罪悪感の少女

「あの...古屋さん。」


「ナナでいい。ナナも冴と呼ぶ。」


「ナナちゃんはどうして私を助けてくれるの?今まで興味も無かったと思うのに。」


七加は目を伏せながら頭を掻いた。

恐らく無意識による行動だろう。

そして気まずそうに再び大きな目で瞬きをして口を開いた。


「悪いと思ったから。今までナナは確かに興味なんてなかった。だけど似千花が亡くなって冴には守る人がいなくなった。似千花はアンタへの虐めを原因に亡くなった。

そんなに酷いものだとは見てなかったから知らなかった。見て見ぬふりをしてたことに少し罪悪感を抱いて.....それだけだよ。」


それだけ、の割にそこそこ長尺で話した七加は兎に角というように優しく冴の手をとった。罪滅ぼしのために自分を守ってくれるという理由に一応納得した冴はその手を握り返し少しだけ綻びた七加の顔を眺める。


「ナナちゃんって凄く可愛いね、。」


似千花の時の癖なのだろうか、褒めなければ守ってもらえないような気がしたのか自然と口から褒め言葉が飛び出した。


「嘘はいいよ。別にナナは褒められたくてやってる訳じゃないし。」


冴の表情が言葉に伴っていなかったのか七加は不愉快そうに告げる。

ただ確実に似千花よりも整った容姿をしていると冴の心は言っている。

本心から出た言葉ではあったのだ。


「冴はさ。どうしてひなき達に虐められてるわけ?理由なんてないかもだけど。」


無神経な質問だとは思わなかった。

ただ少し驚いた。皆気を遣って言ってこないような質問だからだ。


「理由はあると思うよ。ニチカちゃんが守ってくれていた時、車に轢かれてしまったことを除けばニチカちゃんには特に手を出していなかったと思う。だから私だけにやってるんじゃないかなって.....。誰でもいいなら邪魔に入ったニチカちゃんにも虐めをするんじゃないかって。さ。ナナちゃんはどうしてニチカちゃんが轢かれたのが事故じゃなくて故意だって知ってるの?」


「事故現場を見た。丁度ナナはあっち方面に帰るから偶然ね。凄惨だったしあれは確実に誰かの意思によるものだって分かった。

追い回して轢こうと必死に見えたから。」


「私の.....せいで。」


「違う、誰かのせいにするなら悪いのは虐めているひなきだよ。アンタは悪くない。

安心なさい。って言えば心は軽くなる?」


最後の一言は余計に感じたが、これが七加なりの励まし方なのかも知らないと考えると確かに心が多少は軽くなった。


「明日から学校ではナナが似千花の代わりをしてあげる。アンタは何も気にせず笑っていてほしい。」


「そんなこと......。」


「してきたでしょ、いつも。」


一瞬..ほんの一瞬、七加は善意で庇っているのではないように見えた。

その目がとても冷たくて感情の灯っていないものだったからだ。

冴はたじろいだが直ぐに感覚を取り戻した。


「うん、ありがとう。」






〜翌日〜

「おっはよ~、ドクズ?今日も人様と同じ空気を吸って恥ずかしくないわけドブネズミ。」


いつもの日常が始まる。

冴は溜息を吐いた。


「はいはい行くよ冴。」


「っ!!そうだね、ナナちゃんっ!」


冴の背中を恨めしそうに見つめるひなき。

"ひなこ"のことを思いながら舌打ちした。

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