第11話 日本の鉄道に「へいわ」は馴染まないのか?

「そりゃまた豪勢で結構なお話だ。実に平和な移動を満喫できたってことやな」

「あの列車、広島や岡山から関西圏に日帰りするには実に便利な列車でした。確かに今どきの特別急行っていうのはある程度距離を走らないと成立しないとはいえ、大阪と広島くらいじゃ、やっぱり、短距離過ぎたきらいもあったかもしれません」


「わしも、そう思う。でなぁ大宮君、うちの娘、清美になぁ、御存知の通りこの2月に3週間少々、派遣社員として下川さんと本田さんのところに行かせたのね。あの折にはなんとまあ、御存知の有賀茶房の有賀社長が同行してくれて、それで、何じゃ、一等車に乗せてもらったのよ。有賀君はともかく、うちの20歳そこらの小娘ごときにそんな贅沢させるなと申したが、何と、彼の言うことが振るっておったぞ」


「何ておっしゃいました? 有賀さん」

「清美さんに悪い虫がつかないためにも、一等車に乗せて同行したほうが安全上むしろ安上がりではないですかってな。悪い虫ってどんな奴らのことかと聞いたら、酔っ払いとか、声をかけてくる若い謎の男とか、まあ、具体例をこれでもかというくらい出してくれよった。しかも、移動がどうしても冬場の夕方からということになったから、なおのことよ。もう最後は、お願いだから勘弁してくれと申し上げた(苦笑)」


「その甲斐あって、清美さんは安全に岡山まで移動できたってことですね」

「まあな。でも「へいわ」は「つばめ」にまたも食われて、消滅したよな」


「そうですね。「つばめ」の広島延長に代えて、この度の改正で廃止されました」

「それにしても、日本には「へいわ」は馴染まんのかなぁ?」

「戦争がないだけで、感謝ですよ。兵役もないですし。それに、移動する列車にまで「へいわ」なんて大層な名前つけられたら、よくよく考えてみるに、やっぱり、精神的な負担と言ったら大げさでしょうけど、そんなことを感じてしまうのは、私だけでしょうかね」


「いや、そんなこともなかろう。わしも、それは感じないではないね」

 そう言って、岡山社長はアイスコーヒーを一口ばかりすすった。

 大宮氏も、それに続いてストローで黒い液体を吸い切った。

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