第7話.目覚めし場所

目を開けると知らない天井が見える。頭がまだぼんやりしているせいか、まだ夢から完全に冷めていないらしい。いつもなら騒がしい筈の日常も、今日はなぜか静かに感じる。

「かぁちゃんいるの?」

不安になったハヤトは、そう声をかける

「よかった、目を覚ましたのね?全然目を覚まさないから心配したよ」

自分の問いに対し返答は返ってきたが、ハヤトはこの声を知らない。まだ寝ぼけているのかと思い、声のする方向に顔向けてみたが、やはり見知らぬ顔だった。

「あんたダレ?」

「アタシ?アタシはストーンの妻のロザリア」

「ストーン?なんで俺はここにい…」

そう言いかけた矢先、この間の出来事が走馬灯のように襲いかかってくる。ハヤトの故郷ハトム村は嵐の日にヴォルグ率いる海賊団に襲われたのである。村の中で唯一ハヤトだけが逃げ出すことができ、騎士団に合流することはできたのだが、ハトム村に戻る最中に崖崩れが起きてハトム村に戻ることが叶わなかった。そのことを思い出した瞬間何も考えられなくなりハヤトは固まってしまった。

「ちょっと、ちょっとあなた大丈夫なの?ねぇちょっと!」

ロザリアがハヤトの肩を持ち前後に振るう。必死になりながらハヤトに声をかけるが、ハヤトはピクリとも動かない。どうしていいかわからず、ロザリアがオロオロしていた時ハヤトが突如口を開いた。

「ハトム村?ハトム村はどうなったの?!」

「今、うちの旦那が騎士団引き入れで確認しに行ってるわ。なんでも土砂崩れが酷すぎて、ハトム村に行く道が塞がっているらしいの」

突然の大声にロザリアは驚きながらもそう答える。

「土砂崩れがあったのは知ってる。ストーン達はいつ帰ってくるの?」

「ちょっとあんた、少しは落ち着きなさい。そんなにまくし立てられると、私もびっくりしちゃうよ」

「あっごめん…」

ロザリアの肩を鷲掴みにしていたことを謝罪するハヤト。

「慌てなくても旦那達はいつか帰ってくる。だから、今は自分の体を治すことを考えなさい。」

「でも!」

「焦る気持ちはわかる。でも焦ったところであなた1人では何もできない。だったら、今のうちに体を休めて、旦那が帰ってきた時に万全な体調に戻していた方が行動も取りやすいでしょ?」

「そりゃそうだけどさ…」

「わかったらとにかく今は寝なさい。あなたが思ってるより、あなたの身体は弱ってるわ。だから今はゆっくり休みなさい。わかった?」

「うん…」

「よし、いい子だ。あんたが次起きた時、たらふくご飯食べれるようにアタシも準備しておくから、だから今はこれをの飲んでゆっくりとお休み」

そう言いながらロザリアは奥の部屋へ行き、暖かいスープを持ってきた。スープを一口、口に含む。とても優しい味だった。スープを飲んだ後は、ハヤトはまた深い眠りについた。


「うわぁぁぁ~」

そう悲鳴をあげハヤトが飛び起きた。ハヤトの両目からは涙がこぼれていた。1度目が覚めて、自分の現状認識してしまった為であろう、夢の中であの光景をまた繰り返ししまったのだ。

「ハヤトどうしたの、大丈夫かい?」

ロザリアが大急ぎで寝室に飛び込んでくる。そして泣いているハヤトを見つけるとゆっくり歩み寄りハヤトのことを抱きしめた。

「大丈夫、もう大丈夫だよ。怖くない。」

抱きしめながらハヤトの頭を撫でるロザリア。涙を流しながら、ハヤトもロザリアを抱きしめる。

「大丈夫だよ、怖かったらお泣き?あんたが寝るまであたしがついてるから大丈夫。」

そう言いながら、あやしつけるロザリア。いつしかハヤトは泣きながらもゆっくりと眠りについた…

何日間同じことを繰り返したであろう。ハヤトはゆっくりとだが、少しずつ心を取り戻し始めていた。それと同時にロザリアに対する警戒も溶けてきて、むしろ信頼に変わっていた。そんな中、ストーンが帰宅した。

「ただいま」

「あら、あんたおかえり?」

出迎えるロザリア

「少年の様子はどうだい?」

まず第1声にハヤトのことを聞くストーン。どうやら彼もハヤトのことが心配だったようだ。

「う~ん。少しずつ元気にはなってきたけど、まだ万全ではないと思う。」

「そうか、無理はないなぁ、あんなことがあったんだから…」

そう言いながら心配そうな顔をするストーン。そんな顔を見ながらロザリアはどこか嬉しげだ。

「んっ?何、人の顔見てニヤニヤと?」

「いやぁ~、なんかあんたも変わったな?って思って」

からかうような笑みを浮かべるロザリア。それに対し、バツの悪そうな顔をするストーン。そんな中、ストーンの帰宅に気づいたハヤトが台所に飛び出してくる。

「ストーン!村はどうだった?みんなは無事だった?」

「少年気持ちはわかるが少しは落ち着きなさい。」

ロザリアの時と同様ハヤトが早口でまくしたて、それをロザリアと同じようにストーンが制する。そして、ゆっくりとハトム村の現状について語り始めた。

「ハトム村に関しては、崖崩れが酷すぎて道の修復ができないのが現状だ。なんとか土砂を出そうと頑張ってはいるのだが、あの土砂を完全に取り除くのはかなりの年月がかかってしまうと思う。」

その言葉に驚きながら、ハヤトがまたまくし立てる

「なっそんなんじゃダメだ。そんなことやってたらいつまでたっても終わんないじゃないか!」

「そんなこと言ったってハトム村への入り口はあそこの崖しかない。だから、我々も必死に崖崩れの修復はしているのだ」

「そんなこと言ったってそんなに時間が経ったら村の皆はどうしたらいいんだ。」

「だからといって崖崩れがすぐ修復することはできない。」

ハヤトのわがままに似た焦りにストーンは嫌気が差してきたのか、少々厳し目にハヤトに詰めかける。

「違う違うんだ。ストーン聞いてよ!」

「何が違うというのだ?焦ったところで、崖崩れが治るわけはないのだ。」

「違うんだ。ハトム村に行く道は他にもあるんだ!」

「なんだと?それは本当なのか?」

ハヤトの言葉を聞き、驚くストーン

「うん。すぐに通ることはできないかもしれないけれども、補強さえすれば馬ぐらいであれば通れる道がある。」

ハヤトからそう言われ、考え込むストーン

「よし、わかった1度その道を見てみよう。悪いが少年その道がどこにあるか詳しく教えてもらってもいいか?」

「いや、それじゃあわからなくなった時にまた戻ってきて時間だけが無駄に過ぎてしまう、だから俺も一緒についていく」

「ちょっとハヤト何言ってんの?まだダメよ。体だって万全じゃないんだから」

ハヤトの提案にストーンよりもむしろ、ロザリアの方が否定をする。

「でも道を教えるより、俺がついていった方が絶対に速いんだ。それにハトム村のみんなのことを考えると、居ても立ってもいられないんだよ!」

「ハトム村のみんなが心配なのはわかるけど、私は今のあなたの体の方が心配だから許可なんか出せないわ。あなたもそう思うでしょ?」

「ストーンお願いだよ。足でまといにはならないように頑張るから俺も連れてってくれ。」

両方から悲願されるストーン、しばらく考え込み答えを出す。

「よし、わかった。だが一つ約束しろ無理だと思ったら大人しく帰れ。これが守れないのであれば連れて行かないし、守らなかったら強制的に返す。わかったか少年?」

「うん!」

ストーンの答えに嬉しそうに返事をするハヤト。

「あんた…」

「ロザリア許してくれ、男としてここまで覚悟を決めている少年の気持ちを無下にはできない。」

「ロザリオおばちゃん、ごめんね…」

ストーンとハヤトの2人に謝られ渋々納得するロザリア

「わかったわ。でもハヤトせめて今夜はご飯をたくさん食べて早く寝なさい。いい?」

「うん、ロザリアおばちゃんありがとう。」

「よし、じゃあ今夜は腕によりをかけて料理作るわ。」

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