2章

第13話:うちの七並べは大概陰湿

 ラヴィーネが帰って、村木さんと戦って、夏休みが終わっても俺の都会(田舎)生活は続く。日帰りだけど。

 空いた時間でちょくちょく進めてた奥卵の地図作成も完成し、コピー機でコピーして(すごいだろう)課題として提出した。なぜか先生の目が生温かったがクラスメイトには概ね好評だった。

 勿論宿題は終わらせてある。むしろやらずに遊んでいた奴の方が何なんだと聞きたい。なあマサヒロ?


 マサヒロといえば。

 夏休み中、立川まで出てタケシとマサヒロの三人でプールに行ってきた。昭和記念公園っていうでっかい公園にあるプールだ。

 女の水着ってラヴィーネみたいなかっこするんだな。山中さんも誘えばよかった。

 にしてもプールって凄いよな、泳ぐためだけに水をためて遊ぶんだぜ。あれだけ水があって猪が寄ってこないのもそうだけど、人食い魚が混ざり込んでこないのも凄い。うちの川で水浴びなんてした日には物凄い勢いで飛び掛かってくるぜ。まあ飛び掛かってくるだけで別に大して強くないんだけど。あいつら身が固いし骨ばっかだから食うとこないんだよな……はっ、もしやフライにしたらワンチャン(かっこいい)あるのでは? 今度やってみよう。


「――なんだけど、メイジくん聞いてる?」

「おう。油でフライがワンチャンスだ」

「推察するに食べ物のこと考えてたんだね。メイジくんってとんかつといい揚げ物好きだよね」


 そんなこんなで放課後。例によってタケシんちだ。

 揚げ物はいい。食べるだけで体中に栄養が染み入るようで……。

 それは今はよくて。聞き逃してたからまた教えてくれ。


「もう。対魔特別対策課の人たちからの要請の話だよ」

「あー、魔術を教えてくれって人たちが来たら適当に言い訳して教えないでくれって奴?」

「うん。そう」


 生放送の時とかに魔術を教えてほしいって人は結構コメントで現れるんだけど、俺って魔術を教わったことはあるけど教えたことがないからって断ってるんだよね。かーちゃんは会話できないから論外として、とーちゃんだったら教えられると思うけど、とーちゃんもまあまあ家に居ないから実質詰みだな。従妹は馬鹿だし妹は短気だからもっと向いてない。あれ、消去法で俺しかいないような……。


「実際のとこ教えようがないんだよな」

「それはどうして?」

「いやさ。魔術を使うなら魔力が動かせないといけないんだけど、俺って物心ついたときにはもう魔力動かせてたじゃん」

「メイジくんの幼少期を知らないから僕からは何もコメントできないよ」

「まあ動かせたのね。で、そうなると魔力の動かし方を教えてくれってなると思うんだよ」

「少なくとも僕はそう思ったね」

「だろ? 俺はそれを教えられないんだよね」


 右手左手魔力みたいな感じで動くものだから、それをどう動くのか説明しろと言われると物凄く困る。


「だったらそれをそのまま伝える感じで行こうか。一応対策課の人にレビューしてもらうね」

「おう。レビューしてもらってくれ(わかってない)」


 というか逆に他の人がどうやって魔術を覚えるのか聞いてみたい。魔力が動かないところから動かすようにするのだとしたら一体どうやるんだ……? それが出来るんだったらタケシも魔術が使えるメがあると思うんだけど。


「じゃあ魔術物まねの動画も暫く止めた方がいいのか? ブレストファイヤーは結構自信ある出来になったんだけど」

「いや、そっちは続けて問題ないみたいだよ。あくまで『教えてほしい』って人が現れた時にそこから拡散されなければいいんだって」

「ふーん。じゃあ後で湖畔に行こうぜ。さすがに火が出るから水辺の方がいいっしょ」

「分かったよ」



 やってみて思ったことだけど、パーカーを着た状態でブレストファイヤーは止めようと思う。パーカーの紐が焦げた。ラヴィーネの買い物の時に選んでもらってお気に入りだったのに。


「また同じの買えばいいじゃない」

「あれがよかったの。いやまて、ワンチャン(使い時)なんとかなるかもしれない」


 対物時間制御で直せるんじゃないか? いつもは投げた飛礫にかけて速度を加速させるのに使っているけど、巻き戻す方向にすれば元に戻るんじゃね?

 術式反対にするのむずっ。

 ウ、ウ、ソルケイアゴズ、ララ、キノシ、ソ。どうだ!


「……凄いんだけど、糸まで戻ったね」


 がっくし項垂れる。

 夕日に浮かぶラヴィーネのツンケンした顔に向けて謝罪する。すまんラヴィーネ。お前に選んでもらったパーカーだけど、紐だけ別のにするな。ゾボラの弦でいけるかなぁ。


「よし。動画撮ったし、帰ってパーカーの紐の材料集めてくるわ」

「メイジくんだけ世界観がサンドボックス系だね。帰り道気を付けてね」

「おーよ。じゃーなー」


 ゾボラはどの辺に生えてたっけなぁ。帰り道になかったのは覚えてるんだけど、あいつら偶に鹿とか食うから臭うんだよな。この時期どうかなー。


「あっ、あのっ!」


 ん? もしかして俺が話しかけられてる?


「そうっ、そうです! メイジとタケシの色々チャンネルのメイジさんでしょうか!?」

「アッ、ウン」


 タケシに間違えられないからいいんだけど、いい加減チャンネル名変えた方がいいのかな。

 声をかけてきたのは、なんか猪っぽい雰囲気のお姉さんだった。有体に言うとちょっとぽっちゃり系だ。


「あた、ああああああたし、使えるんです! 魔法!」


 お? マジ?

 調べてみよ。イル、ソ。

 んー? 全然そんな風には見えないけどな。


「本当なんです! あたしずっとこの能力で悩んでて、あの、それであたし! 今からやって見せるんで!」


 まあやるっていうなら見るけど。

 ボロン。

 猪っぽい雰囲気のお姉さんは鞄からロープを取り出すと力を込めて握りしめた。

 すると地面に垂れ下がっていたロープが威嚇するヘビみたいに起き上がり、腕を全く動かしていないにもかかわらずウネウネと蠢動を始めた。

 おお。すごいすごい。都会で初めて見た。けどこれ――


「それ魔術じゃなくて念動力じゃね?」


 ほら対魔なんとかかんとかさん。七並べで六とか八を止めるような真似するからこういう人が出てきちゃうんじゃないか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る