第8話 列車を降りて、駅前の下川書房へ。

「ほな、清美さん、そろそろ岡山ですから」


 東岡山を通過した丁度その頃、有賀社長は清美氏を起こし、降車の準備を促した。

 彼らはさほどの荷物を持っていない。清美氏の滞在時に必要なものは、既に岡山駅前の下川書房に送られている。有賀氏は2日程度の出張であったため、さほど多い荷物というわけでもない。

 旭川鉄橋を渡り切り、列車が吉備商業高校の横の第一北方踏切を通過したところを見計らい、彼らは食堂車手前の一等車のデッキに移動した。


 程なく、列車は定刻に岡山に到着。自動ドアが開かれた。

 彼らの他にも、降車客は幾人かいる。

 岡山から乗車する客は、降車する客の半分ほどあった模様。

 後ろの食堂車は、夕食や移動しながらの居酒屋代わりの客でほぼ満席。相席も少なからずある模様。

 一等車のデッキにいた客の何人かは、そのまま食堂車に向かっている模様。おそらく、二等車の切符をもって乗車して、まずは食堂車に行こうという人たちであろう。

 食堂車の調理室の後ろの従業員専用ドアからは、食材や飲み物などの搬出入が行われている。どうやら姫路に着く頃までには、幾分の不足が見込まれた模様である。

 通過駅のホームの助役を通して岡山の業者の支店に連絡が届き、追加の注文がなされているようである。


 わずか6両の身軽な気動車特急「へいわ」は岡山を定刻発車。

 ここから160キロ先の広島へと、走り去った。


 晴れの国と言われ温暖な岡山であるが、この時期の夜は、やはり寒い。東京の上野駅と同じ建築家の設計による駅舎は、駅構内と街中の電気でうっすらと見えるのみ。

 

・・・ ・・・ ・・・・・・・


 三番街と呼ばれる地下街を通り抜け、有賀社長と岡山清美氏は駅前の下川書房へと向かった。

 まだまだ、宵の口。駅前の飲食店は今日も活気に満ちている。

 立飲酒屋の大野商店は、飲んだ帰りの客やこれから一杯飲みに出る客らを相手に、今日も商売繁盛の模様。

 郵便局やレストランの横を通って岡山鉄道管理局前を通り抜けてすぐの場所に、その本屋はある。


「夜分にごめん下さい。有賀です。只今、清美さんをお連れしました」

 男性の声を聞きつけ、家人が出てきた。この書店の店主夫妻である。

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