には相剋・相生と言う概念があるので、多属性が絡む程に扱いが難しいのだが。

 本当に、単純に強い魔法を作るセンスはある。……そのままでは使い物にならないのが難点だが。

 ただ、彼女の魔法は発動の起点として設定した“トリガーアクション”の制約がきつい。

 左手にはめた手袋を外し、発光させる。

 その上、あの長い詠唱が必要となる。

 これは、俺が説得半分に提案したやり方だった。

 運営AIにスキルスクリプトを提出する際、トリガーアクションの制約が重ければ重い程、★のコストを減らしてくれる傾向にある。

 なるべく彼女の要望を最大限反映した上、如何にも彼女が好みそうなトリガーアクションを設定させる事で本人の満足度を落とさず、かつ、コスト削減に成功した。

 ……そこまでするくらいなら、俺が一から作れと言う声が聴こえてきそうだが。

 俺はどのゲームに於いても、他人の育成方針ビルドに口出しはしない主義だ。

 彼女でなくとも、唯でさえこのゲームのプレイヤーは、自作スキルに対するプライドも高い。

 だから、奥義や大魔法レベルのスクリプトが市場に出回る事も滅多にない。

 そしてこの、詠唱と言う名の長口上トリガーアクションについては、デメリットばかりでも無い。

 ★7以上クラスの戦略級魔法としては、寧ろポピュラーな手法ですらある。

 と言うのも、魔法発動時のコスト消費とは、詠唱の時点で行われる。

 しかし、既に聴いたと思うが、あんな長口上を完成させるにはリアルタイムにして3~5ターンは掛かってしまう。

 言い方を変えてみよう。

 詠唱が完了し、実際に魔法が影響を及ぼすターンではのだ。

 詠唱を始めたターンに、既に先払いしているのだから。

 つまり、この時間差を利用すれば魔法が実際に発動するターンに、他のメンバーが★10をフル活用して動ける。

 波状攻撃が可能とも言えるのだ。

 

 それともう二つばかり、簡潔に説明しよう。

 この世界のストーリーは、魔法を発見した宗教国家を中心として文明が栄えたと言う設定だ。

 そしてそれは「天の奇跡を運用している」と言う題目とされている。

 そんな設定だからだろうか。

 このゲームに於ける魔法は全て、起こした現象が上から下へと落ちていく挙動を取る。

 炎の攻撃魔法であれば必ず頭上から炎が放射されるし、冷気の魔法であれば頭上から吹雪が襲って来る。 

 回復魔法ですら例外では無く、頭部以外の部位を治したければ、患者が横たわらねばならない。 

 さもないと、治癒エネルギーが頭部に当たって無駄に減衰し、胴体以下への回復効率が落ちてしまう。

 流石に本人の身体を動かす必殺技については、この限りではない。横ベクトルにも動ける。

 

 そして最後にもう一つ。

 これもシナリオにちなんだ設定なのか。

 実は、俺達プレイヤーが使える属性は、火・水・木・金の四種のみだ。

 土だけが、スクリプト的にロックされていて使えない。

 これも“天の”奇跡と相反するイメージからだろうか。

 ポピュラーで自由度が高いようでいて、妙に不便なシステムをしていると思う。

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