詐欺師6

 三人が事務所で転がり寝る中。和は静かに外へ。時刻は六時頃。店もやってない物静かな街の中を彼は一人歩く。スマホを取り出し、登録してない電話番号を丁寧に打ち込むと耳に当てた。コールが三回鳴り消える。


『もしもし?』


 若い女性の声。


『あの、誰ですか』


 二年前の番号。解約済みか、お目当ての声ではなく静かに切る。指名で行くしかないか、そう心の中で言った。

 一旦戻るも情報を漏らしたくないと珍しく皆休みのため事務所待機。トランプやテレビと外出禁止としつつだらける四人。だが、夕刻になるにつれ雰囲気が一変。真剣な顔立ち。和は黒スーツからネイビーに服を着替え、それを見て勝も着替えようかとボタンを外すも堅苦しい表情に手を止める。


「和、俺のお守りやるよ」


 事務所の窓を鏡代わりに和がネクタイを結んでいると勝が声かけ、袖に何かを仕込む。続けて、旦那、と京一が振り向かせるとフラワーボールに丸い青いスワロフスキーのラペルピンを挿す。兼二は特に何もなく小声で、死ぬなよ、の一言。


「あのさ、死にに行くんじゃないんだから。見て分かるよね、おめかししてるんだけど」


 説教混じり言葉を吐くも張り詰める空気は消えず。ダメ元且つお遊び半分口を開く。


「女の子と話したい人、挙手。もしくは、俺に同伴したい人。今なら俺持ち」


 その言葉に勝、京一、兼二が一斉に手を上げた。



         *



 二十二時頃。

 和は開店から少し時間をずらし目的地のキャバクラへ。扉を開けるとボーイが丁寧にお辞儀。


「いらっしゃいませ」


「あぁ、どうも。指名というかなんというか。表の看板や広告で喜楽里きらりって子に惚れてね。空いてたらでいいよ。空いてなかったら指名はないから適当に」


「かしこまりました。では、此方へ」


 案内され歩き出し、右に軽く顔を向けるとワイン色のYシャツを着た勝と場馴れしていない京一。左には、仕事帰りです、と疲れ顔の兼二。三人とさりげなく目を合わせ、微笑むと席へ。

 椅子に深く腰掛け、キャストが来る前にスマホをチラリ。三人から連絡来てるかと見るも、流石に接待中には来ないか、と珍しく骨伝導ヘッドフォンを外し溜め息。スナックやバーと近場に行くが高級感溢れる場所には和も慣れておらず落ち着こうとタバコを咥える。


 だが――失礼します。


 赤くも深みのある胸が溢れそうな大胆なドレスを着たキャストが視界に。ん、と顔を向けるとお目当ての人。あぁ、とテーブルの灰皿を取ろうと手を伸ばすと、タバコ好きなんですか? と丁寧に取り和の前へ。

 いや、嫌いだが落ち着く。そう、さりげなく返しジッポライターを取り出すと細く艶やかな手がスッとジッポライターを抜き取り、カチンッと音を発て女性にしては慣れた手つきで火を点す。顔を近づけ、先っぽに火を点けると煙を吹き掛けないよう上を向く。


「あんがと。いつもより美味しいよ。なんてね」


 ハッと笑うとキャストも笑う。その人はお目当ての人ではあったが、微笑むその姿は和のことは覚えていなかった。


 酒に弱いと嘘をつき、ウーロン茶が入ったグラスを口に運ぶ。本来なら酒を飲みたいが酔っぱらって潰れてしまったら意味がない。


「初めまして喜楽里きらりです。指名してくださり、ありがとうございます。フラワーボールについているのすごく綺麗」


 彼女は写真の通り見た目は派手だか話してみると清楚で落ち着きがある。喜楽里の視線がラペルピンに向いてるのに気づき、わざと外して掌に置くと目が宝石のように輝いていた。この時代にしては身に付ける人があまりいないせいか、珍しく感じたのだろう。気に入ったらしい。

 それを中心に話題が弾み、楽しげな雰囲気が続くもボーイがテーブルにキャンドルを置いた瞬間――和の表情が少し険しくなる。場を暖め、去る瞬間に叩き落とす。接待としては最悪なシチュエーション。その時期を伺っていた。


「ねぇ、喜楽里。俺、ワンセットで帰るからそろそろ支度しないとなんだけど。実は一つ真剣に話したいことがあって此処に来た」


 チラッと彼女の目を見てどう反応するか様子を見る。


「ここ最近、若い人の間で人間レンタルサービスとか出会い系の詐欺が多発してて君が関連してるんじゃないかって話がの中で浮上してる。もし、そうなら組織を解散。または出頭。違うなら今此処で俺の目を見て言って欲しい」


 和の言葉に笑顔だった彼女の顔が強ばり、視線がさ迷う。口を開け言い訳を言うつもりが声が出ず、数秒経って作り笑顔。何の話? と誤魔化されるも和は見逃さなかった。

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