毒と嘘1

 赤面症のか。ガスマスクをつけた白衣の男が施設を訪れ、台車で男達を運ぶ。ワゴン車に押し込み、戻ってくると彼含め和達は清掃作業に取り掛かる。小一時間。隅々まで手を加え、依頼者に報告すると白衣の男を追いかけるように和らは“葉加瀬診療所”を訪れる。


「ごめんね。疲れてるのに」


 診察室。意識失ってる男四人をベッドに寝かせ手当てする医者。和の言葉に動きは止めるも言葉は返さず黙々と手を動かす。

 邪魔かな、と待合室に行くと椅子に腰掛け足を組む兼二が興味津々にドアを見つめる。


「京ちゃんと兼二は初めて会うよね。俺と勝は怪我したり、報復でやり過ぎたときに世話になってる俺ら専属の医者。葉加瀬はかせ ガク君。

 お若い三十代のとっても可愛い子でなんだけど、妹が医療事故でなくなって。俺らと似たような境遇の人。赤面症と緊張しやすいからいつもマスクつけてるけど優しいよ。俺らと違って」


 ドアを見ながら説明していると、白い手袋をした手がドアの隙間から出てくる。ちょいちょい、と和を呼び顔だけ突っ込む。


「なぁに、ガク君」


「(今にも消えそうな弱々しい小声で)あ、あの。ふ、二人重症なので……その、言い分つけて大きな病院に搬送しますね」


「あ、やっぱり。ひゃ~悪いねぇ」


「(怯えながら)あ、あと……小鳥遊さんにお願いしたいことがあるんですが……」


「ん。じゃあ、一旦出直して来る。明日、また来るよ」


 依頼を終えたため一旦解散。兼二は捜査があるとバイクを飛ばし、和は勝と京一と事務所に戻るも階段で勝の背中にしがみつく京一を見て笑う。長期休暇取得のため取材で各地を飛び回る勝についていきたい、そう子供のようにねだる。


「余計に疲れる」


『そこを何とか』


 階段から突き落とす勢いで肘を京一にかますと腕をつかみ落下をギリギリ止める。離せば怪我、引き寄せれば無傷。勝なりのちょっとした賭けか。ニヤリと笑うと、ついてきな。引き寄せ一言言うと階段を降りる。


「本業行ってくるわ。留守頼んだぜ、和」


 それによっしゃ!! とガッツする京一。和は、はーい、と手を振り見送ると一人寂しく事務所の中へ。疲れたとソファーに腰掛け、寝転びそのまま眠りにつくも寝付きが悪く体を起こす。ため息をつき、風呂に入り、小さな冷蔵庫から珍しく缶ビールを取り出すがティッシュを突っ込まれており笑う。


「勝、最後まで飲めって……あ、いないのか」


 文句いいながら炭酸のないただの苦いジュースと化したビールを飲む。知らぬ間に眠りにつくと不意になるスマホのバイブ音に目を覚ます。太陽の光が目に入り、手で影を作りながらスマホを取るとガクだった。


「ん。おはよ、今からいくよ」


 寝ぼけた声で返すと「お、食べましたか」の誘いの声に壁掛け時計を見る。あらま、寝坊。驚きつつ了承すると身支度を整え外へ。


 たどり着くはバスと電車を乗りつき、海近くにある大型ショッピングモール。その中にあるスイーツビュッフェhappy SweetS。そこが決まったら待ち合わせ場所。

 店に入ると女性客大半を占めている中にポツンと男。早足で近付き、さりげなく向けられる視線を無視しつつ声をかける。


「お待たせ」


 傷ついた笑顔の仮面をつけた華奢で京一よりも頼りない猫背な姿勢。コンプレックスな百六十九の低身長と清楚な黒髪ショートヘアー。仮面を外すと大人にしては童顔過ぎる顔に和はニンマリ。それに驚き顔を赤くしながら小声で言う。


「す、すみません……。午前中のみの診察でして……あの、僕――」


 周囲を気にしすぎて挙動不審な彼に「ガクちゃん、とりま食べよっか」と和は頭に手を置く。ヨシヨシ、と撫で落ち着かせると頼りない声。


「あ、はい……すみません。いつものお願いしてもいいですか。僕、この中で取りに行くのは怖くて」


「いいよ。おじさん、頑張って作ってくるから待っててね」


 ガクは極度の人見知りと赤面症のため、ある程度慣れればどうにかなるか。女性の比率が多かったり、人が多いと役に立たない。だから、兼二と似てスイーツ好きな彼にご褒美としてビュッフェでのカウンセリングや依頼と月一もしくは数ヵ月に一回話を聞く。仕事仲間と言うよりお得意さん。


「えっと、確かこうやって。こうか」


 不馴れながらワッフルメーカーに生地を流し込み、数分待ちワッフルを皿に盛ると生クリームをソフトクリームのように絞る。イチゴソース、チョコスプレー、季節のカットフルーツを添え、和特製ワッフルを食べさせるのが決まり。


「お待たせ、出来たよ」

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