第30話:うちに温度計はない

 中間テストと冬の足音が近づく11月半ば。うちの山より寒いことはなかろうと思っていたんだけど都会の冬もちゃんと寒い。単純な気温だけならうちの山の方が寒いんだろうけど、都会は道路や建物が一度冷えるとそこから冷気が伝わってくるような気がする。まあ俺は炎熱系魔術師。寒さ対策はお手の物である。あちち、マフラー温めすぎた。

 そう、マフラー。

 この間服を買いに行ったとき山中さんに選んでもらった白と紺色の縞々の奴だ。このマフラーは二人の絆なのだ……つまり実質婚約指輪相当では? 婚約マフラー。うへへ。


「何を気色悪い顔をしている」

「何だか幸せそう」

「有体に言ってメイジくんキモイね」


 散々な言われようだ。それぞれラヴィーネ、アンジェラさん、タケシだ。しかし今の俺は無敵である。何故なら山中さんに選んでもらったマフラーがあるからだ。マフラーバリー。

 今日はアンジェラさんも交えてファミレスで相談会だ。アンジェラさんもなんか久々な感じがする。

 何の話かというと魔界にスマホを、の話だ。


「結局その何とかって教授とはどういう話になったの?」

「やはり画面の出力という所で躓いているみたいだ。スマホレベルの高等な映像反映は道具を使ったところで魔術だけでは再現できないという結論だ」


 まあ、それはそうだ。魔界でスマホとSNS計画は結構越えなきゃいけない壁が多い。

 まず撮影した写真を保存しておく端末が必要だ。これは今でも写真という形で保存出来ているらしいけど、一枚現像がやっとの容量で、これでは少ないと思う。これを解決しないと気軽に写真が撮れない。

 次に撮影した写真を保存しておいたとして、どのように共有するのかだ。

 絵の展覧会みたいに一堂に会してとかでもいいっちゃいいんだけど、目標とするものがアウスタみたいなSNSなので、どこでも手軽に閲覧できる機能が必要だ。

 最後にその閲覧した写真に反応を示す機能。


「詳細は分からないけれど、難しそうっていうのは聞いててわかった。正直そこまでやるなら魔界にアンテナ立ててスマホ持ち込んだ方が早いよね」


 タケシの意見はごもっともであるが、別に出来ないわけではない。

 一先ず世界中に発信するって所は置いといて、撮った写真を相手に共有できればいいんだ。それで相手がそれに反応を示せれば尚いいんだから、要は念話の応用でいけるってことだよ。

 だからつまり、ケ、ウル、ニ、メ、ソア。


「これでどう?」

「わっ、すごいよメイジくん。頭の中にメイジくんが山中さんとデレデレしながら映ってる写真の映像が浮かんできた! 初めて魔術を体験できたかも!」


 いや今までも動画撮影で見てたし転移とかしてきたじゃん。不思議体験として分かりやすい? そう……。


「うむ。見えるな。確かに浮かんできた映像に対してこちらから念話でコメントを返せば一応コミュニケーションの基礎はこなせる。思っていたものとは異なるが、ここから進歩させていくさ」

「だらしない顔」


 アンジェラさんの感想はともかく、これで一通りの検証は出来たな。

 魔術が使えるラヴィーネ、魔術は使えないが魔力があって念動力者のアンジェラさん、魔術も念動力も使えないが魔力はあるタケシ。全員に対してこの写真の共有が行えたわけだ。

 じゃあ後で術式と呪文渡すから。ただこれ目で見たものしか送れないから、やっぱ映像を保存しておく手段は必要だね。


「まあその辺りは改良に期待するとしよう」


 それよりラヴィーネすごいじゃん。告知見たよ。なんか服のコラボ? するらしいじゃん。

 そう訊ねると物凄くわかりやすく得意げな表情を浮かべた。心なしかふわふわの毛先も巻きを強めて跳ね上がってる気がする。


「そうなのだ。企業の方から依頼があってな。これでまた多くの人々に可愛い私を見せられるぞ」


 俺も結構都会を楽しんでる方だと思うけど、ラヴィーネには敵わないと思う。こういう見られることに対する意識が分かる時、ラヴィーネって姫だなって感じでいいと思う。


 入口の鈴の鳴る音。

 あれ、コエダさまだ。今日は来ないってメッセージ飛んできてたのに。実は連絡がある時、鳥とか動物が手紙を運んでくるのを勝手にちょっと期待していたりした。勿論そんなことはなかったけど。

 コエダさまはアンジェラさんを凝視して固まっている。自慢の尻尾と耳がピーンと逆立って天を衝いている。見つめられているアンジェラさんは初めて見るコエダさまに表情は変わってないけど膝の上の手がソワソワしている。


「な、なんじゃこのとてつもない波動は。おいメイジ! こやつヤバイぞ! 日本を沈めかねない波動の力を秘めておるぞ!」

「……そんなことはしない」


 そんな大袈裟な。どうせ見たことないくらい大きいから適当言ってるんでしょ。ほらアンジェラさんも悲しそうな顔してる。特に表情変わってないけど。

 あれ、今しないっていった? もしかして、しないだけで出来なくもない? そ、そんなことできるの「そんなことはできない」あ、はいすみません。


「コエダさま。こちら今は日本で活動中の念動力者のアンジェラさん。以前色々あって戦った仲。アンジェラさん。このちんまいのはコエダさま。奥卵の守護稲荷やってるんだって」

「シュゴイナリ? それはどんな意味」


 そういやどんな意味なんだろうコエダさま。奥卵の土地や霊脈を守る守護役。はえーそういう役回りだったんだ。うちの山への入口とかコエダさまが作ったんだろうか。


「おいメイジ。お主よくこんなのと戦って無事に生き残れたな。式力だけバカでかいはなたれ小僧かと思っていたが、ちょっとだけ見直したぞ」


 俺、町の案内とか説明、結構頑張ってたと思うんだけどそういうところで見直してくれないのか……。


「そうではなくてだな! おいメイジ。手を貸せ。何やら東でとんでもないことが起きておるようだぞ」

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