宇宙の果ての夢の淵

紅瑠璃~kururi

第1話 宇宙の果ての幻

ふたりが夢の中で搭乗したのは、ガラス張りの宇宙船だった。

円錐形を横にしたバレット形で、先端部分に設置された座席からは青い地球が眼下に見えた。

ふつう、宇宙船の窓はデブリと高熱に耐えられるように分厚いガラスがはめ込まれた円型であるが、夢の宇宙船は円錐形に組まれた鉄骨のすき間が全て窓のようになっている。従って、周りの景色をほぼくまなく見渡すことができた。


「これで行き先を決めるのかしら」

目の前のタッチパネルを指してヨーコが言う。

そこには、何種類もの惑星らしきものが表示されていた。

「これは木星かな」一番大きな縞模様の星を指してヒロキが言う。


そして画面をさらにスクロールすると霧が渦巻いたような銀河の画像が現れた。案内ガイドによると『水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星の8惑星の太陽系が属している天の川銀河』とある。

「地球から見える天の川はこの銀河の一部なんだよ」ヒロキはそう言ってさらにスクロールする。

そして、最終画面には、むげんだいのアイコンが現れた。

「これを選択すれば、多分一番遠くまで行けるんだろう」

「宇宙の果て?」

「みたいなものかな」

「行ってみたい気もするけど、ちょっと怖くない?」とヨーコ。

「一周回って元の位置だったりして」と言いながら、ヒロキがアイコンにタッチした。


暗闇の宇宙に突入すると、宇宙船の周りに無数の星が降ってきた。まるで沫雪あわゆきが降る中を突き進んでいるような感じだ。

「まさに星くずだな」とヒロキ。


那由他なゆた耀かがよう小さな光の間を抜けてゆくと、前方にやや大きめの光が見えてきた。近づくと無数の星がもやのように渦巻いていて、その中に入ると目がくらむような光に包まれた。

「M31アンドロメダ銀河を通過しました」と画面に出る。

「あっという間に過ぎちゃった」とヨーコ。

「アンドロメダは地球から肉眼で見える銀河だからね。と言っても、250万光年かかるらしいけど」

ヒロキは画面の説明を見ているようだ。

「怖いくらいにキレイ」一方、ヨーコは船外の未知の光景に見とれている。


銀河の中を通るときはほんのひととき明るくなるが、宇宙はどこまで行っても暗くて静寂だ。

やがて、幻のような光景の連続に脳がついていけないような感覚になり、2人は無口になる。


「ヨーコ?」まばゆさから醒めたかのように我に返ったヒロキが声をかける。

「大丈夫?静かだけど…」

「いつの間にか夢を見ていたみたい」目を開けたヨーコが辺りを見回す。

「ここが本当の夢の中だよ。そのうち宇宙の果てに到達するよ」

ヨーコは答えない。

「それとも、地球に戻る?」戻る術もわからずにヒロキが言うと、

目眩めまいがしそうで目を瞑っていたら、宇宙の果てが見えたの」


そこには断崖のような巨大な闇の壁があり、その上から宏樹ヒロキ葉子ヨーコがこちらを見下ろしていたのだという。

「ずっとずっと上の方でこの暗闇を見下ろしていた…」

「つまり、そこには地球の光景があったということ?」

「わたしたちがたどり着くのはここなんだと思ったの」

「どういう意味?」

「夢のふち

そう言ってヨーコは立ち上がり、ヒロキのそばにやって来た。

「なんで見てしまったんだろう。ただ悲しい気持ちにしかならないのに」

ヒロキが立ち上がり、ヨーコを抱きしめたとき、宇宙船が大きく揺らいでどこかに着陸した。

宇宙船のドアが自動的に開き、ふたりは外に出た。


「地球に戻ったの?」とヨーコが言うくらい目の前にはありふれた光景が広がっていた。

新緑の草地が青々と緑の森へと続いていた。

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