第2話 兄が交通事故で片足を失った

 学校の先生には進路は就職、その希望する就職先は市役所と進路報告を済ませてあった。

 ただ先生の言う事には田舎の市役所に入るには、どこでも同じだがコネがないと入れないという。私は先生に反論した。コネってなんですか面談と試験で成績の良い者が選ばれる のじゃないですかと抗議したが、先生は残念ながらこれが世間なのだと聞かされた。

 そのコネとは現役の市役所職員の家族や親戚、あるいはコネのある市会議員の一言で決まるそうだ。そう言われると思い当たることがある。同級生の中には代々役所務勤めの、父や親戚はみんな役所務め勤めだ。私はウンザリした。大人の世界とは世間とはそんなに醜いものなのか。もはや市役所勤めは絶望的となった。私はその時に決心した。働くなら都会に出よう、それならコネも何も関係ない実力さえあればなんとかなると考えが変わっていった。


 就職先も決まらないある日の事だった。授業中に私は職員室に呼びだされた緊急電話である。美咲より五才年上の兄が交通事故にあい車に跳ねられという。その日のうちの手術。片足を失う事態となった。またもや災難が矢崎家を襲った。またもやとは父が炭鉱で働いていた時に事故で亡くなっている。病院費用も嵩み私も働かないと生活が出来なくなる。

 三人家族で一番頼りになる兄が働けなくなる。挙句の果て加害者にはひき逃げされ、未だ行方不明となり途方に暮れていた。本来なら加害者の保険で治療費と慰謝料が支払われるのだが、加害者が逃げて治療費は全て私達家族が支払う事になる。このままでは入院費の支払いも大変なことになる。兄が働けなければ働き手は母だけだ。しかもパートでは生活が成り立たない。兄が不憫でならないが、もはや私が都会で働く夢も途切れた。頼りの兄も障害者となり働き手は母と私だけ、その母も若くないし私が家族を守らなければならなくなった。


つづく

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