2-2 リザードマンを引寄せ

♢♦♢


「さぁて、それじゃあ行くとするか。いざ“獣人国”へ――」

「何で貴方まで来るのよ」


 元気よく言い放ったルルカに、ミラーナが冷静に物申す。


「気を付けて行ってきなさい。本当にサラマンダーならば奴はSランクだからね。まぁ君がいれば大丈夫だろうがなジーク君。待っている間に私も結晶を調べておこう」

「ありがとうございますイェルメスさん」

「気を付けて下さいねジークさん」

「分かりました」


 イェルメスさんとサラさんにそう言い、僕とレベッカもベヒーモス化したミラーナの背に乗った。既にルルカと弟のジャック君も乗っている。だがミラーナは些かご機嫌が斜めだ。

 

「最近私使い荒くないかしら? 毎回足に使うなんてどういう神経してるのよ」

「そんな事より急いでよお姉ちゃん! ホントに大変な状況なんだから!」

「ごめんなミラーナ。この埋め合わせは絶対するから。今は君だけが頼りなんだ」

「も、もうッ、しょうがないわね本当に! でも私を足に使うのが当たり前だと思わないでよね! 今回はジャックとジークに頼まれたから仕方なくなんだから!」


 文句を言いつつ何だかんだ面倒見が良いミラーナ。

 弟のジャック君の存在を知ってその理由が分かった。

 

 そもそも何故こんな流れになったのか――。


 経緯は割とシンプルだ。

 始まりは勿論弟のジャック君。

 何でも、数日前からジャック君が住む獣人国の近くに“サラマンダー”が住み着いてしまったらしい。


 サラマンダーはSランクモンスターというだけあってその影響は凄まじく、本来自然豊かな渓谷である獣人国は、今やサラマンダーの灼熱の炎の熱さで辺り一帯が干からびてしまっているそうだ。


 獣人国は当然ミラーナの故郷でもある。ジャック君は事情を知らないミラーナにこの事を伝える為に、必死で匂いや情報を辿りながらクラフト村にいる姉を見つけ出したのだ。


 ギルドにいた他の冒険者達もジャック君の話を聞くなり、最近ポーションの原料である魔草が取れないという情報を僕達に教えてくれた。ジャック君の話が本当ならば、このままだと多くの冒険者にとってもポーションが使えなくないという非常事態になってしまうとの事だ。


 そんな話を知ってしまった上に、僕よりも年下のジャック君がここまで懸命に知らせてくれたとなればもう動かずにはいられない。しかも獣人国はミラーナの家でもあるんだから。


 ジャック君の話を聞き終えた時には皆が僕と同じ気持ちでいてくれた。一瞬身の危険を考慮した僕はレベッカにクラフト村で待っていてくれと頼んだが、レベッカは直ぐに首を横に振って「ジーク様にお供します!」と力強く言ってきた。


 その後直ぐに「もしもの時は俺がレベッカちゃんを守るんよ」とルルカも獣人国へ行く意志を示し、ミラーナにぶつぶつ文句を言われながらも結局皆で行く事となった。


 イェルメスさんは僕の『引寄せ』スキルと実際の僕の実力を見て「君がいれば事足りるだろう」と、自分はクラフト村で待ち赤い結晶の事を調べておくと言ってくれた。


 そんなこんなで急展開となった僕達は、早速ミラーナとジャック君が暮らす獣人国へと向かったのだ――。


♢♦♢


~獣人国・サンモロウ渓谷~


 クラフト村からずっと南の方角。

 自然豊かな木々が生い茂り、山から綺麗な川が流れる此処、サンモロウ渓谷。


 またの名を“獣人国”――。


 言わずと知れた自然溢れる国であり、ミラーナやジャック君の様な獣人族が多く暮らす国だ。


「ヒャハハ。俺獣人国に行くのは初めてだな」

「観光に行くんじゃないわよ。分かってるのルルカ」

「何だか少し暑くなってきましたね」

「それに僕が思っていた景色とはまるで違う。これもサラマンダーの影響なの?」

「うん、そうだよ」


 ジャック君の言葉で、改めてこれがサラマンダーによる“被害”なんだと思い知らされた。


 一般的に知るこのサンモロウ渓谷は本当に綺麗な自然が生い茂る渓谷の筈だ。それなのに今は木々が生い茂るどころか雑草すら生えていない。獣人国に近付くにつれてどんどん空気は乾燥し、渓谷が干からびていた。


「ほら見て。あそこに山が見えるでしょ? あの山にサラマンダーが住み着いてるんだよ」


 ジャック君の指差す先には大きな山が。

 まぁつい先日ビッグマウンテン山を見たばかりという事もあって、特別大きくは感じなかった。感覚がマヒしてるな。


「げッ、また山かよ」

「ビッグマウンテンに比べれば大した事無いわよあそこは」

「確か獣人国はあの山の麓でしたね。まだ距離のある此処でも影響が出ているとなると、ジャック君達の獣人国は更に被害が大きいのではないでしょうか」


 レベッカの言う通りだ。

 これだけの影響を与えているという事は、やはりあそこにいるだろうモンスターはきっとサラマンダーだ。


 早く倒さないとマズいッ……『――ギギャア!』


 ッ……⁉


 獣人国まであともう少しというタイミングで、突如僕達の前方からモンスターが姿を現した。


「おい、“リザードマン”だぞ!」

「何であんなモンスターがこんな所に」


 大きなトカゲの姿をし、長い舌をヒュンヒュンさせながら二足歩行をしていたのはBランクモンスターのリザードマン。奴は同じBランクのギガントゴブリンよりも賢くて火も吹ける厄介なモンスターだ。


 だが僕達は突如リザードマンが姿を現した事よりも、本来火山付近に生息する筈のリザードマンがこんな所で出て来たのに驚かされた。しかしその疑問は直ぐにジャック君によって氷解される。


「あのリザードマンもサラマンダーのせいだよ。アイツの力が強過ぎて、この辺りは環境も生態系も変わってきているんだ!」

『ギギャ!』

「このまま走るんよミラーナちゃん! 俺が奴に攻撃する」


 そう言ったルルカは槍を構えて風魔法を発動させた。

 ミラーナはルルカの指示に従いスピードを緩めることなくリザードマンに突っ込んで行く。一方のリザードマンも完全に僕達を敵だと認識して襲い掛かって来た。


 そして。


 ――ドシュ!

『ギッ……⁉』


 風を纏わせ鋭さを増したルルカの槍が、ミラーナのスピードも加わり強烈な攻撃となって見事リザードマンを貫く。食らったリザードマンは血飛沫を上げながら瞬く間に地面に倒れたのだった。


 まさに疾風の如き一撃。


「へぇ、やるじゃないルルカ」

「上手くいったみたいだな。流石に一撃で仕留められるとは思っていなかったけど」

「ありがとうルルカ。助かったよ」


 ルルカにお礼を言った僕は、ふと自分の目の前の光景が不思議に見えた。


 レオハルト家を追い出されたからまだ1ヵ月も経っていない。


 それなのに僕の横には当然の如くレベッカがいて、思い返せば凄い出会い方をしたルルカとミラーナがいつの間にか一緒に行動をしている。少し前の僕からは想像も出来ない日々の連続だ。


「もう着くわよ、獣人国――」


 不意に干渉に浸っていた僕を戻すかの様にミラーナの声が響いた。


 あれが獣人国……。


 僕達の目と鼻の先。

 そこには獣人国の広大な景色が広がっていた。


 だが、目の間に広がる獣人国はやはり僕のイメージしていた光景とはまるで違うものだった――。

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