第25話:うちに何用かい?

「久しいなスマホ。早速で悪いがタケシはどこにある?」

「ラヴィーネさん。僕とスマホが逆。あとこれ預かってたスマホね」

「おお! 私のデコちゃん!」


 デコちゃん。デコちゃん……?

 ラヴィーネが帰ってきた。魔界とこっちの出入口から家までは結構遠く、行き来するのもそれなりに大変なんだって。

 久しぶりに会ったラヴィーネは目がスマホだった。

 よくよく聞いてみると帰省中スマホが使えなくて禁断症状を起こしていたみたいだ。俺も家に帰ると電波が無いから少しは気持ちが分かるけど、そんなになるほどなのかな。なるかも。

 相変わらずちょっと毛先がふわふわした金髪だし、羊みたいな角が生えてるし、アイドルみたいな顔してる。アウスタだと可愛い可愛い言われてちょーし乗ってたらしいけど、俺は山中さんの方が可愛いと思う。

 変わったことと言えば初めて会った時みたいな服じゃなくて、ヴニクロで買った服を着ていたことだ。こっちの方が可愛いらしい。動きやすいとか言ってたあの頃のラヴィーネは何処に。


 落ち着いたところでアンジェラさんの紹介。ラヴィーネがアンジェラさんの圧に気圧されていたが意外な事にすぐ服とかお洒落の話題で打ち解けていた。女の話はよく分からん。タケシ、ヌメブラやろうぜ。

 そう。アンジェラさんがついにタケシんちまでついてくるようになった。タケシが「別にいいんじゃない? 面白そうだし」とその場に居た山中さんをチラッと見ながら許可を出した所為で俺たちの遊び場にまで入ってくるようになった。なんで山中さん見たんだろう。そしてなんで山中さんちょっと怒ってるのだ……?

 まあちょっと年上だけど別にヌメブラくらいできるっしょ。

 できる? 何使うの? カズト? 悪魔がよ……っ!



「あーこれメイジくん死んだ。死ぬわけない? まあみてなって。ほら死んだ。アンさん上手いですね」

『2Pうますぎワロタ』

『メイジへttttttった』

『災風完璧で隙なさすぎる』

『メイジはなんであれだけ動けるのにゲームは弱いんだ?』

『運動能力とゲームの強さは関係ないってことだな。よかったなオマエラ』

『仮想(こっち)は俺たちのフィールドってワケ』


 せっかくなのでとゲームの配信を始めたのが過ちだった。アンジェラさん強いぞ。え、本当に強い。なんなの? なんなら念動力で戦ってるときより強いぞ。オフの日に一人でネット対戦してた? 馬鹿野郎……! パーティーゲームだろうが……ヌメブラは……っ!

 結果俺のモッシーがカズトの拳に粉々にされる映像が移され続けている。今度は星になった。

 てかコメントの皆もえらそーに! そこまでいうならお前らやってみろよな!

 ほら勝てないじゃん。お前らも雑魚―。え、俺になら勝てる? はー??? 掛かって来いよ! げっ、お前はヒモヒモフクロウ! ナシナシ! ノーカン!(覚えた) ヌメブラはパーティーゲームだから大勢でやるのが正解でーす。はい4人乱闘。おい! なんで俺ばっかり集中攻撃するんだよ!


「おかしいゆるされないこんなことは……」

「メイジくんヌメブラはあんまり上手くないもんね。アロラントは上手なのに」

「あれは見るところ少なくていいからね……。遠くの動いている物を認識して撃つのは初心者には難しいのだ。うちの山じゃあんな遠くから攻撃してくる生き物、とーちゃんしかいないから」

『むしろとーちゃんが何なんだ』

『スナイプしてくるとーちゃん草』

『ヒモヒモはこんなところで初狩りしてないで配信しろ』

『スナイプ親父』

『8倍スコープとーちゃん』


 8倍スコープとーちゃんは面白いわ。今度言ってみよ。

 アンジェラさんはちゃんと隣に座ってプレイしている。正座でめっちゃ姿勢いい……。外国の人って正座出来ないって聞くけどアレ嘘だったのかな。

 アンジェラさんは俺の根気強い説得の甲斐あってよーやく抱きかかえるのを止めてくれるようになった。最初の頃は顔がおっぱいに挟まれて恥ずかしかったけど、段々女の人に抱きかかえられてる方が恥ずかしい事に気づいたのだ。

 でも山中さんにやってもらいたいかも……いや、俺は抱きしめられるよりも身長2メートル体重100キロのクッキョーな身体で山中さんを白馬の王子様みたいにお姫様抱っこしてお嫁さんに迎えるような男になるんだ。あの魅惑の膨らみの誘惑に負けてはいけない。

 お、質問きてる。


「"ラヴィーネちゃんはどこに行ってたの?" だってラヴィーネ。実家帰ってたんだよね。ああさっき話してたね。転移門から実家まで結構距離あるって。どのくらいなの? 奥卵から幕張くらい? 暇すぎて計算した? 何それ面白い」

『幕張は魔界だった……?』

『群馬じゃなかったのか』

『魔界へは転移する門があるのですか?』

『いや距離の話だからワンチャン群馬の可能性あるぞ』


「今度アウスタに実家で過ごしてた時の写真アップするから見てくれだってさ」

『絶対見る』

『ラヴィーネさん復活するんですね! いつも参考にしてます! 大好きなんで嬉しいです!』

『通勤時に見てます』

『彼女は本物の悪魔なのですか?』

『本人は魔族って言ってたぞ。悪魔との差は不明』

『サキュバスって言うとクッソキレてくるから注意な』


「あのさぁなんでラヴィーネの話だとみんなこんな好意的なの? 俺にももーちょっと優しくしてくれてもよくない?」

『ダメ』

『ダメ』

『いじけてる時がかわいいからダメ』


 なんでだ。おれは理不尽には屈しないぞ!




 ダメでした。

 あの後色んなゲームをアンジェラさんやタケシやラヴィーネ、視聴者の皆とやったんだけど大体俺がボコボコのヴォッコにされて終わった。かなしい。

 時間も時間だったので解散となり、妙に付いてきたがるアンジェラさんを駅まで送っていつもの帰り道だ。


 そういえば、桐原さんとジョナサンさんを連れ戻す時に探査の魔術の性能が悪いせいで色々手間取った事があったから色々改良していたんだけど、魔術でどうこうするより念動力でやるのが早いとアンジェラさんにいつも使ってる探査の方法を教わった。念話でつなげて探査で検索するのが早いらしい。なるほどなーと思って最近は帰り道で猪を探すついでに練習している。


「おい、貴様!」


 概念の説明を受けると簡単そうに聞こえたんだけど、やはりというかなんというか、実際にやると結構難しい。例えるなら遠くに投げた槍をアンテナにWi-fiを受信するような感じだろうか。自分でもよく分からないなこの例え。


「きーさーまーじゃーきーさーま!」

「え、俺?」

「そうじゃ! 他に誰がいるというのだこんな山道に!」

「いや、虫とか鳥とか……」

「ワシがそんな動植物相手に一人孤独に粋がる寂しい奴に見えるか愚か者! 貴様じゃ貴様! 先日巨大な式力を使って空を飛んでおったろう!」


 え? いや、あれはかっこつけて落ちてるだけだから別に飛んではないよ。


「どちらでも良いわ! いきなりあんなバカでかい式力なぞ使いおってー! 驚いてねぐらから転がり落ちてしまったろうが! だいたい起きてみたら霊脈もズタズタになりかけていたぞ! 貴様! さては転移なぞ使いおったな! 白状しろ!」


 なんか怒ってる。

 霊脈がボロボロ? うちだと何ともなかったけど……もしかしてこの辺の霊脈、狭くね?


「言う事に欠いて我が土地の霊脈を狭いと申したか! もー堪忍ならんぞ小僧! そこに直れ!」


 茶色い髪に山吹色の獣耳。ふっさふさの尻尾を蓄えた巫女さんみたいな格好の女の子。ぷんぷん怒って地団駄を踏む姿はせいぜい小学生くらいにしか見えなくて。


「奥卵の守護稲荷、山中コエダとは我の事ぞ!」


 わあ。妖怪だ。初めて見た。

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