第5話 エンカウント

 MMOのダンジョンを進んでゆくと、そこには広大な大地が広がっていた

 そんなリアクションを見てキャシーは満足そうに


 ≪どう?初めてのフィールドに立った気分は?≫

「----------------」


 圧巻だった。

ダンジョンという場所は特殊なフィールドでありただの迷宮ではない

ダンジョンと聞くと通路ばかりの迷路だと思うだろう。

実のところ俺もそう思っていて狭い空間を永遠と歩いて宝箱を見つけるものとばかり思っていた。


だがその実ダンジョン中には特殊な歪みが発生し建造物の中という常識を覆すほどの『世界』が広がっている…。


通路を抜けた場所に天井はない。

あるのは青い空と雲、生い茂る緑と湖に山々が屹立している。


つまり『一層一層ごとに別の世界が構築されなおかつその世界は今なお広がっていて階層も今現在新たに作られている』のだ。


これは魔力だけではなく人間の欲に呼応しダンジョンが『人間の欲を満たすために版図を広げている』と結論が出た。

つまりダンジョンと人間は共存関係にあり人が求めれば求めるほどダンジョンの規模が増えていくという計算だ。


そして規格外はもうひとつ。

地球は広大無辺であっても限度がある。

例え人間の欲が底なしであろうと地球(しげん)は有限だ。


だがあり得ないことにいくらダンジョンの階層が増えても地球に何の変化もなく地層の有無関係なくダンジョンが広がろうとも地球の地層が減ることは一向にない。



無限にダンジョンが現れても地球以上の規模になろうとも地球の核どころかマントルにすら侵食していないという質量保存を完全に無視した代物だ。


これは地球という現実とダンジョンという異界は別時空と考えた方が妥当だろう。

同じ位相にありながらその実別の空間に隣接している隣り合わせ。


つまり…ダンジョンという無限の土地を人間は手にしたこととなっている。

だがダンジョン拡張によって魔物は増加しとても人間が暮らせる環境ではない。

そもそもダンジョン内に人間は長時間いることができない。


魔力の濃度で人間が耐えられないからだ。


ゆえに逗留できる生物は魔物以外存在出来ず常駐しようにもいかな熟練のハンターでも不可能とされている。


なのでテントを張ってダンジョンを探索するという事が出来ないわけだ。

なのでダンジョン内は『3時間以上探索は禁ずる』というおふれが運営から発令されている。


ならば深い階層に行けないのではないかという疑問が出てくる。

だがその問題はすでに解決している。

武器店での転移装置。

それは武器だけではなく人間にも対応している。

つまり行きたい階層を指定しワープが可能というシステムだ。


だが無論ワープが適応されるのは攻略済みのダンジョンのみで前人未踏の場合はその階層に近い場所に転移して探索を行うという形になっている。


長々と語ったがダンジョンという場所のあらましは大体説明できただろう。情報整理のために反芻しておく



 現在レベルは15。もうすぐでダンジョンへ行くためのレベルの水準値に至る。と思いたいが…この壁が結構分厚い。ただ単純にレベル20になればいいという訳ではない。レベル20へ行く条件、それは…



「ダンジョンのボスを討伐しなきゃレベル20に行けない。ある意味建設的だな。それほどの相手を倒せれば実績と信頼を得られるからな」

 ≪なら今のステータスを確認しなきゃね。≫

 キャシーに言われるままステータスウィンドウを表示し確認。それを見て渋い顔をしてしまう


 現在のレベル

 レベル15

 攻撃力 50

 防御力 47

 俊敏 23

 魔法攻撃力 14

 魔法防御力 35


 スキル 無し


 ・・・ステータスはともかく、スキルがないのが痛い。

ステータスをブートするスキルや状態異常や回復などの補助もない魔法適正は微妙とみていいだろう。

生粋のアタッカー。

大剣らしい剣のみで戦う剣士と言ったところか。

一応大剣をカスタムし魔法剣に変えることは可能だがその為の魔石や宝玉がなくまだ宝箱も見つけていない。


 まあつまりこれからやることは


「魔物を狩って装備を整えることだな」

 ≪そうね、レベルを上げて順々通りに進みましょう≫


 背に装着している大剣の柄を握り、浩々とした大地を駆け魔物の元へ向かった。


 ハンター業での愚の骨頂。

それはソロハンターであり続ける事。

パーティーを作らないという事だ。


人間だれしも得手不得手上手い下手が存在する。


それを補い合い助け合うのがパーティーであり強敵相手でも頭数や連携(チームワーク)さえあれば大抵は攻略が可能。


癒し手(ヒーラー)などは必須でありソロで疲弊した状態でポーションなど飲んでいればスキを突かれて死亡。


アコライトなしならばそのまま本当の意味での死を迎えてしまう。

今の俺の状況自体バカげた行為以外に他ならない。

人数がいれば陽動などで気をそらし隙を作ったりその間回復などで仕切りなおすことができ戦略の幅も増える。

パーティーナシなど自殺行為以外の何物でもない。

なのに俺はいまだソロのまま…その理由は…別に裏切りが怖いわけではない。

ただあまり人を信用するタイプの人間ではないのだ俺は。というかぶっちゃけ言おう。



 コミュ障でぇぇぇぇぇすっっっ!!!!

 ≪心の声聞こえてるわよ…≫


 つまるところ誰かに話しかける積極性も誰かと友達になれるスペックが壊滅的に皆無である。


もうどもるどもる。

勇気をもって話しかけた時たどたどしい口調に加え声が小さくて気持ち悪がられた経験があり声をかける自信がないっっっ!!!!!



 ≪いや、それじゃダメでしょ貴方…≫


 じゃあお前ハンターやるなよと言われたら反論できる気がしない。

というかキャシーに言われたら折れる自信がある。

だが俺は異世界に行きたいので死んでもやめるわけにはいかない!

ダイジョブダイジョブ!キャシーと話したときどもってなかったし大丈夫!!

などと考えてながら


【GYASAAAAAAAAAAAAAAAGGGGGGGRRRRRRRRRRRッッッ!!!!!!】



 とモンスターの見本のような嘶きでワニ型の魔物と邂逅(エンカウント)して数分

 先刻の罠の死亡の程度を念頭に置きながら回避し相手の攻撃パターンを見極め回避に徹している。


背中の大剣に手を携えながら相手に攻撃は『噛みつき』『爪撃』『回転攻撃(スピンアタック)』『尻尾による薙ぎ払い』と理解し攻撃方法は一般的なワニと相違ないことが分かった。

火の玉とか口から吐かない事がしばらくの攻防戦で一度も使用してないことから確信に変わる。

良かった。何が良かったか。遠距離攻撃が無かったのは幸いだ。こちらも投擲系の武器は持ち合わせていないのでサシで勝負できる。


 一対一という戦いに持ち込めたのは幸運で群れだったら即ゲームオーバーだったところが僥倖だ今のレベルならこいつを倒すことはたやすい。


でも…うん…あれは…うん…。

回避に注力しながらも遠方へ意識を向ける。そもそもどうしてこいつが一匹だけだったのかの理由について。それは…



「きゃあああああああああああああああああ!!!!!たーすけーてくだーーーーさあああああああああい!!!!!!!!」


 本来群れなのだろう。その群れを引き連れ(トレイン)ている少女が大群に追いかけられて走り回っているのだ。

そこで取り残され一匹だけ残った奴に見つかって俺が戦っているという訳だ。

助けに行くのが普通だろうがどう考えてみても俺が行って戦ったところで二人ともリスポーンが関の山の事態。


 ≪どうする?≫


 そう投げかけるキャシーに対し返答。そんなのは決まっている


「はぁ…。しゃーない」


 逃げ回っている少女を追尾している群れに向けてその辺の小石を投げる。

 スコンっと群れの一匹に当たりその近くにいたモンスターも俺に気づく。

 これもどう見ても無謀だがその辺はあの逃げてる娘の実力に期待しよう


「おーい!こっちだワニやろーーー!!」


 存在を教えるために大声で手を振って群れに向かって挑発する。大体のモンスターは女の子を追いかけるのに夢中で下方の群れは俺に意識が向いて


 半々となり群れの半分が俺に向かって吶喊してくる。戦力の分散。


こうすれば人海戦術めいた戦力が削れ彼女が残りを倒してくれれば助けたことになるはず。

できれば倒した後こっちに加勢してくれれば助かる。


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドと轟音をまき散らし砂埃を立ち上げ向かってくるモンスターの群れ。


だがどれもワニのモンスターばかりで対応はさっきのやつで履修済みだ。


猪突してくるワニは壮観だなと感動しながら嬉々としてモンスターから逃げる俺はどうみてもおかしな奴だろう。でも


「楽しいなぁ~~~~~」

 ≪うわぁ・・・≫


 なんて優越含みながら逃走するバカは俺だけだろう。

実際キャシードン引いているし。

でも無論ちゃんと考えはある。断じて俺は変態ではない!!!!

 さっきのスキルを見ればわかる通り集団での戦いに俺は向いてないしスキルさえ持っていない。

だからまともに群れと戦えば死ぬし戦略が無きゃこんなことするはずがない。

 つまり、戦略ありきの行動という事だ!


「こんなこともあろうかとっっっっ!!!!!!!!」


 布石はちゃんと打ってある。万が一魔物の群れに遭遇した場合。その下ごしらえは戦う前から準備してあったのだ!!!!

そしてこのセリフリアルで言ってみたかった!!!


 考えなしに逃げているわけではなくある場所へ向かって走っているのが現実で

 逃げている獲物は成す術がないから逃げているとワニモンスターは思うだろう


 だがこちとら人間だ。知恵と機転で危殆(ピンチ)を潜り抜けるのが特権


 逃げた先には山のようにそびえたっている岩場。

制動(ブレーキ)ってのは急には止まれない。

このまま岩に追突して脳天から衝突しな!!だが群れのやつらは冷静なのか


【GGGGY・・・・・】


 止まった。追突することを回避するために勢いを弱め普通に止まった。つまり俺は岩を背に逃げ場がない袋小路。すなわち大ピンチ!??


「…なわけねえだろ!!!!」


 背中の大剣を握り大きく振りかぶって逃げた分の助走をつけて足を踏ん張っておもいっきり投擲。

投げた先には丸い大岩があって木の棒やロープで括りつけて固定している部分を破壊。


そのまま重力に引かれて落下しその先にはモンスターの群れがいて先頭にいた魔物は岩に潰され後方のやつは一目散に逃げていく。


・・・作戦成功。


「へへ…勝ったぜ」

 全速力で走っていたので肩で息をしながら岩と共に走り抜けていくワニを遠目で見る


 無論さっきの岩は自然のものではなくあらかじめ作っておいた罠だ。

さっきの状況のような場合に備えたトラップ。


モンスターと出会う前にせっせと岩を大剣で削って丸くして木をこって柱を作りツタで作った即席ロープで作ったものだ。


まあ普通なら『大岩でそんなの固定できず壊れるんじゃね?』と思うだろう。

だがここはダンジョン。ていうかゲーム。


物理法則を逸脱した異界なので多分その辺通用しないんじゃないかな?


まあ実際上手くいったななんて思いながら休憩しようと思った矢先気づいてしまった。


 ≪ねえ、あれ…≫


 キャシーも気づいたようで目を背けたい現実に頭を抱えたくなる


「マジかよ…なんで…なんで…!」


 そして顔を手に覆って疲れた体を振るい立たせて走りながら


「なんで…大岩の軌道にあの女の子いるんだよォォォォォォォ!!!!??」

 ≪やっぱりバカなんじゃないのこの男・・・?≫


 群れに加え巨岩に追われ更に状況が悪化している女の子を助けに走っていった

 絶叫はふたつこだました。

ひとつは俺でもうひとつはあの女の子の声がハミングした気がする…






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