第7話:うちの遊具は山と谷。冷やしすぎるな部屋と腹

 クーラーは偉大だ。神なのか悪魔なのかは後世の歴史家(マサヒロの真似)に任せるとして偉大な存在であることは間違いない。なんでかっていうと氷雪系の魔術を使わないでも部屋の中が涼しくなるからだ。奥卵ほどではないにしてもううちの集落だって夏は暑い。きっと今頃家の中は暑がりの母親と妹のせいで地獄のような寒さになっているに違いない。室温管理のためにもマジで家に設置したい。なんでうちの女共は物を冷やす時に加減というものをしないんだ……。


「メイジ。貴様の番だぞ早くしろ」

「うるせーやい初心者の癖に偉そうに」

「そういうメイジくんだって人生設計ゲームやるの2回目じゃない」


 初回と2回目じゃ全然違う。俺には『経験』がある。それも競争という人生を設計し終えたという『経験』がな。あの時はタケシと山中さんにいいように嬲られたが今度は違うぞ。

 魔族の姫だか一位だかと上から目線でいるのが丸わかりだぞラヴィーネ。その油断がお前を転落へと導くのだ! 復讐マスぽちっとな。


「な、なんだこれは。私の人生は可愛い動物の医者となり伴侶も得て順風満帆だったではないか……急にこんな借金など……なぜ……しかも離婚? あれだけ旅行や宿泊だと仲睦まじい様子だったのになぜ……? 臣民たちよ、なぜ反乱を……?」

「バカめ。貴様の幸せなど砂上の楼閣よ。踏みにじられていた者たちの痛みを知るがよい! ……おい、そんなガチで泣くなよ、ゲームだぞこれ。ごめんって」


 すまんタケシ。ラヴィーネにテレビゲームはまだ早かったみたいだ。

 ひときわ暑い今日この頃。外の気温は35度を超えるらしい。凄いよな天気予報って。天気から気温からなんでも予想してくれるんだぜ。

 あまりにも暑すぎるということで今日はタケシんちで遊ぶことになった。折角3人いることだし何か動画を撮ろうという流れになり、ゲームのプレイ動画を撮っているところだ。でもこの調子じゃ没企画だな。


 まーしかしラヴィーネもタケシんちに随分馴染んでいるみたいだなぁ。タケシんちくらいでかいと居候も気にならないんだろうか。もしくは俺が知らないだけで結構居候とか来客が引っ切り無しに過ごしてたりするのかな。


「んー、まあ都内から人は結構来るよ。お父さんのお客さんだけどね」

「へー。向こうから会いに来るなんてタケシのとーちゃんすげーんだなぁ」

「どうだろうね。凄いかどうかは僕からは何とも言えないけど、尊敬はしているよ」


 うちのとーちゃんはどうだろう。割とポンコツなところあるから戦いの事以外はあんまり尊敬はできないかもしれない。

 タケシのとーちゃんはいい人だ。たまに顔を出して一緒に遊んでくれる。金持ちはイヤミなやつばっかりでロクでもないってとーちゃんが言ってたけど、あれは嘘だったな。


「そういやラヴィーネ。家宝の行方は掴めたの」

「ぐすっ……進展はあった」

「あるんかい。先にゆえよ」


 曰く、家の者が家宝の位置を探知する道具を用意してくれたらしい。お前何もしてないじゃん。いてっ! 分かった分かった!


「それがこれだ」

「なんか方位磁針みたいだな」

「原理としては似たようなものだな。エレキシュガル家に伝わる秘宝『メラージの涙』の魔力に反応して針が動く仕組みだ」


 魔力に反応……そんな道具が作れるんだなあ。すごい。考えたこともなかった。


「でもいつの間にそんなの受け取ってたんだ? 物があるってことは渡されたんでしょ?」

「ああ。普通に手渡しで受け取ったが」

「あのねラヴィーネさん。僕たちは魔界と現世がどうやって繋がっているのか知らないんだ。だから教えてもらえると助かるな」

「ふむ、なるほど」


 国のあちこちにある『神社』のうち、今は管理が放棄された場所がいくつかあるのだという。タケシによると奥卵にも今は管理されてない神社跡とかがあるらしい。魔界の入口っていうのはそういうところに繋がっていて、ラヴィーネも先日町のはずれにある境内で受け取ってきたということだ。


「なんでその持ってきてくれた人は一緒じゃないの」

「我々魔界の住人にとって現世は過ごしやすい場所ではないのだ。私ほど魔力が高ければその常ではないが、そういった魔力保有量を持つものは稀少だ。境内までなら界境故になんともないが、そこを越えようとすると恐らく灰になるだろうな」

「え、こわ」


 さすがに灰になった奴を元に戻すことは出来ないな……もし魔界の人と遊ぶことがあったら注意しよう。


「そんで、その針はどっち向いてるの」

「東だな。今後はこれを頼りに探索するつもりだ」

「じゃあ明日からはそれ使って電車に乗って探検しようぜ」

「……手を貸して……くれるのか?」


 なんかめっちゃ驚いた顔している。逆にこっちがびっくりしてタケシと顔を合わせる。


「いやそりゃ……俺たち友達だろ? なぁタケシ」

「そうですよ。水臭いこと言わないでください。それに家にまで泊めてるんですからせめて撮れ高くださいよ」


 うんうんそうだよな。友達付き合いっていうのはこういうことだってとーちゃん言ってた……うん? タケシ?


「貴様ら……正直その、助かる。私一人では見つけられたとしても奪還は難しいと思っていた」

「よし。じゃあ明日から頑張ろう。今日は暑すぎる」

「なんだか気が抜けるな……しかし明日も予報だと暑いとされていたぞ」

「持ち運びクーラーみたいな道具が魔界にあったりしない?」

「そんなものはない。大体現世の夏は暑すぎるぞ」

「日本の夏は特殊だからね」


 しゃあないから明日は氷雪系魔術で冷房纏って行こう。加減間違えると低体温症? とかいうので指が落ちるから嫌いなんだよな……。




 そうして翌日からラヴィーネんちの秘宝探しが始まった。こうして見るとなんか宝探ししてるみたいでちょっと楽しくなってくる。

 奥卵から漠然と東を針が示しているので、電車に乗って方位を確認。針の向きが変わったタイミングでも一度乗りすぎてみて、どっちの方角を指すかまで確認。その後もう一度反対方向で戻って~と繰り返して位置を絞っていった。

 そんなこんなで3日目。俺たちは新宿都庁の前に来ていた。


「悪の組織の根城が都庁だなんて、あまりにもベタな……」


 タケシがそんなことをこぼした。そういうもんなんだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る