ミンチ事件3

 彼女から話を聞くと、前の校長の方が評判は良かった。入れ替わってから学校自体の評価が下がり、偏差値も知名度も下がったという。自分中心で悪く言えば地位だけ欲しい。教師仲も悪くなり、担任が嫌いなあまりに生徒に愚痴るほどだとか。


「どうする、和」


 立ち去る女子生徒を見つめ、んーと考えるも答えは決まってる。


「今の椅子から引きずり下ろして、現実観てもらおうか」


 和は校舎を見つめ、ニヤリと笑った。


 翌朝。

 和は別件のため夕刻から不在。そのため勝は京一を連れ、聖高等学校に来ていた。正しくは学校の見える空き家を借り、張り込み。勝は記事を書き匂わせ行為。注目が集まるよう和や兼二に拡散促しテレビでは報道されないがSNSやネット記事でバズッていた。

 七時頃、勝る同様同じ部屋で監視カメラをハッキングし遊んでいた京一。関係者らしき女性の姿に部屋を飛び出し、恐ろしく優しい声で呼び止める。


「あの、自分。新人記者・・・・でして『この高校の校長が○○事件の関係者って噂があるんですよ。少しお話出来ますか?」


 優しく暖かみのある京一の声に女性は頬を赤く染め、髪の毛を弄り照れながら意図も簡単に口を開く。



【続報】

『H高等学校の校長は女性ミンチ事件の社長だった!!』



 イヤホンで京一の会話を盗み、あっという間に書き上げる。通勤時間のせいか、スマホをよく観る時間帯なのだろう。気づけば学校の前に報道陣や近所の人達が集っていた。


 罵声。心無い言葉。

 記事とは恐ろしい。


 学校は臨時休校となり、警察沙汰。並みのように迫る人に学校側も門を閉め、照明すらついてない。


「あ~ら、かわいそう。まぁ、学校じゃなくて校長が悪い。ほら、皆で追い出せ。追い出せ」


 遅れて定位置についた和は一人クスクス笑いながら裏門近くの木に隠れ、周囲を警戒しながら入ってくる男性に目をつける。気付かれないようゆっくり近づき首を絞め気絶。引き摺り車の影へ。


「悪いね」


 服を剥ぎ取り、私物借りるね、と空いていた窓からゆっくり侵入。階段を登り、二階にある職員室に行くと口論が聞こえた。

 あの校長やっぱり隠してると思ったのよ。今すぐ追い出すべきだ。教頭と話し合っているのか不満が漏れ、そんな彼らの言葉を和は楽しそうに聞く。


「校長は?」


「朝居たけど部屋にいない。どこかに隠れてるんじゃないかしら」


 戸が開き、教師達が探そうと廊下に出る。その隙に和は職員室に忍び込む。触れないように目で見て、校長室のドアノブをハンカチを使って開けた。話の通り人の気配は無い。部屋にはカーテンがなく、不自然に開いた窓に目が入る。


「へぇ、慣れてんのな」


 窓か覗くと何枚も結び合わせられ、ロープ代わりとなったカーテンがあった。


 校舎裏。関係者駐車場にある黒い高級車。そこに元加工肉工場社長 園田そのだ 隆司たかしがいた。焦りながらシートベルトを絞め、エンジンをつけると頭に銃。恐る恐るルームミラーを見ると兼二の姿。


「部屋から逃げたくせに財産目当てで探し物か。そのまま逃げてれば捕まらなかったのに」


「だ、誰だ!! 貴様」


 社長が振り向いた瞬間、思いっきり顔面を殴る。痛みと勢いに負け、窓に頭をぶつけるとドアを開け這いずるように逃げ出す。しかし、兼二も追い詰めるようにゆっくり車から降り――。


「あら、スゴくいい場面取られちゃったか。社長さん、警察・・に殴られるなんてアンタ相当悪いことしたんだねぇ。お仕置きしないとな~」


 少し遅れて和が合流。一瞬、兼二を見ると不機嫌で今にも人を殴りそうな殺気放つ気配に言う。


「兼二、お得意の気絶スタン


「いいのか」


「此処でやっても俺は許した気にはならない。それなりの方法じゃないとイヤよ」


「そうか。なら、ボコらせてもらう」


「やったれ」


 レッグポーチから折り畳み式の警棒を振り伸ばすとシュッと音が鳴る。社長に近付き、大きく振り上げると「調教の時間だ」と勢い良く振り下ろした。


          *


「はいはーい。クジやるよ。集え」


 日が落ち闇が空を支配する頃。

 彼らは数ヵ月前、廃工場となった加工肉工場に居た。ミンチ事件とは全く無縁の場所だが楽しげな声が響く。

 和は空き缶に箸を入れ、シャカシャカと振りながら勝、京一、兼二の目の前に腕を伸ばした。後ろにはブルーシートに包まれ気絶している社長。起こさぬよう声を押さえているつもりだがバカみたいに煩い。若い者のように騒ぎはしゃぐ和立ち。それに目を覚ましたのかモゾッとブルーシートが動く。


「あん?」


「ほら、勝。早く引いて」


 せーの、と一斉に箸を抜き、先端に赤く塗りつぶされたマークに和が手を上げる。


「はい、同害報復。ミンチの刑」


 ニカッと笑顔で楽しげに。ハイテンションで言うと周囲をふらつき縄を手に取る。


「牛とか豚とかみたいに吊り下げて、頭か逝かせる。あ、泣き叫ぶのが見たいなら足先や手先が良いけど。皆、何処からがいい?」


 四人の視線は社長。もがく姿にニヤリと笑みを浮かべ順番に勝、京一、兼二と順に口を開く。


「足っすね」


「足だな」


 続けて。


「手先やって機械停止で泣き叫んでもらう。女性は頭から胸辺りまでミンチになった。足の方が見ごたえはある。終わったら動物の餌にでも回しておけばいい。処理が楽だ」


 兼二の言葉に和は「だよね」とブルーシートに包まれた社長を一発殴り気絶。その隙に鎖を足に巻き大型のミンチ機の上に吊り下げる。目を覚まし、怯え言葉を失う社長に勝は見上げご挨拶。


「お目覚めか、社長さんよぉ。今、どんな気分? 是非とも『同害報復』雑誌の記事の参考に」


 カチカチとボールペンを鳴らしながら、メモ帳を取り出す。


「お、お前ら何者だ!! こんなことしていいと思ってるのか。警察に言いつけてやるからな」


 テンパったか怒鳴り散らすと京一がメガホンを手に言う。


「悪魔な記者と探偵と警察じゃお前の悪事なんて調査済み。浮気調査のいい暇潰し、楽しかったよ」

 

 大きく手を振り、二人の後ろでラムネのタバコを咥え、つまらなさそうに見ていた兼二が真下に立ち冷笑。


「俺は警察・・だが文句あるか」


 兼二の言葉に言葉を失う。

 社長の顔色が一気に変わる。


「工場勤務の奴等から証言は取れてる。人権削減、経費削減、休日なしの激務だったらしいな。しかも、過労で搬送されたって? それに多額の大金で弁護士に無罪にするよう頼み勝ち取ったとも聞いたな」


「べ、弁護士!? 何のことだ」


「昨日、お前を弁護した奴が此処・・にいる。ソイツは見た目は普通だが頼まれれば何にでも成り済ます。変わり者でな、和」

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