俺と義妹、コスプレ!?







「それで、どうしてナース服なんだ。説明しなさい」

「う、うぅ……」



 意識を取り戻し、落ち着いてから。

 ひとまず俺たちは互いに床の上で正座をして、向かい合っていた。涼香の服装は相変わらずナース服だが、いまはとりあえず置いておこう。

 問題は彼女がどうして、いきなりこんなコスプレをしたのか、ということ。

 俺は娘を指導する親の如く、あえて厳しい口調で問いただした。




「理由は?」

「それは、義兄さんのスマホの――」




 すると出てきたのは、やはり俺のスマホについて。

 涼香はしょんぼりとしながら、こう言った。




「検索履歴を見たの……!」――と。




 それを聞いた俺は、小首を傾げた。




「検索履歴、だって……?」

「うん……」



 訊き返すと、義妹は申し訳なさそうに話し始める。




「義兄さんのスマホを拾ったら、たまたま検索履歴が表示されてて。そこに『ナース コスプレ 可愛い』って書いてあったから」

「おうふ……」




 俺はまた意識が飛びかけた。

 だがしかし、それをぐっと堪えて考える。

 その上で、自分はいつそんな検索をかけたのか、記憶を手繰った。でもきっと、それは相当に前の話なのだろう。日常過ぎて記憶の網に引っかからなかった。

 だが、そんなものを見た涼香が、このような行動に移るとは……。



「だからね私、義兄さんに謝りたくて! こうしたら、喜んでくれるかな、って!」

「それは、スマホを勝手に覗いたから、か?」

「……うん…………」



 なるほど、合点が行った。

 要するにこれは、義妹なりの謝罪の現れだったのだ。

 スマホを見られたくらいで怒りはしないけど。というか、むしろ心臓に悪い。――だけど、自分で一生懸命に考えて行動するあたり、実に彼女らしいと思えた。

 だから、俺は涼香の頭を優しく撫でて言う。



「大丈夫だって。怒ってないから、安心しろ」

「ほ、本当に?」

「あぁ、本当だ」



 すると彼女は上目遣いにこちらを見て、瞳を潤ませた。

 相当に不安だったのだろう。俺はそう考えて、和ませるために冗談を口にした。




「むしろ嬉しかったからさ! たまには、こういうのも悪くないな! はは!」




 それは、本当に何気のない言葉。

 そのつもりだった。

 だが――。




「え、本当!?」

「……ん?」




 どうやら、義妹は変な方向にスイッチが入ったらしい。

 彼女はどこからか、新たなアイテムを取り出した。

 それ、というのは――。







「こんなのも、あるんだよ? にゃんっ!」







 ――『ネコミミ』だった。

 ナース服の時点で、すでに破壊力は満点。

 それなのに、そこにネコミミを追加するなんて。




「ごふ……!」

「どう? 可愛いかな?」





 俺が深いダメージを受けているのに気付かず、涼香は小首を傾げる。

 その仕草がまた、可愛いが過ぎた。……無理ぃ…………!




「あの、義兄さん……? どうしたの?」

「……………………」

「き、気絶!?」




 俺の意識は遠退いていく。

 ただひとまず、義兄としての尊厳は保てた、そう思いたかった。




 

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