義妹が心配なので実家に帰らせていただきます! 世界最高峰の精霊使いは義妹のために辺境に隠居する

マグ

序章①


 ある酒場の一つでは、今日も冒険者や職人たちで溢れかえっていた。


 陽気に騒ぎ立てる人たちを尻目に、剣呑な雰囲気をはらむテーブルが一つあった。年の頃は14~16歳くらいの、いかにも駆け出しの冒険者といった風貌の少年少女が六人。


「今日のクエストも失敗だ。これで連続3回だぞ、どうなってんだよ」


 赤毛の少年が机を叩きつけながら叫ぶ。店内に響き渡った声を聞き、他の客たちの注目を集めてしまった。


 それを気にすること無く、赤毛の少年は同じテーブルにいた気の弱そうな青髪の少年の胸ぐらを掴んだ。


「それもこれもお前のせいだぞ、ルーク!お前がしっかり魔獣の足止めをしないから、俺たちが攻撃できねえんだよ!案山子だってお前よりは役に立つぞ、この役立たずが!」


 周囲にいた冒険者たちは、青髪の少年の装備に注目する。武器はショートソードと見られる片手剣。防具は一切無く、ボロボロになった外套が一枚だけ。


 対する赤毛の少年は、駆け出しにしては珍しく、鉄製の防具を身につけ、背にはロングソードを担いでいた。


 他のメンバーはこの二人の中間といったところか、低級魔獣の皮で作られた防具を身にまとっていた。


「あの装備で盾役をやってんのか?」

「回避が上手いのかも」

「しかし、あの装備の差はいかにも・・・・・・」


 周囲の冒険者たちは、時折何かを相談しながら赤髪の少年の発言に耳を傾ける。


「だいたい、剣術と魔術がどっちも仕えるっていうから誘ってやったのに、戦闘じゃなんの役にも立たねえじゃねえか」


 話を聞いていた冒険者の全員が思った。なんで盾役なんてやらしてんだよ、と。


「剣術と魔術が使えるってことは、育成次第でどっちにも持って行けるな」

「バカ言え。だったら魔剣士一本だろうが!」

「「それだ!」」


 周囲の冒険者たちは徐々にテンションが上がっていく。


「おい、早くリーダー呼んで来い」

「うわ、出遅れる」


 様子を見守っていた冒険者の中から何人かが店の外に駆け出していった。


「ね、ねえバカラ。もうその辺で止めましょうよ。ルークだって反省してるわ」


 栗色の髪の少女が赤髪の少年の腕を掴んで必死に止めようとするが、少年の方は聞く耳を持とうとしない。


「俺たちの目標は特級クランに入団することなんだぞ!いつまでも冒険者ギルドのくだらない低級依頼ばっか受けてられないんだよ」


 その言葉を聞いて、ベテランの冒険者たちは鼻で笑っていた。そのくだらない低級依頼すら達成できていないお前らはなんなんだ、と。


「こんなお荷物必要無い!とっととパーティから追い出そうぜ」


 赤髪の少年は、そう言って残りのメンバーを見渡した。卓について座ったままなのは三人。


「ああ良いぜ。こいつのために分配が少なくなっていたのが気に食わなかったんだ」

「不要な者は、早めに捨てるべきだ」

「・・・・・・」


 二人の少年が即座に賛成する。そんな中、金髪の少女だけは青髪の少年を見つめたまま、黙っていた。


「文句のあるやつはいねえな」

「あ、あるわよ。私は反対だわ」


 栗色の髪の少女が慌てて止めようとする。しかし、少年三人は追放に賛成し、金髪の少女が無投票。その時点で、青髪の少年が追放されることは決まっていた。


「なら、ミーシャも一緒に抜けるか?」

「そ、それは・・・・・・」


 赤髪の少年はにやりと笑みを浮かべると、栗色の少女に近づくと、少女の顔に手を伸ばして顎を強引に持ち上げた。


「良いのかよ。俺は『ギフトスキル』持ちだぜ。俺についてくりゃ、冒険者としての成功は目に見えてるんだぜ?」


 その言葉を聞いて、酒場の中が一斉に騒がしくなった。


 ギフトスキルと呼ばれるスキルは、1000人に一人とも、10000人に一人とも言われている。さらに、戦闘に適したギフトスキル持ちとなると、更に希少だ。


「相手がギフトスキル持ちってなると、こりゃ確定だろ」

「是が非でも手に入れねえとな」


 酒場中の冒険者たちが、少年たち六人を取り囲むように陣取りはじめた。だが、渦中の少年たちは、そのことに一切気づいていない。


「どうするんだ?今ならまだ、一晩俺の相手をするだけで許してやるぜ?」

「う・・・・・・うぅ」

「や、やめろよ。ミーシャは関係ないじゃないか!」


 ずっと押し黙っていた青髪の少年が、赤髪の少年の手を振り払う。開放された少女は、ぺたんと床に座り込むと、ポロポロと涙を流しはじめた。


「なんだルーク、俺に意見する気か?」

「意見なんかするか。僕はもう、お前の仲間じゃ無いんだろ」

「ああ、そうだ」


「「「よっしゃあ!追放だあぁ!」」」


 赤髪の少年がそう言った瞬間、周囲を取り囲んでいた冒険者たちが一斉に飛びかかった。


「ルークくんと言ったね。私は第4級冒険者クラン『輝け一番槍』のマスター、バッツという。我々と共に明日の一番槍を目指そう!」

「え?」

「あいや待たれよ。我こそは第3級冒険者クラン『カツオ武士道』の頭領、サバオと申す。共に山籠もりをいたそうではないか」

「ちょ、ちょっと」

「我こそは・・・・・・・」

「俺たちは・・・・・・・」

「我がクランは・・・・・・」


 わっちゃわっちゃと青髪の少年に冒険者が詰め寄せる。先ほどまで偉そうにしていた赤髪の少年は、いつしか放り出されて放置状態だった。


「お、おい!ギフトスキルを持っているのは俺だぞ。声をかける相手を間違えてないか!」


 声をあげる赤髪の少年のことを、誰一人として気にする人間はいなかった。


「どうして俺を無視しやがる。ギフトを持っているのは俺だって言ってるだろぉが。無視してんじゃねえぞ、低級クランども!くらえ、『火炎龍!』」


 赤髪の少年の全身から、紅蓮の炎が溢れ出す。それは徐々に形を帯び、手の平サイズの小さなドラゴンの姿になった。


「へへ、これが俺のギフトスキル『火炎龍』だ。俺の凄さを思い知れ!」

「消して」

「へ?」

「さんきゅ」


 赤髪の少年の黒い外套を目深にかぶった青年が通り過ぎると、少年の手にあった火炎龍はパチンとはじけるように消えていった。


 少年は何が起こったのかわからず、ただただ黒い外套をまとった青年を見送ることしかできなかった。

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