第23話 妄信


 合流したミシェルの従者二人に先導されつつ、少し歩く。


 三分くらい歩けば……漸く、目的の馬車の近くまでこれた。


 いやいや、かなり離れてるじゃん……。


 レリアさんの察知能力高すぎない?

 流石公爵家の私兵だけあってレベル高いなぁ。



「と、いうか……ギドさん? を一人にするのって……不味くないかな?」



 誰に言ったわけでもない、僕の言葉に……快活に笑うレリアさん。

 


「ははは……アレックス様と魔王討伐を果たしたメンバーで御座いますが故、ギド様は我々よりもお強いですから」



 何とまぁ……そうですかぁ……。

 それに関しては、もう僕は何も言えん。



「あっ、ギドさん居ました~!!」



 そんなミシェルの声が馬上から響く。

 因みに僕はもう懲り懲りなので、馬の横を歩いてるのは……誰も触れない。

 

 前を見れば……馬車が一つと、その前にテントが一つ。

 そして、テント近くの岩に腰掛けている男性が一人。


 布で屋根を作ってる馬車。あれは……帆馬車? っていうのかな?

 人を運ぶのに使うやつ。


 馬も、ミシェルの子みたいに、普通の見慣れた馬が二頭。



「おおっ!! ミシェル殿っ!! ご無事で何よりですぞぉ!!」



 ムクッと立ち上がった男性は……凄くデカい。


 筋肉もパツパツだし、身長も僕より拳一つくらい大きくて……百八十センチくらいはありそうな感じ。


 あれ……?

 アレックスの手紙には研究者だったか学者とか書いて無かった……?



「えへへ、ご迷惑お掛けしましたぁ~」



「ま……昔からですから、慣れっこですなっ!! しかし、あまり迷惑を掛けるのは頂けませんぞぉ!?」


 

 ガハハッ! と笑う、灰色の髪を短髪にしている、糸目の渋い男性。



「は~い!!」



 まるで……親子だなぁ。

 口調といい、見た目といい……アレックスより年上っぽく見える。



「して……その……」



 ……そんなムキムキな男が、モジモジしながら此方を見るもんだから……凄く、居心地悪い。



「そうでしたねっ! ギドさんお待ちかねの、稀人様の……ルイ様です!」



「どう――」



「初めましてですぞぉぉぉ!! あぁ、貴方様にお会い出来る日を……どれだけ待ち望んだかっ!! あぁ、アレックスに感謝をっ!! 素晴らしきこの出会いに、セレーネ様に感謝をっ!!」



 挨拶をする前に……ガシッと両手を捕まれ、上気した顔で至近距離でマシンガントーク。

 

 もう……ちょっと、キャラが濃すぎてお腹いっぱい。



「どうも……初めまして。ルイと申します」


 

 さり気なく、スッ……と手を引き抜く。



「いやいやこれは失礼致しましたっ!! 私、ギド・ブルゴーニュと申しまする!! 気軽に、どうぞ気軽にギドとお呼び下されっ!」



「わかりました……」



「さぁさぁ!! 積もる話も沢山有りますが故っ!! どうぞ馬車にっ!!」



「壊れてますわギド様」



「ガッハッハッ!! そうでしたなっ!! いやはや、これは困ったっ!!」



 オーバーに頭に手を当て、天を仰ぐギド。


 ……いや、キャラ濃ゆい……。




 ***************



「旦那様なら……直せますよね……?」



「たぶんね」



 暑苦しいギドを捌き、壊れた馬車の前まで来た。


 レリアさん達が言うには……竜に襲われたとか。


 馬を庇っているうちに馬車を破壊され……ギドが怒りのあまり、竜の首をねじ切ったとか何とか恐ろしい事を言ってた。


 更に言えば、その竜はもう食った……らしい。


 ファンキーすぎるんだけどこの世界。


 誰か助けて欲しい。



「ふむ……お手並み拝見、ですね」



「楽しみですわぁ」



 それに、レリアさんとアナベルさんの視線が怖いし。

 なんかこう……狙われてるみたいに、ゾクゾクする。


 ま……良いか。


 途中までアナベルさん達に修理された馬車。


 悔しいけど……馬車の構造は知らない。


 だから……魔法で。



「『修理レパレーション』!!」



 傷を直すような、元の姿に戻るような……そんな曖昧なイメージ。


 家を創った時と同じように……無茶苦茶魔力を吸われた。



「ほおお……!! ふぉぉぉぉおお……!!」



 後ろで興奮しているギドが……ドタドタ地面を踏み鳴らしていて怖い。


 もうこの人達に会ってから、ずっと怖い。



「これは……素晴らしい……」



「合格ですわ……!!」



 ……え? 何が合格なの……!?


 そんな歓声を気にもせず、僕の魔法は進んでいき……ひしゃげた馬車がみるみるうちに、真っ直ぐ……新品みたいに変わっていく。



「素晴らしい!! おおお……これがっ!! これがっ!! ほおおおお!! 稀人様の魔法で御座いますかっ!!!」



「あぁ……はい」



 この人を前にすると……凄く冷静になれるわ。



「なんという魔法ですかな!? 是非、是非ともっ!!!」



 羊皮紙とペンを持ち、詰め寄る暑い男。



「創造魔法と言いまして……今のは、創造魔法で修復魔法を創って直しました……」



「むむっ!? むむむっ!?!? 詳しく……詳しく教えて下されっ!!」



「ミシェル助けて」



「あー……頑張って下さい! 私……ジョセフィーヌに乗らないといけないので~!」



「あ、ちょっ……!!」



 ジョセフィーヌとは……彼女の馬の名前である。

 つまり……逃げられた。



「さぁ……王都までの道のりは遠いですぞ!! 早く馬車に乗りましょうぞっ!!」



 袖を捕まれ、逃げられない僕。


 気付けば優秀な従者達がテントの撤収を初めていて……逃げ場なし。



「馬車の中でお待ち下さい。急ぎ発進しますわルイ様、ギド様」



「うむっ!! 多少時間が掛かっても問題あるまいよっ!!」



「最速でお願いしますアナベルさん」



「ガッハッハッ!! そう言わずに……楽しみましょうぞっ!!」



「ミシェル……ミシェル……」



 僕の声が届かないのか……ミシェルは此方を見ないで馬の手入れに集中し続けた。



 ***************



「ふむふむ……なるほど。では、これは……?」



「これは――――」



 馬車はまだ動かず……今はギドの持ってきた本を翻訳している最中。


 この世界、遺物オーパーツなんて呼ばれる道具があるらしく……ギドの持っている遺物は、僕のインベントリみたいな、空間魔法が施された布袋だった。


 その中に広川さんが遺した本を大量に入れてきたらしく、片っ端から翻訳中。


 ……奥さんへのラブレターの下書きに始まり、国の開発に関わる重要な物まで……様々に翻訳した。


 広川さんの顔知ってるから、ラブレターの下書き読むの、凄くしんどかった。

 


「お待たせしました。出発致します」



「やったぁ!!」



 レリアさんの低く、鋭い声が馬車の中に響き……漸く、この地獄から解放される。



「では、動き出しますのでお気を付けて下さいましっ」



「はーい!」



 嬉しい……疲れたよ僕……。



「なるほど……では、次はこちらの本をお願いしますぞ!!」

 


 スッ……と膝の上に本を乗せられる。



「えっ……? あ、そっかぁ……」



 そうだよね……別に動き出しても続くよね……なんで勘違いしてたんだろう……。



「実はこの馬車も、建国王が考えた物でしてな。揺れの少ない、最高峰の技術が使われているのですぞぉ!!」



 アッ……だからか……。

 ミシェルの馬の揺れを覚えてたから、馬車も揺れるもんだと……!!



「あー……サスペンションとかペアリングとかそんなんですかねぇ……」



 良く聞く単語を並べれば、嬉しそうに笑うギド。



「流石!! 良くご存知でっ!! しかし、国家機密に相当する故、なるべく声に出さないで頂きますと!!」



 え……まじ?

 でも、知らない人にそんな名前出しても、わからなくない?

 

 まぁ……偉い人が言うなら仕方ないし、お菓子以外の知識はなるべく出さない方が良いかぁ。



「そりゃまずい。気を付けます」



「助かりますぞ!! では、次は此方の翻訳を……」



 もう嫌っ!!


 僕じゃない誰か日本人来――――



「あっ」



「むむっ?」



 創造魔法で……創れば良いじゃん。

 翻訳魔法を覚える……何かを。


 どうしようか。


 読むだけで使えるようになるスクロール?


 食べたら覚える……パン? 果実?


 いや……僕はパティシエ。


 パティシエなら……お菓子だ。


 これからの事を考えると、翻訳魔法を使えるようになるお菓子だと……不便だな。


 僕自身に【食べたら○○を覚える、出来るようになる】そういう力を与える力を創るべきか。


 簡単に言えば……付与。

 そう、付与魔法が良い。


 インベントリから、クッキーを一枚取り出す。



「『付与ドネ』!!」



 クッキーに、翻訳魔法を加えるイメージ。

 消化されても……体に染み付くように。



「ギド……これを食べてみて下さい」



「ほおおお……これは……?」



 ギドは疑問を口にしながらも、迷わずクッキーを頬張った。

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