不幸体質

白薔薇

虐められる少女

私立中学2年A組23番新島冴にいじまさえはクラス内での虐めに苦しんでいる。

幼い頃からの臆病な性格と特徴もない外見。

勉強も不得意なら運動が飛び抜けて出来るわけでもなく影も薄い。

少し得意な美術も表彰されるような出来でもないし音感も無い、字も普通の上手さ。

兎に角、冴は普通すぎる少女なのだ。


「新島ぁ。教科書か・し・て?」


「む、無理だよ。私も同じ授業受けるのに。」


「あんた馬鹿なんだからどうせ使っても意味ないでしょう?あたしが使う方が価値があるでしょ。」


無理矢理数学の教科書をひったくって行ったのは使手しでひなき という冴を虐める主犯格の少女だ。

艶やかな長い黒髪にパッチリとした垂れ気味の瞳。美しい容姿のお陰で女子校であるこの学校でも大人気の生徒だ。

中学入学を境に標的になった。

毎日毎日悪口から始まり物を取られ暴力へ発展する。このパターンの繰り返し。

けれど冴にも癒しがあった。それは。


「やめなって使手さん!冴困ってんじゃん!」


「は?何な訳?困ってないよこいつ。

本当のこと言ってるだけでしょ?」


「冴は頑張って勉強したがってんの!

成績だってこれから伸びるわ。

わたしが教えてるんだから絶対出来る!」


いつも冴を庇うこの少女は古島似千花ふるしまにちか

学年1位の学力に運動神経も抜群だが自信家で強気すぎる性格の所為で友人は少ない。

茶色のセミロングがよく似合う可愛らしい顔立ちをしているのに勿体ない。


「こいつ庇ったってあんたに利益ないでしょ。」


嘲笑するひなきに似千花は睨みで返す。

目つきが多少鋭い彼女の睨みには迫力がありひなきは一歩後退る。

教科書は半強制的に冴に返却され、無事に授業が幕を開ける。


担任の作田先生が受け持つ

数学の授業中、冴の元に小さな紙が届いた。


「前に回して新島さん。」


冴はそれに素直に従い前の生徒・鋏奏はさみかなでへと手紙を回す。


「鋏さん?何してるの。」


作田先生に見つかった。

前の生徒は冴を指差しコイツが回して来たという風に訴えた。


「没収よ。」


没収したものの内容が気になったのか紙を開く先生。


「誰です?これを書いたのは。」


先生は急に血相を変えて怒り始めた。

元々短気な担任だったので特に気にも留めていなかったが紙の中が公開されたことで冴の心はそれでいっぱいになった。


【作田先生は5股してま〜す】


丸文字で書かれたそれは冴の文字とよく似ていた。"ま"に特徴のある冴の字体は直ぐに分かる。


「新島さんの字よね。」


だが生憎冴にはこんな内容を書いた覚えは無かった。


「ち、違います。これは回って来て。」


「言い訳しないの!この"ま"は新島さんが宿題で書いていた"ま"と一緒だもの。」


1年生の頃から虐めを見ても黙認していた作田先生は今回もきっと冴の仕業でないことくらいは分かっているのだろう。

しかし犯人候補であるひなきの母はモンスターペアレントとして有名でひなきを注意すれば親が出しゃばって来る。

それを恐れて先生は冴の所為ということで落ち着かせたいのだ。


涙が溢れる。先生にも嫌われて面談ではきっと自分の親が悪いことを言われる。

してもいないことを吹き込まれて冴が怒られるのだ。


「私.....じゃ。」


否定しても信頼してもらえず俯いていると突然似千花が立ち上がった。


「それ!使手さんがやりました。わたし見てたんですから!授業の黒板を撮影する時にタブレットに映り込んだんですけど見てみますか?」


「ニチカちゃん、、、。」


「そ..そうですか。使手さん、今日は許しますが次からはしないようにね。」


「へ!?チッ。古島のやつ。」


ひなきの呪いのような視線を受けながら似千花は得意げに席に座った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る