冬花の看病

「はぁ…はぁ…」


 翌朝、深雪が目を覚ますと呼吸が乱れていた。


「頭痛い……喉痛い……」


 体が重く、節々もズキズキする。完全に風邪を引いたようだ。


 コンコン。ガチャ。


 部屋の戸が開く。入ってきたのは冬花だった。


「ふぶちゃんおはよう。学校行く時間よ」

「はぁ…おはようございます……」

「あら、顔が真っ赤じゃないの。熱はある?」


 冬花は深雪の額に自分の額を合わせる。


「やっぱり。凄い熱いじゃない。どうしましょう」

「大丈夫です。ちょっと疲れただけですから」

「そんなの大丈夫なわけないでしょう。今から学校に連絡するわ。今日は休んでゆっくり寝てなさい」

「いえ本当にだいじょう」ゴホォッ!深雪は盛大に咳をする。

「ダーメ。絶対安静」

「うぅぅぅ」


 深雪は涙ぐんだ目を向ける。冬花はそれを見て、よしと決めた。


「とりあえず薬を飲みましょ。あとは冷えピタ貼ってゆっくり休みなさい」


 深雪に錠剤を飲ませ、体を横にするように指示した後、水の入ったペットボトルを渡す。深雪は指示に従って水を少し飲んで、すぐに眠りに落ちた。


 しばらくして。深雪は目を覚ますと、隣で冬花が優しく腹部を叩いていた。


トン。トットン。


「んっ……」


 深雪が次に目を開けた時、冬花の顔が目の前にあった。


「ふぶちゃん起きたのね。体調はどう?」

「はい。少し良くなりました。さすがにうつっちゃうので離れて下さい」

「大丈夫よ。私こう見えても体は丈夫なの」


 冬花がギュッと抱きしめると、深雪は抵抗せずに受け入れる。


「汗かいちゃったね。待ってて着替え持ってくるから」

「あの、冬花さん」

「なあに?」

「ありがとうございます」


 深雪が恥ずかしげに礼を言うと、冬花は再びギュッと抱きしめる。


「もう。かわいいんだからぁ」


 冬花はそのまま部屋を出ると、すぐに戻ってきた。


「はい、服脱がすね」


 深雪は大人しく従う。パジャマを脱がすと上半身裸になる。恥ずかしくなった深雪は手で胸を隠す。


「ついでに体も拭くからちょっと我慢してね」


 タオルを濡らしてから絞る。そして深雪の背中をゆっくりと丁寧に拭いていく。


 ふきふき。ふきふき。ふきふき。


「ん……」

「どうかした?」


 深雪は黙り込む。


「ちょっとだけ腕も開いてね」


 深雪は言われた通りに従う。


「よいしょっと」


 冬花は深雪を後ろから抱きかかえる体勢にする。


 ふきふき。ふきふき。ふきふき。


 深雪はドキドキしながら、されるがままになっていた。


「ん?ふふっ、ふぅ〜」

「ひゃぁ……」


 冬花の吐息が耳にかかってゾクっとする。熱があるせいか頭がぼーっとして抵抗できない。


「はい。おしまい」

「はぁはぁ……」


 深雪はぐったりとする。


「お粥も作ったから食べちゃいましょう」


 お盆には卵がゆとりんごが乗っている。


「はい。ふーふー」


 冬花はスプーンですくい、ふーふーと冷ましてから深雪に差し出す。


「じ、自分で食べられますから」

「ダメよ。病人は甘えなくちゃ」


 深雪は渋々口を開ける。


 ぱくり。


 優しい味に心が落ち着く。


「美味しい?」


 深雪はこくりと首を縦に振る。


「ふふ。よかった。ふーふー」


 冬花は微笑むと再び差し出した。


「ん……あつぅ!」


 深雪は慌てて口を離す。


「熱かった!?ごめんなさい。ちょっと待ってね」


 深雪の口の周りとこぼしたお粥をタオルで綺麗に拭いてから新しいスプーンを用意する。


「今度は気をつけるから」


 冬花が再びふーふーと冷ます。すると何故か自分の口の中に入れてみせた。


「え?」

「はひ。どうほ(はい。どうぞ)」


 冬花はどうやら口移しで渡すつもりらしい。


「いや、それは……そのぉ……」


 拒もうとするが、徐々に近づいてくる唇を見ると、体が固まって動けなくなる。やがて二人の距離がゼロになり、深雪の口に直接お粥を注ぐ。


 コクリ。コクリ。コクリ。


 深雪の喉が鳴る。


「ん……ぷはぁ……もうお腹いっぱいです……」

「うーん。あと二回頑張って」


 今度は多めにお粥を口の中に入れる。


「はひ、あーん」


 深雪は恐る恐る開ける。


 コクン。コクン。コクン。


「ん……んはぁ……ふゆかひゃん……」

「ひゃんとのみほんで(ちゃんと飲み込んで)」


 ゴクン。ゴクン。ゴクン。


 深雪はなんとか全部を飲み込んだ。


「はい、よくできました」

「はぁはぁ……」


 ぐったりと寝転ぶと冬花が覆い被さり強く抱きしめた。深雪は抵抗しない。というよりできなかった。


「お姉ちゃんもお熱上がってきちゃったかも」


 そう言うと深雪の隣に横になって、ぴったりとくっつく。二人は互いの体温を感じながら眠りについたのであった。

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