幕間Ⅱ

神木零は静かに分かりあうことを諦めた。

 きっかけは本当に単純なことだったと思う。


 中学生の頃だ。細かい内容はよく覚えていない。ただ、その時の授業が「環境問題」みたいなことについて扱うものだったというのは覚えている。そして、俺がどちらかといえば、全体の中でマイノリティだったことも。


 味方なんていなかった。二つに分かれてのディベート形式だったような気もするし、そうでなかった気もするのだが、いずれにしても、俺の意見はフルボッコになっていた。仕方ない。世間一般で謳われる「正義」とは程遠いものだったのだから。


 結局授業はそこで終わり。表面上は一応、お互いを尊重しましょうねという空気感だけが広がっていた。


 もちろん、それに乗っかったやつもいる。しかし中にはそんなことお構いなしの人種だっている。討論ではあくまで相手の意見と戦わせるのであって、人間性を戦わせるものではない。その事実をあらかじめ伝えていたとしても、中学生のガキがかならずしもそれを理解するとは限らない。


 それ以降、俺はことあるごとに一人の女子から攻撃を受けた。なんどもほじくり返された。もちろん、俺の論拠が薄かったのは確かだ。しかし、現実問題として、そいつの言った主張など大したことは無く、これから先、「時代遅れ」となっていくような主張だったはずだ。


 俺は腹を立てた。何とかやり返そうと思った。その結果。明さんなどにも助力を頼み、どんな内容でも完全論破出来るような知識を仕入れて、頭に叩き込み、件の女子相手に論戦を吹っかけた。


 そこからどんな言い合いをしたかも、俺の中では曖昧だ。


 ただ、結果として、ガチ泣きする女子の同級生相手に、論理と罵声を浴びせる俺という構図が最終局面だったことを覚えている。


 確かに、俺の行動もやりすぎた感は否めない。


 しかし、その前に、件の女子が攻撃していたことは確かだ。


 にも拘らず、大人たちの出した最終的結論は「喧嘩両成敗」という実に下らないものだった。いくら話しても聞き入れはせず、お互いの非を認めて、謝って、それで仲直り。下らない仲良しこよしごっこが提示された。


 それどころか、そいつが「神木かみきくんの言ってることが理解出来ない」と言えば、「今度は分かるように説明してあげてね」などという下らない解決策も添えられていた。俺は知っていた。あいつが理解出来ていないはずないと。それなのに、俺が「意味不明なことをのたまった」ということになっていた。


 結局、その騒動は、個人間の問題として処理され、めでたい解決を見たことになった。実際、以降俺に対して件の女子が関わろうとすることは無かった。めでたしめでたし。そう、これはハッピーエンドなのだ。だって、世の中はそういう風に出来上がっているから。

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