1-7 大賢者の情報を引寄せる

♢♦♢


~クラフト村~


 大いに盛り上がった翌日――。


「はい、こちらがギガントゴブリンの魔鉱石代になります」


 サラさんはまだ驚きを隠しきれないと言った表情のまま、僕に金貨を10枚渡してくれた。


 よし、これで当分の間は生活に困らないぞ。良かった。


「うっは、すげぇ金貨! 1枚くれよジーク」

「ダメですよルルカさん。これはジーク様の物です」

「ヒャハハ、冗談だってレベッカちゃん。そんなかしこまらずにもっと気楽にいこうよ」


 僕はレベッカとルルカのやり取りを横目に金貨を袋に閉まった。


 モンスターから取れた魔鉱石は武器や装備の素材となるからこうして買い取ってもらえる。基本的に魔鉱石はモンスターが強ければ強い程大きさや重量、密度などが上がっていく物だ。


 だからギガントゴブリンの魔鉱石もそこそこデカくて重い。レベッカの空間魔法が無かったらと思うと、とてもじゃないが運ぶだけでとても大変。


 冒険者ギルドの受付をしているサラさんでもギガントゴブリンレベルの魔鉱石は珍しかったのか、何度も魔鉱石と僕を交互に見て瞼をパチパチさせていた。


 兎も角金貨も手に入れ、念願の冒険者登録も遂に完了した。これでこの先もどうにかなるだろう。いや、頑張るしかない。


 改めて決心した後、僕はサラさんに聞きたかったもう1つの事を尋ねた。


「あの、サラさん。これって何か分かったりします?」


 僕はギガントゴブリンと昨日のミラーナから取れた赤い結晶をカウンターの上に置いた。


 まるで正体が分からない未知の物。だけど僕はこれが何かの影響を与えているのではと思っている。


「さぁ……私も見た事ないですね。魔鉱石とはまた違う様にも見えますけど。これが何かあるんですか?」

「いえ、まだ僕も全然分からないんです。ギルドで色々情報を知っていそうなサラさんでも分からないとなるとちょっとお手上げですね」

「ごめんなさい。お役に立てなくて」

「とんでもない! こんなの出した僕が悪いんです」

「あ、ジークさん。もしかして村長なら何か知っているかもしれないですよ。結構物知りですから」


 サラさんにそう教えてもらっていると、狙ったと言わんばかりのタイミングで村長さんがギルドの扉を開いて現れた。


「おや、ここにおられましたか。昨日は本当に村を救って頂きありがとうございますジーク君」

「村長さんナイスタイミングです!」

「はて」


 開口一番にまたもお礼を言ってくれた村長さん。そんな村長さんはサラさんの言葉にキョトンとする。そしてサラさんは赤い結晶の事を村長さんに聞いてくれた。


「成程、確かに魔鉱石ではありませんね。でも残念ながら私もそれ以上の事は分かりません」

「そうですか……」

「ですがギガントゴブリンとミラーナ君の話を聞くと、この結晶が何かしら影響を与えていると私も思いますよ」


 村長さんは暫く眉を顰めると、突如何かを思い出したかのようにパッと顔を上げた。


「そうだジーク君、君は“大賢者イェルメス”と言う人物をご存じかな?」


 大賢者イェルメス――。

 

 その名は僕でも勿論知っている。なにせあの魔王を倒した伝説の勇者の仲間の1人だから。


「それは知っていますけど……」

「だったら彼に聞いてみるといい。きっと何か情報を持っている筈です」


 さも当たり前かの様に言った村長さん。

 でも待ってくれ。勇者や大賢者イェルメスが魔王を倒したのは今からもう80以上は前。

 

 申し訳ないが真っ先に頭に思い浮かんだのは……。


「え? 大賢者イェルメスさんって……まだご存命なんですか?」

「ええ。実は昔、勇者と共にイェルメスさんもこの村に立ち寄った事がありましてな。元々少し変わったお方でしたから、今では人が容易に立ち入る事が出来ない“ビッグマウンテン山”の頂上に住んでいると聞きました。

もしジーク君に行く気があるのでしたら、1度訪ねてみてはどうでしょうか」


♢♦♢


~ビッグマウンテン山~


 という事で、僕達は晴れてビッグマウンテン山へと足を運んでいる――。


「おいおいおい、これ何処まで続いてるんよ」

「文句を言わないで下さい。余計に体力が消耗しますから」

「ほんとレベッカの言う通りだわ。黙って登りなさいよ。って言っても、確かにこれは思った以上に疲れるわね」


 大賢者イェルメスが住む言うビッグマウンテン山。

 この山は標高8,888mという高さに加えて足場が大きな岩ばかりでとても険しく困難な道。今となってはそれでもビッグマウンテン山の中腹部までは辿り着いただろうか。


 道中の険しさも然ることながら、加えてこの山に生息するモンスターと何度か戦闘を繰り広げた事によって皆疲労困憊の様子。レベッカの空間魔法で回復薬を沢山所持しているのが唯一の救いだ。


 それがなければ今頃きっと……。


「それにしても、こんな山の頂上に暮らしているというその大賢者の方はとても偏屈な方の様ですね」

「そうだね。村長さんから聞いてはいたけど、本当に外部の人間とは接触したくないみたいだな」


 まるでこの山が大賢者イェルメスの気持ちを代弁しているかの如き険しさだ。僕1人だったら間違いなく心が折れている。


「もう最悪ねこの山。ほらルルカ、早く貴方の風魔法でさっきみたいに皆を運んでくれるかしら? そうすれば楽なんだけど」

「またお嬢様が我儘言い出したんよ。何度も言ってるけどな、アレは凄い魔力も体力も使う訳。レベッカちゃんの空間魔法で回復薬がなかったらもうとっくに俺ら終わってるからな」

「口はいいから早く手を動かしなさい。貴方の疲れなんて私にはどうでもいいの」

「なんて生意気な嬢ちゃんだ。折角の美女が台無しなんよ。そこまで俺に言うなら自分だってさっきみたいにベヒーモスの姿になって俺達を運んでくれればいいだろ、なぁミラーナちゃん」

「嫌よ! 獣の姿になるの結構体力使うんだからね。それにずっと戻れなかったからまだ怖いの! 貴方ならそんな心配ないじゃない。ただ風出すだけなんだから」

「本っ当に口だけは達者だな」

「それは貴方でしょルルカ!」


 後ろから聞こえてくるルルカとミラーナと言い争い。レベッカも呆れた様子で2人を眺めていたけど、僕は不意に自分の視界に映る3人を見て、何だか嬉しくて口元が緩んでいた。


 ハハハ、まさか連日こんなに賑やかになるとはな。


 レオハルト家を追い出された時はどうなる事かと不安だったけど、今はあの時の状況からは想像も出来ない事になってる。勿論いい意味でね。


 僕は恵まれているな――。


「どうしたのですかジーク様」


 思わず感傷に浸っていると、レベッカが心配そうに僕の顔を覗き込んできた。


「いや、大丈夫大丈夫! 何でもないよ。皆のお陰でもう半分以上登って来られた。このまま頂上まで頑張ろう!」

「ほら、ジークが言ってるんだからさっさと行くぞミラーナちゃん。そんな文句があるなら今から降りてもいいんよ別に」

「ちょっと、何で私が降りないといけないのよ! そもそも何でルルカが付いて来てるの? 貴方が降りればいいじゃない」

「何でだよ。俺の方が先にジークとレベッカちゃんと出会ってるんよ。ミラーナちゃんの方が後でしょ。それに大賢者イェルメスなんて気になる名前出されたら行くしかないでしょ」

「何それ。意味不明だわ」


 その後もルルカとミラーナの言い争いは暫く続いたけど、僕達はやっとの思いで遂にビッグマウンテン山の頂上に辿り着いたのだった――。

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