追放者を探して

味噌わさび

第1話 行方不明のヒーラーと謎の女

「……はぁ」


 俺は街の外れの酒場で思わず大きくため息を付いてしまった。


 すでにヒーラーを探す旅を開始してから早いもので1ヶ月が経っている。


 これまでパーティで旅してきた町をとにかく当たってみたが……まるで成果がない。


 俺の予想ではおそらく、ヒーラーは自分の故郷に戻っているはずなのだが……。


「……あいつの故郷、知らないんだよな」


 俺としてもそこまで仲が良かったわけではない。ただ、いつも勇者にどやされて可愛そうなやつだとは思っていた。


 そんな折に、勇者がブチギレて追放……まぁ、故郷に帰るのが当然だろう。


 おまけにあいつは、パーティが持っていたレアな道具も幾つか持っていってしまった。それも取り返してこいというのが勇者の怒りの原因でもあった。


「お兄さん。随分シケた面しているね」


 と、いきなり誰かが話しかけてきた。顔を向けると、露出度の高い服を来た女が俺の方を見ていた。


「……金はないよ。他を当たってくれ」


「そういうのじゃないんだ。あんまりにもシケた顔をしているから心配になったんだ。う~ん……あれだ。アンタ、なんか探しているだろう」


 カンの良い女のようだった。俺は渋々女の方を見る。


「あぁ。そうだよ。でも、絶対お前にはそれがわからない」


「ははぁ~ん。アンタ、女だね。女を探しているんだろ?」


「……まぁ、そうだな。だから、なんだよ。お前に関係ないだろう」


「まぁまぁ。袖振り合うもなんとやら、って言うだろう? 私に相談してみなって」


 そう言われて俺はぼんやりと女の顔を見る。知らない女だが……知らないからこそ、別に今の俺の事情を話してもいいだろう。


 俺はパーティからヒーラーが追放されたこと、そして、そのヒーラーを探しているということを女に手短に伝えた。


「はぁ~。なるほど。その勇者ってのは酷い男だねぇ」


「……まぁな。さぁ。もういいだろう。事情を話したところでお前になにか手伝えるのか?」


「うん。手伝えるさ」


 ……なんでこの女やたら絡んでくるのだろう。何かを狙っているのか。俺は思わず腰元の剣に手をかける。


「あのなぁ……。あんまりめんどくさいことを言ってくると、俺も怒るぞ」


「まぁ、そんな怒るなって。知り合いなんだよ。私は」


「……は? 誰と?」


「そのヒーラーさ。この前会ったばかりなんだよ。なるほど。アンタのパーティから追放されたってことだっただねぇ」


 あまりにもわけのわからない偶然……。俺には女が嘘をついているようにしか思えなかった。


「……嘘だな。適当なことを言うな」


「嘘じゃないさ。試しにソイツの容姿を言ってみようか?」


 女はそう言ってヒーラーの容姿を的確に言い当てていく。


 といっても、別にヒーラーは特段目立つ容姿じゃない。だが、一つだけ、やけに印象的な部分があった。


「……それだけじゃ、お前を信用できないね」


 俺がそういうと女はニヤリと笑う。


「両目の下にそれぞれ泣きぼくろがある……どうだい? これなら信じてもらえるか?」


 ……当たっている。適当を言って当たるものではない。


「……で、知り合いだからなんだっていうんだ? お前、あいつの居場所を知っているのか?」


「そりゃあ、知っているに決まっているだろ? あいつ、今は私の故郷に帰っているよ」


「そ、そうなのか……。やっぱり……」


 俺は思わず反応してしまった。すると、女はニヤリと微笑む。


「案内……してほしいだろ?」


 ……当たり前だ。ここ1ヶ月、まるであいつの手がかりを掴めていない。


 もし、この女の言っていることが嘘だとしても……賭けてみる価値はある。


「……あぁ。案内してほしい」


「いいねぇ。そうこなくっちゃ。まぁ、報酬は私の故郷に帰ってから、たんまり弾んでもらえるよ」


「……まったく。お前はただ、里帰りするだけじゃないか」


「細かいことは気にするなって。まぁ、じゃあ、短い間だけど、よろしく」


 そう言って女は手を差し出してくる。俺は顔をそむけた。


「愛想がないねぇ。パーティでも言われなかったかい?」


「……言われたよ。お前の知り合いのヒーラーに、な」


 もっと笑顔になったほうがいいですよ、鈍臭くて泣き虫なあのヒーラーがいつも俺に言っていたことだ。


 こうして、俺は謎の女の口車にのり、ヒーラーの故郷を目指すことになったのであった。

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