第19話 夢とうつつ

「貴様、俺を脅すとは」

 ジャネットは、研ぎ澄まされた刃が如き視線をゴブオに刺しつつも、鞭を収めた。そうしてから、彼女に一つ疑問が浮かんだ。本当にこのゴブリンが俺と同じ夢を見ていたなら、俺の尻尾を見たはずだ。日常では隠している尻尾を。尻尾は感情を表出するから嫌いだ。だから隠す。どうにも、制御できないのだ。


「俺の尻尾の色を答えろ」

 とジャネットは静かに言った。まるで脅されているようではない。

「先端のみが黒で、そこ以前から付け根に至るまでは銀でした。毛の一本一本が団結したかの如く一ところに流れ、澄んだ川みたいでした!」


 色のみでなく毛並みの特徴まで言い当てたゴブオに、ジャネットはちょっと目をひろくした。整った顔は普段、尻尾とは反比例にポーカー・フェイスだけれども、これには驚きを隠せない。彼女は毎日の夜、丁寧に尻尾の手入れをしている。部屋がいくら汚かろうとも欠かさなかった。そうであるから、尻尾の毛たちはきちんと先端に向け流れている。


「信じてくれますか?」

 ゴブオは声を震わせながらも、ジャネット飼犬化計画へ行進する。


 ジャネットはそっと目をとじた。目を閉じた彼女の顔を、ゴブオは観察した。目をひらいていると、余りに尖っているけれどもこうしてとじていると、誠に美しい。小麦の肌はしみ一つなく、彫刻のように煌めいている。その右目の下にはよく見ると泣きぼくろがあり、ちょうど目じりの真下にあるから、垂れた一滴が残されたのかとゴブオは思った。そんな彼女のお顔に、少しづつ皺が刻まれ出した。眉間の皺である。眉が逆の八の字になり、その上に深く短い線が浮いた。そして、腕組みして肘にあてられた掌に力が込められ、ジャケットが伸びるミシミシという音がした。


「言いなりにならないなら、尻尾のことショウさんに言いふらしますよ。お尻を弄られて、ひいひい言いながら尻尾振ってたって」

 とゴブオはジャネットに見惚れたまま言った。

 ジャネットはかっと目をひらいた。そしてベッドに乗り上げゴブオの腹の上へ馬乗りになった。

「貴様」

 とだけ彼女は言った。

 ゴブオは生命の危機を感じながら、ジャネットの顔を見た。彼女は微笑んでいた。それもちょっとおかしな微笑み方であった。我慢できないという様子なのだ。好きなおもちゃが目の前にあって、全身で喜びを表しながらおもちゃに嚙みつきたいけれども、必死に我慢しているかのような、そんな微笑みである。頬はほんのり紅くなり、体温の上昇がわかる。

「この俺を支配せんとするとは」

 ジャネットの白の歯が映る。唇は端までひらかれ、犬歯がぎらり。噛まれたらきっとひとたまりなく、喰い千切られる。

 この時、ジャネットのからだは熱く、熱くなり始めていた。ゴブオが本当に自分の音声を録音していたのかなど、考え検証するべきことはあったが、考えられなかった。こんなちびに支配されつつある自分に憤る。恋愛対象の末端に入り込む余地のないクソガキに、夢の中とはいえ乳房や尻を好き放題に愛撫され、あろうことにも、その刺激に感じて鳴いてしまった。

 ショウに頭を撫でさせた時には、俺の胸の中にあるつぼみが花開くような喜びがあった。あれに勝る感情、感覚、心地はない。そうだ、この雑魚ゴブリンが俺にもたらした感触は実にくだらん。あの掌に比べれば、何も感ずるはずがない。俺が、こんな雑魚に負けるはずが……ないっ! 夢のことも例外ではない。好きな男からの愛撫でなければ、気持ちよくなる訳がない。あれは夢だったから、俺は取り乱したのだ。現実であれば、無論何も感じない、何も思わない。


 ジャネットは思わず夢での快感を思い出した。ぶるぶる頭を振り、追い払う。夢は夢なのだ、有り得ない!


「よし、貴様の要求を呑んでやろう」

 ジャネットの息はすでに荒い。ジャケットを乱暴に脱ぎ、壁に向け投げ叩き付けた。白のシャツにぴたりひっ付いた、上半身の線が明らかになる。夢以来である。

「僕が脱がせます」

 とゴブオは言った。

「ふん、好きにしろ」

 ジャネットはゴブオから一歩離れ、両足を左横向きに畳んだ。

「人魚坐りですね」

「うるさいな」

 

 ゴブオは内心で「ジャネットさん重たかった」と言って立ち上がり、乳房の上の第一ボタンに手を伸ばした。ジャネットは緑の手から顔を逸らした。サイズがぴったしだからか、なかなか外しづらい。苦労して外すと、ぱちん! ぱちん! と音がして第二、第三ボタンがはじけ飛び、それぞれゴブオのでこと鼻先に命中した。

 ゴブオはおどけて痛がる素振りをしようか迷ったが、早くおっぱいを揉みたかったのでやめた。ジャネットの方も特に反応しなかった。ただ二つのボタンだ続けて弾けたおかげで、張りつめていた乳房が心持垂れて、ぶるるんと揺れただけである。


 こうしてシャツのボタンは全て外された。両の乳の外側半分が、乳首までを覆ってシャツに隠され、内の半分はあらわである。乳首の隠れているのが、なんともいじらしい。


 ゴブオは先ずジャネットの膝に乗り、乳房のつくる谷間に顔を埋めた。そうして乳房をシャツ越しにむぎゅむぎゅ掌で押して、その感覚を顔いっぱいに楽しんだ。


 くだらぬと、ジャネットは自らにしがみつくゴブオを見て思った。これほどのことなら全く問題にならん。そう、これくらいなら。




 こんにちは。ここまでの読書ありがとうございます。今までに登場した主要人物の背丈等を、紹介します。


・ゴブオ 

 身長145センチ。顔は大きく、肌は緑色。ちゃんとあんまり可愛くないです。

・アリナ 

 身長167センチ。ビキニ・アーマーの女剣士。スレンダーですが、出るべきところはしっかり出ています。金の髪をサイド・テールにまとめ、街を歩く際も堂々と乳房を揺らします。すれ違う男どもは見惚れますが、彼女から溢れ出るバトル・オーラにびびり、何も出来ません。サイド・テールは日によってポニー・テールであったり、左向きであったり右向きであったりします。

・ジャネット 

 身長190センチ。体は鍛え抜かれていますが、柔かな筋肉で、その周囲には脂肪を纏わっており、あくまで女性らしい体型です。本当はショウに甘えたいと思っていますが、なかなか不器用で出来ません。ゴブオとの一件に片が付けば、ショウに思い切って甘えようと考えています。

 目つきは鋭く、髪は短く整えられ、軍服も相まって見る人に恐怖と整理された印象を与えますが、すこぶる片付けが苦手です。


・ショウ

 身長170センチ。ゲームなら主人公です。「平行な世界をつくる」など、不安なことを考えています。









 












 


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