藤垣の表紙絵
藤柿
モーニングソング
藤垣の表紙絵
──らぁ たらたら たらたったらぁ らーったらぁらららーあ──
まだ誰も居ない朝の教室。
開け放った窓から差してくる淡い光に包まれて、捲ったセーラーの袖が耀く。
──たーっらたららたったたらー たら たららーら たーらたったらぁら──
教卓の、飴色に焼けた天板に投げる「ら」とか「た」は青っぽい鼠色の床に転って、溶けた氷みたいに輝くリノリウムに丸い波紋を描いてゆく。
──った・らー、た・らーらーらー らぁら
たらら、ったら、んたらった・んたたらぁーラララ──
とは言いつつ、そこに浮かぶ四十の机は動かない。ベージュの脚に錆の靴下を履いたそいつらは暑いわけでも寒いわけでもない、のかも知れない。そうかと思えば、大きな風の塊が銀色の窓枠をくぐって吹いて来る。
──らぁラ・ララララララララ ララタラフタララ
らったらったたー ラッタララッタタ──
どこまでも広がる青空は、カーテンがはためき膨らむのさえ小さく見せる。黒板のごとき深緑の山々が遠く霞むのは、器の端に盛った奈良漬けのごときだー、なんてね。
──たっ、ララララララ・ラッタララッタター
ンタララ・ンタラタ・ラララッタラらあーぁ──
チョークの白は雲間の白か、あるいは制服の白か?
いずれにせよ裾の紺に混じって何が悪い!
──らーったらたら たあたったらぁー らーったらぁらららーあ
たーっらたららたったたらー たら たららーら たーらたったらぁたららら──
扇代わりの黒板消しは手の平にぺったりとくっつき、広げた両手と宙を舞う。それこそ、二十畳はあろう教室もすでに四畳半くらいなもんだ。
──うたたら んたたら んたらたたんたららった たんたらたらたた
たたらたんたららった んたたら たんたららった たらたった
たらた らぁ ら、ら、らぁーぁ──
さあ今日も良い感じに一本打ったぜと言ったところで、教室のいかにも立て付けの悪い木製の敷居が大仰な音を立てるのは本日二回目。
オレは教室に入って真っ先に、目の前の女に言った。
「だから歌詞を歌えよ」
「だからないんだってーっ」
歌う女は答えた。無いらしい。
そこそこの背丈のわりに弾けんばかりのポニテがうるさい。それから、肘くらいまで捲り上げた白いセーラーの両手と一緒に舞っていて、取り敢えずこういう見ると少女と言った方が正確だったかもしれない。
まあ、ともかく。
この女子
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