第15話:立てばドラゴン座ればナメクジ歩く姿は中学生
都会の機械は凄いと思う。俺が思ってた機械っていうのは時計とか水車とか井戸だったんだけど、都会でちょっと過ごしているだけでもパソコンとか電車とか電灯とかクーラーとかの凄さに触れることになった。特にパソコンは全く仕組みが分からない。電気で動いてる物なのに『雷神の息子』たる俺が手も足も出ないとは……。
たぶん俺が知らないだけで、もっと沢山の『凄い』が俺の認知する世界の外には広がっているんだと思う。
「ほわわわわ!」
「あ、ちょっと行ってくる」
『なんか知らんけど行ってら』
『またか』
『さっきから何してるんだ?』
出会った時から薄々勘付いてはいたけど、桐原さんはうちの妹程じゃないにせよ結構不器用だ。ゾボラの弦を編みこもうとして自分の髪の毛と身体ごとソバヤシの木みたいになってる。髪が逆立ってるのってゴクーみたいでちょっと格好いいかも。
縛られてるせいでぽっちゃりさんなのもあいまっておっぱいが余計にでっかく見えるけど、それでもさすがに山中さんの方が大きいな。
女の髪を勝手に切るわけにはいかないから、面倒くさいけど絡まった弦だけ解いてあげる。切って生やしちゃうのが一番早いのに。
「はい、もう一回頑張ってね」
「ふぁい……」
練習を始めて数日が経った。その間に桐原さんと色んな事を話した。
子供の頃に念動力に目覚めて以来、物を壊すのが怖くて部屋から出られなくなったんだとか。部屋から出ずに生活していて、そのおかげで時間だけはあったからパソコンには詳しくて、Utubeで俺のことを知ったんだって。
部屋から出ないで生活するってどうやるんだろうね。畑とか狩りとか家族が全部やってくれてたんだろうか。そもそもご飯はどうやって食べてたんだろう。その辺りのことを聞くと何故か泣かれたのでとりあえず保留だ。
9月に入っても奥卵は暑い。タケシ曰く日本はどこも大体こんな感じで、10月辺りにならないと過ごしやすくはならないとか。俺は魔術で自分の周りだけ気温を調節できるけど、念動力の練習をしている桐原さんはそうじゃない。なので藤棚のある公園の日陰で特訓をしているわけだ。
進捗の方はなんとも言えない感じ。狙った範囲に狙った結果が出るようになれば完全に使いこなしたってことに出来そうだけど、見た感じまだまだそんな領域に達しているようには思えなかった。
あ、ヘルプに入ってた間に(かっこいい)コメントがまた来てた。
「はいはい戻ってきたよ。何してるのって? 友達の学芸会? の練習に付き合ってるよ。失敗するとこんがらがるからその都度助けてあげてる」
『あなたが信仰する神は何ですか?』
『女?』
『また年上の女か』
『山中さん?』
『こんがらがるとは』
『魔法について話してください』
凄いといえばこのスマホだな。外に居てパソコンと同じようなことが出来て、しかもこうして気が向いたら配信を始めて世界中の顔も知らない人と会話をすることが出来る。
しかもしかもだ! 別の言語をある程度自動的に翻訳してくれる機能まであるじゃないか。コメントに流れている言葉の中には日本語以外の言語で書かれているものもあるらしいんだけど、そういうのを自動で翻訳してくれている。これは本当に便利だ。翻訳の魔術はあるにはあるけど、ありとあらゆる言葉を翻訳するから耳と頭がとんでもない事になっちゃうのだ。だからこういうものがあるなら積極的に使っていきたい。
桐原さんの念動力の練習はぶっちゃけ単調だから俺は暇だ。
「山中さんじゃないよ。山中さんは今日居ないって言ってた。あと魔法じゃなくて魔術ね。話せって言われても何を話せばいいのさ」
『お金たくさんあります。魔法教えてください』
『そうだぞメイジ。そんな面白そうなものはみんなでシェアするべきだ』
『俺もお前と肉を焼く温度で語り合いたいから教えてくれよ』
「んなこと言われてもなー。前も言ったけど魔術って魔力が動かせないと使えないのね。でさ、俺って最初っから魔力を動かせたの。ハイハイして捕まり立ちして火吹いて立ったのね。だから動くのが普通でそれを説明するのって出来ないんだよね。例えばみんなは腕の動かし方を説明できる? もしくはどうやって立ってるのか。たぶんそんな感じだよ」
『火吹いて立った(笑)』
『おいメイジ。お前ベクスはやらねーのか。俺と勝負しろ』
『こーれ切り抜きです』
『ドラゴンメイジ』
『ドラゴンメイジだと別の何かになってて草』
『神経伝達を口で説明できないということか。もっともらしくはある』
『メイジくん。最近の学校の授業はどうですか? 僕は期末試験が近くて大変です』
『逆説的にそういう幼少期に怪奇事件を起こした人物からアプローチすれば見えてくるものがあるのかも』
『そういうゴシップってガセが多すぎて見つけるのキツそう』
コメントが流れるのが速すぎて答えるのが大変だ。ぱっと答えられないやつは答えなくていいってタケシが言ってたから適当に選んで答えよ。てか8000人も見てるのか……世界は人間が多いぜ……。
「とーちゃんからそう聞いた。妹は捕まり立ちの前に氷の塊で窓割ってたよ。これは覚えてる。ドラゴンメイジって、俺ドラゴンにはなれないよ! ベクスってゲームの奴? 夏休み中ちょっとやってたよ。面白いよね。期末試験ねー。数学とか数がでかすぎて難しいよな。4桁超えると身近な存在だと山の木の数しかなくて想像できない」
『"には"?』
『まるでドラゴンじゃなければなれるかのような物言い』
『俺たちは何にだってなれるはずだ』
『でもお前無職じゃん』
『メイジきゅん実は学校の成績悪いのか』
タケシが良すぎるだけで俺は悪くない……悪くないんだ……。
神経伝達とか怪奇事件だとかはよく分からない。たぶん後で頭のいいタケシが教えてくれるだろう。
にしてもベクスか。いいこと閃いたぞ。
「ねえちょっと質問なんだけどさ。俺たちって配信越しに話したりはするけど一緒に何かやるってこと、したことないじゃん」
『急に彼氏面か。好きになるぞ』
『急にどうした』
「ベクスって確かみんなで対戦できるやつあったよね。ここのみんなでそれやってみない?」
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【ベクス】みんなでベクス【参加自由/1マッチ交代】
メイジとタケシの色々チャンネル
チャンネル登録者数 2005.2万人
25,334人が視聴中 1分前にライブ配信開始
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休みの日に開催したらなんかむっちゃ人来た。
むしろなんで今までその発想が出てこなかったのか自分でも不思議なんだけど、とにかく『いつも見てる皆でベクスしよう会』は思っていた以上に反響があった。対戦するって企画なので俺のチームは固定だから残りの19枠57人が入れ替え自由枠だ。始まる前から入れなかったってコメントがいっぱい流れていたが、まあそういうのは運なので諦めて応援していてくれ。
ちなみにうちのチームはやり込み勢のタケシと桐原さんだ。俺の腕前はクソザコナメクジ(マサヒロ談。どんな生き物なんだろう)らしいから、お荷物の俺と動ける二人って部隊だ。
「むふーメイジくんさん! あたし引きこもってて時間だけはあるからベクスには自信あるんです! いつも助けていただいているので今日はあたしがお助けいたします!」
念動力の不器用さを見ていると正直不安しかないけどやる気はあるみたいだから頑張ってもらおう。
さて、俺が選ぶキャラは当然トール。北欧神話の雷神の名前らしい。雷神の息子たる俺とインスピレーション(かっこいい)が合うキャラクターで見た目も気に入ってる。
「参加者見てるとプロの人とか混ざってるけど大丈夫そうですか?」
「そ、それは無理です……」
自信満々だったのにタケシの指摘で秒で折れっちゃった。まあ勝ち負けじゃなく今回は交流なんだからそういう細かいの置いといて楽しもうぜ。
「はぁ!? こいつ死体撃ちしたぞ! 許せん! おいタケシ、桐原さん! こいつ殺せ絶対殺せ! あーーーもう何やってんだよーーー! んもーーーー現実だったら逃がさないのにーーーー!」
『沸点中学生で草』
『リアルにリアルだったら死んでたぞって類の事言ってるやつ初めて見た』
『"勝ち負けじゃなくて細かいの置いといて楽しもうぜ"』(連投)
『本当に銃弾くらいなら避けてきそうなのがなんとも』
「はぁーーーーー!? 中学生だけど何か!? これ皆で殺しあうゲームだろ、なんで俺ばっか狙われてるんだよ! ふざけんなお前ら! 名前覚えたからな! とくにヒモヒモフクロウ、ぜってー許さんからな!」
『雷神の息子(笑)』
『さすがの雷神様も銃には勝てなかったみたいですね』
『ちゃんと中坊でワロタ』
何も面白くねーよばーかばーか! 絶対に許さん、優勝するまで絶対止めないからな!
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