第3話「悲惨な最期」

 俺の妹は熱中しやすい性格だ。幼少期から好奇心旺盛おうせいで、とにかく趣味がコロコロと変わるやつだった。

 先月は、急に手打ち蕎麦そばに挑戦すると言い出し勝手にキッチンを占領した。そのため俺は、まだ春なのにはち蕎麦そばを連日食わされたのだ。しかも初めの数日はでる前に生地きじがブチブチ切れてしまい、全てが「食後、ざるの下から出てくる麺」の長さになっていた。

 よく考えたら、俺はその頃から妹の趣味に巻き込まれている。


「ただいまー」

 俺は今日も定時で仕事を切り上げて帰宅した。帰りにスーパーで買った三日分程度の食料をキッチンへ運び、必要に応じて冷蔵庫に仕舞しまってゆく。その時「おかえりー」と言いながら黒いパーカー姿の妹が現れ、ダイニングの椅子いすに座った。

「あぁそうだ。明日あした俺、残業が決まっててさ。まあそんなに遅くはならないだろうけど、夕飯作る時間はないだろうからもう外食にしようと思ってるんだけど……それともお前なんか料理するか?」

「しないっ! 外食がいい!」

 妹は目をキラキラさせてい気味に答えた。

「まぁ、だろうな。じゃあ何処どこ行きたい。もう決めておこう」

 俺は冷蔵庫のとびらをパタムと閉じて、妹と向かい合うように椅子いすに座った。妹は腕を組んで「うーん、どうしようかなー。ドコがいいかなーまようなー。あー困ったぞー」と棒読みで悩んでいる。何故なぜだろう、嫌な予感がする。妹は例のレザーケースをしたり顔で印籠いんろうのように取り出した。

「そんな時はコレ! タロットに決めてもらえばいいじゃない!」

 俺は頭をかかえ「あー、ホント事前に言っといて良かった。明日あしたの疲れた後でこれ見たら気絶するわ」とぼやく。

 妹はわざわさパーカーを一度脱いでからまた羽織はおり、フードをかぶってカードをシャッフルし始めた。

「よし。ではどの店が貴方あなたに適しているか占ってゆくわね」

「おう、なんでもいからさっさと決めてくれ」

 妹はカットしながら「今回はツーオラクルでやってみようと思うの」と言い、カードの山から二枚引いてテーブルに裏向きで並べた。

「それは、なにか前と違うのか」

「ええ。たしかどちらかが未来を示すカードで、なんか時間の流れが占えるとか、多分そんな感じのスプレッドよ」

随分ずいぶん、あやふやだな」

 妹は「恐らくこっちが現状を表す方だと思うのだけど」と言って、向かって右側のカードをめくった。そこには、三本のけんつらぬかれた大きなハートマークがえがかれていた。背景は曇天どんてん横殴よこなぐりの雨で、赤いハートマーク以外はほとんど灰色でられている。

 妹は「なるほど」と小さくつぶやいた後「どうやらまだ気付けていないようね。落ち着いて、胸に手を当てて聞いてちょうだい」と俺に指示した。飲食店を決める前に反省すべきことでもあるのだろうか、取りえず俺は指示にしたがった。

「今、貴方あなたの胸には刃物が三つ刺さっているわ」

こわっ! なにそれ、こわっ!」

 俺は思わず立ち上がった。

「ああ取り乱してはダメよ! 傷口が広がるわ」

「ねぇよ傷口なんて! なにも刺さってねぇんだから。大体三つ刺さってるってどういう状況なんだよ!」

「そうねぇ。もしかして貴方あなたたるの中に入ってけんで刺される仕事していらして?」

「それ危機⚪︎髪の黒ひげだろ! 俺じゃねぇよ!」

「あらそう。やはり二枚目を見ないことには全貌ぜんぼうが見えないわね」

 妹はそう言って残ったカードをめくった。そこには、甲冑かっちゅうを身につけ白い馬に乗ってモノクロのもんしょうたずさえた骸骨がいこつえがかれていた。骸骨がいこつの前に立つ者達は狼狽うろたえている。骸骨がいこつが通り過ぎた後には力きた人が転がっている。カードのたんには「DEATH」と書かれていた。

「おい、デスって書いてあるぞ。大丈夫か、このカード」

「ソードの3と死神。どちらも正位置」

「おう、大丈夫なのか、これ」

 妹は目をつむり「貴方あなたは心臓を刃物でつらぬかれ、死にます」と予言した。

「ぎゃあああ! そりゃそうなるよ、デスだもん!」

明日あすの午後は、刃物で心臓をつらぬかれたのち、息を引き取るでしょう」

なんで天気予報風に言い直したんだよ!」

 占いというものはもっとめいりょうでフワフワしたこと言うものだと思っていたが、これ程はっきりと死期が出ることもあるのか。しかし妹がやった雑な占いだ、当たっていないことを願いたい。

「つーか外食関係ねぇじゃねぇか! なんで食いに行って死ななきゃならねぇんだよ! ウェイターにでも刺されるのか、俺」

「ああそういえば忘れていたわ。明日あす行くべき飲食店をいていたのよね」

 妹はソードの3の絵をまじまじと見つめた。

「ソード、ハート、飲食店、心臓……。心臓で食べ物と言えばハツ? なら焼き鳥ってことかしら? たしかかに、けんくしに見えないこともないわね」

 ブツブツ言っている妹に俺は「その死んでるんだが、問題ないのか」と不安な点をてきした。

「天にものぼ美味おいしさってことじゃないかしら」

「どちらかと言うとごくに落ちてないか? そのカード」

「それなら、地をうような美味おいしさよ」

美味おいしくなさそうだろ、それ。食中毒起こしてそうだろ」

「じゃあ焼き鳥はけるということで、今回の結果をまとめましょう」

 妹は一度深呼吸をした後「あいだをとって、焼肉に行きなさい」と言った。

「じゃあ焼肉行きたいってスッと言えよ! 完全に占いらなかっただろ!」

 時間を無駄にし、不安だけつのらせて、明日あすの夕飯は焼肉に決定した。


 つづく


宮瀧みやたきトモきんのタロット豆知識!』

 どうもこんにちは。今回のテーマは「ソードの3」と「死神」、「スプレッド」の三つです。

 ず、タロットにおいてソードは知性の象徴しょうちょうです。同時に武器でもあるため争い事も象徴しょうちょうします。ソードの3は、避けられない悲しみを表しています。正位置では「悲哀、別れ、争い」などを意味します。このカードが逆位置で出ると、多くの場合は正位置の悪い面が強調された意味になります。つまり「深い悲しみを抱く、苦悩を断ち切れない」などとリーディングするのです。

 次に死神のカードは、生まれ変わるべきであることを表しています。正位置では「自己変革、再出発、終了」などを意味します。従来の方法が通用しなくなるので、自身をつくり変えようと努力しなければなりません。死神は改革できれば事態が好転し、できなければ悪化することを暗示します。また、逆位置では「改革できていない、結論が出ない」などを意味します。事態の悪化がすでに始まっていることを暗示しますが、結局のところ変わるべきであることを表しているので正逆で意味がそれほど変わりません。

 続いて、タロット占いの手順を簡単に説明します。ず初めに占いたい内容を決め、出来るだけ具体的で分かりやすい質問形式に変えます。次にその質問の返答に適していそうなスプレッドを選びます。後はカードをシャッフル&カットして、決めたスプレッドの通りにカードを並べてリーディングするだけです。

 それではこれから実践的なスプレッドを三種類だけ紹介します。ず一つ目はスリーカードです。このスプレッドは左から横一列に三枚並べるだけです。置いた順に過去、現在、未来を示すカードになっています。

 二つ目はフォーカードです。このスプレッドはスリーカードの未来を示すカードの右にもう一枚並べます。四枚のカードは置いた順に過去、現在、未来、最終結果を示します。タロットにおける未来とは「少し先の事」を、最終結果とは「ずっと先の事」を意味します。

 三つ目は二者択一です。これはAとBの選択に迷った際に使うスプレッドです。このスプレッドはV字型になるようにカードを五枚並べます。左をA、右をBとすると、中央の一枚が現在、その左上がAの未来、その左上がAの最終結果を示します。同様に現在のカードの右上がBの未来、その右上がBの最終結果を示します。

 今回紹介した三つのスプレッドだけでも占えることは山ほどあります。ただしタロット占いは未来予知ではないということに注意してください。タロットにおいて未来や最終結果はこれからの行動によって変わるものであり、さほど重要ではありません。ではタロット占いにおいて一番重要なのは何でしょうか。

 答えは「占う前に質問内容を具体的にすること」です。換言かんげんすれば、質問者の人生における問題点をはっきりさせることに意味があります。それ以外は全てオマケです。つまりリーディングの結果なんてどうだっていいんです。占いで得た助言が気に入らなければ無視したってかまわないとわたしは思っています。極端な話、質問内容をまとめながらシャッフルしている時に問題の対策案がひらめいたならそのままカードを箱に仕舞しまってOKです。大切なのは、貴方あなたが問題点を認識し事態を改善するための行動を起こすこと、それだけだからです。

 では今回はここまで。さようなら、次回をお楽しみに。

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