戦の準備

「カーラ様!! カーラ様!! カーラ様!! カーラ様!!」

 相変わらず、広場の方から、女王を呼ぶ民衆の声が響く。

 王宮のバルコニーから広場が見渡せる造りになっている。

 材質からして、この王宮が建てられたのは、だいぶ昔だろう。

 この王宮を建てた王の代から、民衆としっかりと接点を持ち、民衆と向き合ってきた。

 だからこそ、支持されてきたとわかる。

 女王と付き人二人がバルコニーへ出て民衆に語りかける。

 それを僕と紫炎は室内から見守っていた。

「どういうつもりだ? 」

 僕は紫炎に言う。

「どういうつもりって、可愛いマコトちゃんを皆にみてもらいたいだけだけど? 」

「みんなに……見てもらう」

 僕はゾッとした表情で紫炎を見た。

「しまった!!!!」

 紫炎が頭を抱える。

「皆に可愛い姿を見せたら独り占めできない!!!!」

 こいつは何を言ってるんだ……

 そんなやり取りをしているうちに、外から民衆の大きな歓声が聞こえる。

「さぁ、出てこい」

 サムがこちらに声をかける。

 僕は命乞いをするような目で紫炎を見つめる。

 紫炎の目は「ダ~メ」って言ってるようだ。

 腕を掴まれ、バルコニーに出る。

「あれが転生者様か!!」

「魔王を倒した英雄だ!!」

 庭一面に集まった民衆が僕を見ている。

 魔法少女の格好をした僕を見ている。

「ありがと~」

 隣では、紫炎が笑顔で手を振る。

「ほら、もっと前に出て」

 紫炎が僕の手を引く。

「いや、下に人居るから、見えちゃうから」

「スカートの中ならパニエで隠れるから平気だって」

 紫炎に思いっきり引っ張られる。

 僕は身体を固まらせ目をぐるぐるさせるので精一杯だった。

「あれ、マジカル・メニナだ!!」

「本当だ!!」

「メニナちゃんだ!!」

 民衆が騒ぎ出した。

「ちょっと、呼ばれてるよ」

 紫炎が言う。

「え? 」

「だから、呼ばれてるって」

「どういうこと」

「メニナちゃんって君のコスプレしてる魔法少女の名前だよ」

「そうなの!? 」

「ほら、手を振って!!」

 紫炎は僕の手を掴み、民衆に向けて振った。

「メニナちゃぁああああああん!!!!!!」

 身体全体に歓声を浴びる。

「あれやってー!!」

「そうだね、私も見たーい!!」

「メニナちゃん!! あれやってー!!」

 民衆が何か言い始めた。

「あれって何? 」

 紫炎に聞く。

「あぁ、『マジカル、マジカル、きゅるるるる~ん、みんな元気にな~れっ!!』の事かな? 」

 紫炎は真顔で言う。

 それをこの場でやれというのですか?

 僕は涙目で紫炎を見た。

 その目に気付いた紫炎は民衆の一部を指さす。

「ねぇ、あそこを見てごらん」

 そこには、小さい女の子たちが不安そうな顔でこちらを見つめていた。

 こうなったら、もうヤケになるしかない。


「ま、マジカル、マジカル、きゅるるるる~ん、み、みんな元気にな~れっ!!」


「うぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」

「かわいいよ~、メニナたん!!」

「メーニーナッ!! メーニーナッ!! メーニーナッ!! メーニーナッ!!」


 もう、いっそのこと殺してくれ。


 異世界には娯楽がないため、彼らには創作に対しての耐性がない。

 話の殆どが神話であり現実とリンクしている。

 そして、科学も発達していないし魔法も存在している訳だ。

 ハッキリと言えば『現実と創作の区別がついていない』

 僕が本物のメニナだと思い込んでいるのだろう……


 式典の後、女王は、恥じらう僕の姿を見て察したのか男性用の服をサムに用意させた。

 サムの能力だろうか?

 空中に絹糸を浮かせ、それを凄い速さで織りこみ、あっという間に服を仕立て上げた。

「サイズが合えば良いのだが……」

「ありがと」

 サムは僕に服を渡す。

「え~!! なんてことするの!!」

 隣で紫炎がぶつくさ言ってるが聞かないようにする……

「あの、服まで用意していただいて申し訳ないのですが、僕はこの国で戦うつもりはありません」

 僕は女王に言う。

「その様子を見たら、わかりますよ。 あんな手を使って連れてきてしまい申し訳ございませんでした」

 女王は頭を下げた。

「他の国から取られるよりもマシだと考えての判断です。 戦う意思のない者を無理やり戦わせても意味がありませんから」

 なるほど、僕が他の国からスカウトしにくくするための手段か……

 やはり各国は他の国に転生者を取られたくないのだろう……

「お詫びとして、次に住む場所が見つかるまで、この王宮の一室を利用してください」

「監視も込めてでしょうか? 」

「その通りです」

 僕の皮肉に女王が笑った。


 それからの事。

 ある日には、誰かさんに服を隠されて、王宮をドレスで走り回り服を探し出す。

 紫炎はそれを見て、喜ぶ。

 ある日は、隠される事を予想して、代わりの服を用意して、平然と食卓に出る。

 紫炎は悔しそうな顔でスープを飲んでいた。

 ある日には、その仕返しとして、下着が全て女性の物にすり替えられていた。

 一日中、紫炎のニターっとした視線を感じながら過ごすことになった。

 そんな毎日を過ごしているうちに、ノーズウェルに来てから三カ月が経つ頃。

 日常は急に壊される。


「あぁああああ、かわいすぎるぅ!!」

 今日は、僕の負けのようだ。

 食事中なのにも関わらず、紫炎は僕の頭を思いっきり撫でた。

 今日の服装は、ピンクのドレスに黒のニーソ、長い金のウィッグだ。

 反応したら負けだ、食事の並んだ机の前に座りスープを飲む。

「はしたない」

「私は悪くないと思います」

 怒るアトラクを女王がなだめる。

「しかし、食事中なのにも関わらず椅子から立ち上がるだなんて」

 アトラクが不満そうにする、その中。

「女王陛下!!」

 食事中、一人の兵士が走り込んできた。

「そんな、急いでどうしたのですか? 」

 女王はちぎりかけのパンを皿に戻した。

「セプタテラから敵襲です!! 数、5万、北東の方角からです!!」

 さっきまで怒っていたアトラクも含めた全員で机から立ち上がり、バルコニーに向かう。

 山の方から、チカチカと光が見える。

 鏡に太陽光を反射させる事によって、遠い距離で連絡を取り合っているみたいだ。

「まず、現場の国民の避難を!!」

「了解いたしました!!」

 女王が兵士に指示を出す。

「あまりに急だ、巻き込まれた人も居るかもしれない……」

 後ろでサムがつぶやく。

 気分が悪くなってきた。

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