プレイ記録

実況01 死蒼天のカーネイジ・シュテルン(解説:LUNA)

 ーー虚無より生まれし神威に告ぐ。我が言の葉に呼応せよ。

 無謬むびゅうなりし聖別の時は来たり。

 我が左手を依り代とし、創世の約定を果たすが良い!

 ーー死蒼天しそうてん根絶明星カーネイジ・シュテルン

 

 私が断罪の詩歌を結んだ直後。

 夜の清流がごとき私の黒髪と、空色の魔法衣とがはげしくはためく。

 空に光が飽和し、果てしない雷鳴が無数、砕け乱れる。

 法外な電気エネルギーが、私と対峙していた狼男の群れを蹂躙し、焼き尽くし、灰塵に帰した。

 生焼けの獣が発する臭気と、やはり焦げと生焼けの肉・体毛の塊だけが遺されていた。

 ーー私の名は、LUNAルナとでもしておこう。

 その名の通り、私を敵に回した者は、ことごとくが恐怖・恐慌・狂乱†ルナティック†に支配され、己の所業を悔やむ事となる。

 私は、自分の左手を目線の高さに掲げた。

 今しがた行使した大魔術の余韻か……未だに紅き光が明滅している。

 殺戮の残滓。

 このままでは些か危険だ。

 私は手袋をはめ、危険極まりない“左手”を封印ーー、

 

「無駄が多すぎる」

 

 背後から、深く、そしてしわがれたような男の声がした。

 見れば、カーキ色のコートを着た、50歳ちょっとの男が私に近付いて来ていた。……パーティの仲間、だ。一応。

「まず、そのスキル名だ。しっ……しそ、うて???」

「死、蒼、天、です」

 ムッとなったけど、なるべく不満を抑えて私は啓蒙してあげた。

「……とにかく! 死蒼天の、カーネイジ、シュテルンとは何だ! 日本語・英語・ドイツ語の三ヶ国語を一つのスキルの名前に盛り込んでどうするつもりだ!」

「私の信念です。KAIカイさんには関係ありません。干渉しないでくれますか?」

 一応、パーティメンバーであるKAIカイの小言を、私はきっぱり拒絶した。

「何だその言いぐさは。おれは、実害があるから指摘してる。

 スキル名とは、過不足なく、誰が見てもわかりやすいようにするものだ。それが、実戦のレスポンスに直結するんだ!

 第一“トリガーアクション”も無駄だらけだ。何だ、その左手のーー」

「もう結構です。これくらいで終わらせましょう」

 私は、そろそろわめき散らしそうな剣幕の老兵に手振りだけして、話を打ち切った。

 向こうもプライドがあるのか、背を向ける私に、掴みかかってまで持論を押し付ける気はないらしい。

「おれは、やがて二十年、このゲーム一筋でやっている」

「私には関係ない話です」

「好きにしろ」

「好きにします」

「後でパーティに弊害が出たら責任を取るんだな」

「そうします。私達、そんなヘマするパーティじゃないですけどね」

 はぁ……。

 “彼”はどうしてこんな人を仲間にしたのか。

 私達の(事実上の)リーダーである男“HARUTOハルト”の事は、滅多に疑わないんだけど……こればかりは疑いたくもなる。

 こちらの話もろくに聞かず、頭から押さえつけてこようとする、傲慢な人種。

 こんなヒトこそ、パーティの調和に影響をもたらすに違いない。

 少なくとも、このオヤジと私とは、絶対にわかり合えそうにはない。

 

「……かと言って、我々には選り好みする余地は無いだろう」

 頭から全身を漆黒のローブで包み込んだ、冷然とした男……私にとってはゲーム4タイトル分の付き合いとなる男、HARUTOハルトが身も蓋もない事を言った。

「……このゲームは、思った以上にプレイヤーが閉鎖的だ」

 あと余談だけど、この男はほぼ全ての発言の前にいちいち、独特の沈黙を置く。

 その間に、その時々での最適解を超演算してるのでは? と言うのが私の見解だ。

 とにかく話を戻して。

 私達は、このゲームを始めて、まだ数日の新入りだった。

 前のゲームでもパーティを組んでいた、このHARUTOハルトと、もう一人、GOUゴウと言う男と三人で移住してきたが……パーティメンバーがなかなか集まらない。

 多分、私達の直近の“経歴”も悪いのだと思う。

 要するに、どんなゲームから移住してきたのかと言うこと。

 ……核戦争後の世紀末世界で、ヒャッハーを叫ぶ野盗としてプレイするVRMMOから引っ越してきた。

 そう言われて、果たして貴方は、関り合いになりたいだろうか?

 遥か昔、ゲームがテレビで動いていた時代ならいざ知らず、現代のゲームはリアルなVR空間でプレイするもの。

 NPC相手とは言え、強盗殺人を何度も繰り返すような人間が、真っ白で健全なメンタルであろうはずもない。

 まして、プレイヤー同士での殺し合いも日常茶飯事だった。

 誰が誰を殺しても、誰が誰のせいで死んでも、どうせ生き返るのだからね。

 このゲーム“HEAVEN&EDEN”は、そんな世紀末ゲームに比べれば相当ポップで、かつ、お上品な世界ではある。

 いかにもな和製ファンタジーJRPGや、ライトノベルにありそうな世界。

 けれど、VRとは関係の無い、現実で生きる人達からすれば、モンスターと殺し合っているこの世界の住人も同類に見えるのでは、と思うけど。

 とにかく、話はさっきのオヤジに戻そう。

 あのKAIカイと言う男は、そんな私達が辛うじて捕まえた仲間の一人だった。

 このオヤジもこのオヤジで、何をして来たのやら、この界隈でははぐれものだった。

 選り好みの余地がないのは、あっちもじゃないのかなって思うけど?

「……自分にとっては良い機会とも思った。

 一つのタイトルを一点特化でプレイして来た人からは、学ぶ事も多い筈だ」

 まあ、私達は逆に、短期スパンでゲームをあちこち渡り歩いて来たからね。

 そう言う意味では、あのオヤジは私達とは、HARUTOハルトとは対照的だ。

 けど。

 口ばかりなんだよね、あのオヤジ。

 いや、本気を出せば二十年やって来たなりの年季があって、戦闘中にその片鱗を見せる事は何度かあった。

 でも、それが何だと言うのか。

 私からすれば、それはただの怠慢だ。

 実際、余程のピンチで無いと、あの男はろくに技を出さない。

 本気を出せば強い。

 裏を返せば、本気を出さなければ戦力にならない。

 現実の戦術とは、最悪の条件をベースに考えるものだろう。

 したがって、私にとってのこのオヤジの戦力とは、手を抜いてやがる時を基準としている。

 現実は、漫画じゃない。

 そんな事、私なんかより余程わかってる筈のHARUTOハルトは、けれど何も言わない。

 ……。

 彼は、いつだって私達の一歩先を見ている。

 そして

 けれどそれは、

 どれだけの時間を共にすれば、私にもそれがわかるのだろうか。

 

 あと、こんな事自分で言うのも何だけど……この人、私のややこしい技名を一度聞いただけで完全に覚えてるんだよね。

 作戦中、滞りなく、スラスラ言うの。

 死蒼天のカーネイジ・シュテルンを準備しろ、とか。

 彼のそう言うトコ、割りと好き。

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