第6話 ね、ねこのポーズ! にゃーん!

「日向、私、私⋯⋯日向、日向⋯⋯」


「……え、ひ、柊木? 何してんの?」

 身体に感じた妙な違和感と重さ。

 座敷童とかそう言う心霊現象か? そんなことを考えながら意を決して目を開くと俺の身体の上に押し倒すように制服エプロンの柊木がまたがっていた……は? え? 


「ひ、ひな……さ、鮫島? おおお起きてたの?」

 俺の声に気づいたのか、焦ったように顔を真っ赤にしながら身体の上でわちゃわちゃし始める柊木。


 ……身体の重さの正体が柊木と分かった瞬間、ふともものふにっとした柔らかさを感じる。それに身近に感じる柊木の少し荒めの息遣いとか、ゆるりと香る朝の香りにちらりと見える鎖骨が重なって、そもそも俺の上に柊木がのっているという事実というか状況も頭に入ってきて……やばいです、大変です、生理現象がさらにヒートアップする!


「……ほほほ本当に何してるんですか、柊木さん? えっと、その……」


「え、あ、えっと、うえっと……ね、ねこのポーズ! こ、これすると体が柔らくなってり、リラックスとか、その色々できるんだって! にゃー! にゃにゃにゃー! にゃんにゃんにやん、にゃん! にゃー……!」


「……ッ!!!」

 何それ可愛い、可愛すぎる!

 柊木スタイル良いからそのポーズもすごい似合うし、それに真っ赤な顔でにゃんにゃん言われると……何かもうイケないことしてる感が半端ないです、制服エプロンの破壊力も凄いし! なんでそんな可愛いの、無意識なんですか、猫耳つけてほしいですはいすいません!!!


 もう色々と可愛くてまずくて、だからかなりふわふわでかちかちで直視できないけど……でもでも今はダメ!


「……ね、ねこのポーズ! ヨガのね、大事な奴だからね! うん、そのそれは確かに大事! で、でも俺の上でやる必要はないんじゃないかな!」


「え、それはその、だ、だって……鮫島の上ですると、そのこ、効率とか良くなるし……だからえっと……にゃんにゃんにゃん!」


「どどどどう言う事? 本当にどういうことですか?」


「えっと、その……ドキドキスルカラ……効率が良いにゃー……にゃーん!」

 ぼそぼそといったその声は至近距離にも関わらずあんまり聞こえなくて。


 効率? 効率って何? 何が変わるの俺の上ですると?

 そしてにゃんにゃん言うのやめてください、もう色々とまずいです、興奮マックスギンギンです!


「……あ、柊木、そのペン! ももも、もしかして俺に落書きするつもりだったのか! そうだろ、俺に落書きするだったんだろ!」

 どうしようかと動かない頭をクルクルと懸命に回して考えていると柊木が右手にペンを隠し持っていることに気づく。


 なるほど、落書きか、どうりで猫のポーズなんて! 落書きしようとしたの誤魔化すために猫のポーズなんてしてたんでしょ、そうに違ない!


「にゃにゃ、にゃ……え、あ、う、うん! そう、そう言う事だよ! 起こしに来たのに鮫島が全然起きないからちょっと落書きしようかと思って、その……そう言う事! だから早く起きてよね、おばさんも呼んでるから!!! それじゃあ、リビングで待ってる!!!」

 狂ったように首と手を大きく振りながらそう言うと、転がるようにベッドから降りて、ぴやーっと凄い速さで部屋から出て行く。


 バタン! と勢いよくドアが閉まったと同時に俺の口から洩れるのはため息。

「……もうちょっとだけ休もう。落ち着くまで待とう」

 今ちょっと人前に出れる状態じゃないし、かなり大変な状態だし。

 学校あるから流石に流石にだけど……でも、だから結構時間かかりそうだ。


 ……ていうかこれ毎日なのかな、もしかして?

 毎日起こしに来てくれるのかな、柊木が?


 それはすごく嬉しいし、夢のようなんだけど……でも毎日俺の上でねこのポーズなんてされたら絶対に耐えられないよ、いつか本当に……やっぱりそのためにも今日しっかり柊木に気持ち、伝えないとな。


 ~~~

「……んっ、日向、ひなた……ひなたぁ……どうしよう、ひなたぁ……くちゅ、ちゅぷっ……どうしよう、ひなたぁ……」

 ―大変だよ、朝なのに身体が日向を求めてぽわぽわドキドキくちゅくちゅが止まんないよ、ずっと日向の事求めてる。


 ―起こすだけなのに、日向が欲しくて跨っちゃって、色々イタズラ……そんなのダメなのに、これから一緒に住むからそんなの……ダメだな、私。本当にえっちな女の子になっちゃう、このままじゃ本当におバカちゃんになっちゃう……ひゃうっ。


「んんっ、日向、日向……日向……くちゅ……」

 ―どうしよう、本当に……一緒に住んで、耐えられるかな、私? 私、日向と一緒に住んで、日向の事……大丈夫じゃ、ない気がしてきた……だって、大好きだから。


 ―大好きだから、本当に大好きで、そんな人が一つ屋根の下同じ家で24時間ずっと一緒だから……大好きな日向の事、ずっと求めちゃいそうだ。


「あんっ、日向……あんんっ、ひなたぁ……」

 ―朝なのに、こうなってるもん……時間ない朝なのに、日向の事、すっごく求めっちゃって、欲しくなって……どうしよう、本当に? 


 ―大好きな日向を……でも、日向は……どうしよう、どうしよう……んっ、日向……




 ☆


「ところで日向、ずいぶん降りてくるの遅かったわね? 大きな声も聞こえたし、まさか亜理紗ちゃんにイタズラしたんじゃないでしょうね!」

 何とかおさまったところで制服に着替えて降りたリビング。

 

 久しぶりの4人……いや、父さんいないから3人での朝食となったところで母さんが聞いてくる……イタズラなんてしてません!


「してないよ、そんな事! それにどちらかといえば……いや、何でもない! 何もなっかたよな、柊木!」


「う、うん! 何もなかったよね! おばさん、何もなかったですよ!」

 俺の言葉にまだ顔の赤い柊木もうんうん頷く。

 うん、実際何もなかったんだし、変なことは起きてないし!


「ふーん、そっか……まあ何もなかったらいいや。ところで亜理紗ちゃん、そのお味噌汁どう? お口には合うかしら?」


「は、はい、美味しいです! いつも通りおばさんの料理は美味しいです! やっぱりおばさんの朝ご飯最高です!」


「そっか、良かった! それじゃあいっぱい食べてね、朝ごはんは大切だから! ふふっ、休日じゃなくて平日に亜里沙ちゃんと朝ごはん食べるのなんか新鮮だわ」


「そうですね、私も制服でおばさんの料理食べるの初めてな気がします。それも朝から⋯⋯えへへ」

 ニコニコと微笑みながら柊木の方を見る母さんにほんと甘すぎる、とか思いながらでもニコニコの柊木が見れたからいいや、なんて思って。

 これもまた日常になるなら嬉しいな、なんて思ったりして。


「……あれ、そう言えば父さんは? まだ出社する時間じゃないよね?」


「ああ、なんかランニングしてたら職質受けたって。まあすぐ帰ってくるでしょ」

 ……朝から何してんだようちの父さんは。

 ていうか母さんも焦りなよ、自分の夫だろ!


 ☆


 職質を受けていた父さんも帰ってきて、色々準備してたら登校の時間。

 エプロンをほどいた柊木が、すっかり乾いた制服姿でとてとてと俺のそばに駆け寄ってくる。


「お、お待たせ。学校早く行こ?」


「それだけどさ、一緒にいっていいのかな?」


「……なんで?」


「いや、そのみんなに言ってないわけだし。同じ家から出てくるとこ見られたらあれかなー、って」

 別に俺は良いんだけど、柊木は親が〜、みたいな事情があるんだし。

 それ誰にも言ってないわけだし、一緒に出ない方が良いかな、って。


「あ、確かに。そ、それじゃあ私は裏口から出るね。それなら多分わかんないし! それじゃあいつもの場所で……」


『ティガレックス! グルルルル!』

 二人合わせて翼広げてあのポーズ。

 柊木のは腰が引けてるからそれは悪Zだよ。


「悪Zじゃないし、ちゃんとティガだし! それじゃあいつもの場所で! 待ってるから早く来てよね!」


「多分俺の方が早く着くけど。OK,それじゃあ……」


『行ってきます!』


「はいはい、行ってらっしゃい。気をつけていくんだよ」


「父さんにはよくわからんかったけど、とりあえず学校頑張るんだぞ、二人とも!」

 少し呆れたように、でも何も言わずに苦笑いしていた母さんと父さんに行ってきます! と元気よく叫んで、それぞれの道を学校まで歩くことにした。




「あ、鮫島の方が早い! もしかして待った?」


「ううん、待ってない。今着いたとこ」


「そっか、良かった……なんか同じ家から出たのに違う道行くって面白いね。どうせ一緒になるんだし、すごく無駄なことしてるみたい」


「そうかもだけど、これからこうやっていくんだし。だから慣れるしかないぜ」


「……それもそうか。それじゃあ鮫島、今日も学校、頑張ろうね!」

 すっかり普段通りに戻った柊木から、これまた普段通りのニッコリ笑顔を貰った。



「……どうかした? ちょっと前かがみだけど大丈夫?」


「大丈夫大丈夫! 全然大丈夫!」

 ……ちょっと朝の事とか昨日の事とか思い出しちゃったけどでも耐えるぞ、今から学校!



 ★★★

 亜理紗ちゃん視点の話欲しいですかね?

 感想や☆やフォローなどしていただけると嬉しいです!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る