第24話.まだ俺がいる

ホークの武器がストーンの頭に当たるその瞬間、ホークの顔に向けて1本の矢が飛ぶ。

「チッ誰だ!!」

凄まじい勢いで矢の飛んできた方向を見るホーク。そこにはハリーが立っていた。

「ハリー…か…」

「ストーン様、お待たせしました。西から救援も連れてきました」

「なんだと?」

その言葉に驚くホーク、ストーンはあらかじめどちらの村にホークがいてもいいように後方支援部隊を、各所に散りばめて配置させておいたのだ。そのことが功をそうしたのか、ハウル隊はウルティ村に到着する前にユーミ村へ向かうことができた。

「ハウ…ウルティ…は…」

ハウルの姿を見てウルティ村の心配をするストーン。

「ハッストーン様安心してください。別働隊を数名そのままウルティ村に向かわせましたが、先程、信号弾にて確認できました。どうやらウルティ村はブラフのようでした」

「ヴォルグのクソ野郎!!」

ハウルの報告を聞き激怒するホーク。どうやらヴォルグはホークを裏切り、作戦には加わらなかったらしい。ここにきて事態は少し好転したが、絶対絶命な状況は変わっていない。

「まぁいい…まずは貴様らだ」

そう言いながらホークが攻撃を振り下ろす。


グォン!


ホークの攻撃をハウルが受け止める。

「チッこれもか…」

攻撃を受け止めるハウルを見てホークは心底鬱陶しそうにそう言う。

「さあ、皆の者、ここは私に任せて、まずは雑魚を殲滅しろ」

ハウルの勢いに押され盗賊団員達を攻める団員達そんな中にリュートが倒れているストーンに気づく

「父さん!」

「リュート…」

リュートは同様していた。リュートの知るストーンは常に最強であった。そのストーンがボロボロになり、痛めつけられている。その現状が信じられなかった。

「貴様!!」

そう言いながら斬りかかるリュート。その剣を簡単に弾き返すホーク。リュートの左に持つ剣はホークの攻撃により飛ばされ、洞窟内の壁に刺ささった。それを見てホークはまた鬱陶しそうにした。

「リュート、お前はストーン様を連れ早く城へ」

ハウルがそう指示を出す。

「しかし、私だけこの場から逃げるなんて」

「馬鹿者!逃げる訳では無い。ストーン様を安全な所までお連れするのだ」

そう言いながらホークに切りかかるハウル。その剣をホークは軽々と打ち払う。ホークの鉄の金棒に打ち返されたハウルの剣は、ヒビが入り使い物にならなくなっていた。防戦一方になったハウルはホークの攻撃を盾で受け止めはするが、攻撃をする武器がないため一方的に攻められるのみである。いつしかハウルはその攻撃を受け止めることが出来ず、倒れてしまった。

「ストーン様だけではなくハウル隊長迄…」

その姿を見た王宮騎士団員達は完全に心が折れてしまった。盗賊たちの攻撃に立ち向かうことができる、やられ放題であった。盗賊たちの武器がいくら殺傷能力がないとはいえ、これだけの攻撃をくらい続ければ致命傷もあり得るだろう。その場にいる全員が決着はついたと思っていただろう。絶望的な空気が流れた…盗賊団員達の嘲笑うような声が聞こえる中、ただ1人、勝負を諦めていない男がいた。


「まだだ!ストーンがやられた?ハウルがやられた?だから何だ!俺達はこの国の盾だ。俺はまだこいつに負けていない!」

そう言いながら、リュートが立ち上がる。

「お前達は全力を出して戦ったか?いや、戦ってない!お前達は2人が倒れたのを見て、戦うのやめただけだ。お前達は戦いから逃げる腰抜けか?俺は違う!たった1人でもこいつを倒す!!」

リュートの手にストーンの剣が握られていた。ストーンの長剣はかなりの大きさである。それこそ初めて持ったものであればまともに振ることもままならないであろう。しかし、リュートはその長剣を軽々と振り回した。むしろ、そのはずである。ストーンからプレゼントされた双剣の重量はこの剣の重量をはるかに凌いでいた。まるで自分の長剣をリュートに譲ることを考えていたかのように…

「俺に続くものは立ち上がれ!そして、この屈強なる状況を打ち破るんだ。それこそが王宮騎士団の務めだ!!」

リュートの叫びを聞き、続々と王宮騎士団員達が立ち上がる

「俺だってまだだ、まだ負けてない!」

「俺だって!!」

「リュートに負けてたまるか!!」

「ウォォォ!!」

ユーミ村全域に、騎士団の雄叫びが聞こえる。そのあまりの気迫に先程まで優勢だった盗賊達がたじろぐ…その状況を見ても、ホークはただ1人鬱陶しそうにため息を吐く。

「あぁ~…めんどくせぇ…」

ホークは鉄の金棒をリュートに向けて振りおろす。


ガァキィン!


それを切り払うリュート。とてつもない金属音が辺りに響く。リュートの攻撃はホークに弾き返され、ホークの攻撃はリュートに払われる。どちらの攻撃もあと1歩という所で決定打にならない。そんな撃ち合いをしている中、徐々にリュートが押され始める。ホークの攻撃をリュートが振り払った瞬間にリュートかわずかながらによろけた。その一瞬をホークは見逃さなかった。ホーク渾身の一撃がリュート目掛けて振り下ろされる。その一撃をリュートはかろうじて受けることはできたが、あまりの勢いに膝をついてしまう。

「ふぅ~…貴様らがどれだけイキがろうが、オレを倒せなければ、何の意味もない」

「俺は…俺は貴様には負けん!」

リュートはそう言いながら立ち上がるが、体力の限界に来ているのだろう。その姿は立っているのもやっとの状態のようで剣にもたれかかっている。

「ぬかせ…」

ホークはそう言いながら渾身力でリュートの横腹を目掛け金棒を振り払う。


ガン!


「俺だってまだ負けてはいない…」

リュートの横腹目掛けて振り払われたホークの一撃はロベルトによって防がれた。

「ロベ…ト…」

その姿を見て、かろうじて言葉を発するリュート

「リュートいまだ行けぇぇ~!」

「うわぁぁぁぁ」

ロベルトの掛け声とともにリュートは反射的に剣を振う。


ザシュッ…ドン…


気づけば目の前にホークが倒れていた。誰もが目の前に起きていることを認識するまでに数秒の時間がかかった。そんな中、ポルカが呟く。

「やった…やったよ。リュートが…リュートが勝ったんだ!!」

その声を聞くや否や、周りから同じように喜びの声が飛び交う。その声を聞き、ホークが破れたと悟った盗賊団員達は散り散りに逃げ出した。

「やったぞ…俺達は勝ったんだ!」

「リュート、リュート良くやった!」

周りの声を聞き、徐々に我を取り戻すリュート。そこには息を引き取ったホークの隣で方膝をつき、今にも死にそうな顔のロベルトがリュートに向かって親指をたてていた。

「ロベルト、ロベルト…俺やったよ!」

「あぁ、あぁ見ていたさ…」

リュートは歓喜のあまりロベルトに抱きついた。

「うがぁ~離せぇ!!」

リュートのハグが痛めた脇腹に当たりロベルトが叫び声をあげる。

「あっゴメン…」

その瞬間、今までの緊張が嘘だったかのように辺り一面に笑いが起きた。リュート達はこの激闘の戦いに勝利したのだ。そして、リュートの名はこの国全土に知れ渡った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る