馬車、戦地、謎の能力

 馬車に乗り三日ほど経った。

 緊急の為、走らせたい所だが、馬のスタミナを考えると歩かせた方が早く到着する。

 不安な要素はたくさんあるが、一番不安に思ったのは紫炎が魔法少女のコスプレ衣装を嬉々として鞄に詰めていたところだ。

「うわぁ!!」

 僕の頬に冷たいものが当たり、身体が跳ね上がる。

 その衝撃で馬車は大きく揺れて馬が鳴いた。

 紫炎はそれをみてケラケラと笑う。

 どうやら、瓶に詰まったジュースを持っていたらしい。

「やめてくれ」

 僕は、紫炎をにらみつける。

「その驚いた顔が可愛いんだよ」

 僕は頭を撫でてくる紫炎を無視した。

 ジュースを飲み干し、空になった瓶とコルクをポーチに入れた。

「なぁ、女王様が言ってた『システム』ってのはなんだ? 」

 僕は紫炎に聞いた。

「チート魔道具の中でも世界全体に影響を与えるチート魔道具の事だね」

 いまいちしっくりこない。

「とりあえず、広範囲に影響を及ぼすチート魔道具って事でいい? 」

「まぁ、大体そんな感じね」


 あと三日で戦場に到着する予定だ。

 戦場の本部には防衛に徹底するように光信号で伝えてある。

 大きな鏡に太陽光を反射させて約146km先に情報を伝えることが可能だ。

 地球では水平線が見える距離は約4km先だ。

 櫓を使っているとは言え、このような方法でその距離を連絡できるという時点で、今立っている異世界の星が地球よりも大きい事がわかる。

 高いところと言えば、この世界の住民や転生者にとって浮遊島は不可解な存在だろう。

 転生者が現れたころに突如出現し出したと兵士からは聞いたが。

 負ける事を予想した魔王軍が逃げ道を作るために造ったと噂されている。

 そんな事は無いんだけど……

 まぁ、魔王がまた復活してくれた方が人類は協力してくれるだろう。

「魔王、復活しないかなぁ……」

「なんてこと言うの!? 」

 流石に怒られた。


 そこから、三日を費やして、戦場に到着する。

 一つで50人程が入れそうな大型のテントがあちらこちらに作られている。

 今はにらみ合いの状態なのか、戦ってはいなかった。

 双眼鏡で国境を見ると自国の堀が見え、敵国の堀は埋め立てられていた。

 サム、アトラク、紫炎はそれぞれ別のテントの様子を見に行った。

「状況は? 」

 僕は兵士に聞く。

「はい、二日前までは敵軍の練度が低かったのか簡単に倒すことが出来ました」

「なるほど」

「そして、昨日から練度の高くなった敵軍が現れました、高いと言ってもこちらの軍と同じぐらいなのですが……」

「どうしたんだ? 」

「四人の転生者が現れた事もあり、こちらの軍の士気は下がり、これからどうなるかわかりません」

「わかった、転生者がそれぞれ何をしていたか教えてもらってもいいか? 」

「はい、一人目が瓶を投げ、爆発させることで攻撃をしてきました」

 兵士は眉をひそめる。

「ほう」

「中には、アルコールが入っていて、何らかの方法で火をつけて燃やしてきました」

「なるほど、二人目は?」

「頭痛を起こす魔道具を持っていました。 その者の攻撃により死者はまだ出ていませんが、おかげで士気がかなり低下しています」

「そいつは後回しにしよう、三人目は?」

「とにかく、素早く動く転生者でした。 早く動くだけじゃなく袖の中から金属片を飛ばして来ます」

「妙だな、転生者が貰う魔道具は、一つにつき能力は一つだ。 飛ばした物はあるか? 」

「はい、こちらです」

 兵士は布に包まれた金属片を見せてきた。

 変な形で傷がついている。

「刃物を借りても? 」

 兵士からナイフを借り、その杭に当てると簡単に削れた。

 そして、ナイフの裏で叩くとへこみが出来た。

「鉛だ……」

「鉛? 」

「安価で重く、飛ばして攻撃するのに適した素材だ、四人目は?」

「はい、この者は本当に恐ろしいのですが……」

「言ってみろ」

「昨日、遠くに拠点を構えた大型テントの兵士、50名が丸ごと殺されました。 争った形跡はなく、医師が診た所、全員が窒息死だったようです」

「ほう」

「しかし、近くに水はなく、首を絞められた形跡もないんです。 そして一番恐ろしいのが、全員が笑顔だったという事。 全てが謎で不可解だ……」

「これで、全員だな」

「はい、私たちもどうしていいか……」

 兵士の震えが止まらなくなり。

 口元が引きつっていた。

「よく頑張った。 敵の転生者は四人、こちらも四人だ。 絶対に勝とう!!」

 僕は、兵を慰める。

 ただ、不可解なのは転生者を戦闘が始まり四日後に出したことだ。

 そこから、敵兵の練度が上がったことも気になる。

「戦闘開始から、転生者が来るまでの状況を教えてくれ」

「はい、いうなら圧勝でした」

「圧勝? 」

「はい、敵軍が自国の堀も埋めず、一斉に突撃してきたんです」

「突撃……」

「こうなれば、堀を駆け上がり走ってくる敵を弓とマスケット銃で一方的に射貫くだけです」

 その兵士の一言で、僕の中に一つの仮説がうまれた。

 とにかく、外れていてほしいという気持ちで胸がいっぱいになる。

「敵軍の被害は?」

「はい、この四日間で約二万です」

「敵の国に堀が出来たのは、最近だろ……」

 僕は兵士に指を向けた。

「何で分かったんですか? 不思議なんですよ。 防衛用に掘ったのかと思ったのですが。 その後、急に攻めてきますし。 あちら側からしても攻めるのに邪魔になると思うのですが……」

 僕は敵国の王を必ずぶん殴らないといけないと思った。

 これは、人口を減らす戦いだ。

 今役に立たない者を徴兵し、敵国にぶつけて散らせる。

 こうして、口減らしをしているんだ。

 非常に気分が悪い。

「どうかしたのでしょうか? 」

 僕の表情を読み取った兵が聞く。

「いや、なんでもない」

 こんな事がわかってしまえば、士気が下がる。

 二日前に、この作戦は終わっている。

 これを発言してしまえば敵の思うつぼだ。


 本当に気分が悪い。

 敵軍に転生者が居るからって何だってんだ。

 僕は絶対にこの戦いに勝とうと決意した。



「マジカル マジカル きゅるるるる~ん みんな元気にな~れ!!」

「おぉおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」

「メーニーナッ!! メーニーナッ!! メーニーナッ!! メーニーナッ!!」

 僕は、負傷兵の前で魔法少女のコスプレをしていた。

 外で兵士から転生者の話を終えた後、急に紫炎が僕の手を引きテントに連れて行った。

 そして、コスプレをさせて医務用のテントに入り、今に至る。

 娯楽の重要性を再認識する。

 この異世界は創作物に対しての耐性が無く、フィクションと現実の区別がつかない。

 だから、彼らは魔法少女が実在すると本気で思い込んでいる。

 まぁ、ざっくり言えばプロパガンダだ。

 簡単に士気が低い兵士を昂らせる事が出来るのはありがたいことだが……

 なんで、その役をするのが僕なんだ?

 紫炎は相変わらず、僕をキラキラした眼で見つめていた。


 兵士の士気は上がったが、こんな事をしている場合じゃない。

 兵士の練度が同じぐらいなら、兵士は守りを固めることが、僕たちは転生者を倒すことが重要だ。

 とにかく、情報をまとめよう。

・一人目、瓶を破裂させてアルコールをまき散らし、火をつけて攻撃してくる。

・二人目、頭痛を起こす。 敵の位置は不明。

・三人目、高速移動、杭を飛ばす。

・四人目、水もない状況での窒息死。

 

「険しい顔してどうしたの? 」

 紫炎が僕の顔を覗く。

 前回と同じ、タキシード、男性の格好だ。

「その前に、なんで男装してるんだ? 」

「私の国では、敵に攻め込まれた時に女神が男装して迎えたって神話があるんだよ」

 紫炎は人差し指を立てた。

「ところで、何やってたの? 」

「敵の転生者の能力について考えていた」

「私も考えようか? 」

 紫炎が言う。

 普段はあんな感じだが、亡命中の戦闘で紫炎が賢いことがわかる。

 普段の生活だって、僕を女装させるためだけになんども裏をかき、下らない心理戦を展開した。

「わかった、邪魔するなよ」

「しないよ」

 僕は紫炎に敵の転生者を全て話す。

「あー、四人分の能力を考えて、どうやって倒すか考えるのは大変だなぁ」

「手伝うって言ったのはそっちだろ」

 背を伸ばす紫炎に僕は笑う。

「一人なら、簡単に倒せるのになぁ……」

 紫炎のぼやきに引っかかりが出てきた。

「一人なんだ……」

「何が?」

 紫炎は首をかしげる。

「わかったんだ!! 敵は一人なんだよ!!」

「ドーーーーーーーーン」

 僕が大きな声を出したと同時に大きな音が鳴る。

「敵襲です!!」

 兵士がテントに入ってくる。

「転生者は?」

「はい、居ます!!」

 僕と紫炎は互いに頷く。

「よし、行こう!!」

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