第4話 冒険者ギルドで登録しちゃいましょう

俺はいつもの冒険者ギルドの受付にきた。


「いらっしゃいませ。ご用件はなんでしょう?」


 よく見かける肩くらいまでの髪を後ろで束ねた可愛らしい受付嬢がにこやかな笑顔で応対してくれる。

 俺はギルドカードを提出して


「一人でできる簡単な仕事をすぐ引き受けたいんだ。なにか斡旋してくれないか」


 そう頼むと受付嬢はギルドカードを受け取り、カードを読み込むための魔法の箱にカードを差し込む。

受付嬢は箱の表面に浮かんだ文字に目をやってから一度チラリと俺の顔を見て、少し眉を潜めてから


「……少々お待ちください」


 と言ってカウンターから奥へと引っ込んでいった。


「???」


 いつもと違う対応を見て俺は小首をかしげる。

なにかあったのか?

しばらく待つと背の高い30代ほどの男性が厳しい表情で俺の前に現れる。


「すみません、えーと、お名前がちょっと分からないのですが……」


「は?いや、俺はS級冒険者のケント・デリガードだけど?」


 そう答えると男は厳しい表情を崩さず


「ケント様ですか。ケント様がお持ちのギルドカードはパーティリーダーのトーリ様より除名の申請がでておりましてご利用できません」


「え?あれは俺個人のカードですよね?」


「いいえ、ケント様のギルドカードはS級パーティの荷物持ちで登録されていたためパーティから除外されてはご利用ができません」


 俺は驚きのあまり固まってしまう。


「お、俺は回復術師で登録してたはずだが??」


 慌ててそう言うと俺の前の男は鼻で笑う様に


「ああ、回復術師は今は冒険者登録ができません。なんせそんな職業は今や不必要ですからねぇ」


 男はそう言ってヤレヤレと首を左右に振る。


「去年、回復術師で登録されていた方は全員書き換え申請をしてくれという打診をパーティにおくったのですが?その際にリーダーの方が書き換えてくれたのでしょう」


 俺は愕然とした。いつの間にそんなことに。

今までパーティでの手続きなどを行ってた時にそんなこと一言も言われたことがなかった。


「じゃ、じゃあ新規でいいので冒険者登録してくださいよ」


俺は気を取り直して男にお願いをする。


「ええ。かまいませんが……ケントさんのご職業は?」


「ぐっ……」


 そう問われて俺は言葉に詰まる。

俺はまだ回復術師だ。

転職するにしても手続きを行わねばならない。

なにより【完全全体回復】のスキルは失いたくない。


「か、回復術師で登録はできないんですか?」


「それはできませんね。ああ、もしあれでしたら見習い戦士という形でF級冒険者としてなら登録できるかもしれませんが?」


 男はニヤニヤとした笑みを浮かべながら俺にそう告げる。


 見習い戦士。新人のための職業のように聞こえるが、使えない冒険者に送られる称号のようなものだった。まだパーティ専属の荷物持ち、の方がましであった。

俺は視線を背後に向ける。

 どこかのパーティに入れてもらって荷物持ちで登録するか?

いや、だめだ。すぐにお金になる仕事をしないと今日の晩飯も食えない。

F級とは言え冒険者となれば簡単な依頼は受けることができる。

今日の晩飯代、宿代くらいは簡単に稼げるはずだ。


「……わかった。戦士見習いで登録してくれ」


 屈辱で声がかすれた。つい先ほどまでS級冒険者として第一線で活躍してきた俺のプライドはズタズタだった。

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