Ⅳ.

25.同じ趣味でも派閥の違いはある。

「どしたの、れいくん?随分としかめっ面して」


「久々の学校で気分が下がってんだよ」


「それ、学生の言う台詞じゃないね……」


 翌日。


 俺は二見ふたみと一緒に登校していた。俺の周りに存在する情報の中で、一番非日常感があるのが今隣にいる幼馴染な訳なのだが、こと、今日に関しては、その「学校行くなら一緒にいこうよ」と言い出してくれる積極性が恨めしかった。


 嫌な夢を見た気がした。


 気がした、というのはそもそも覚えているのが断片的だからだ。ただ、その中での俺はひたすらに、二見に対しての言い訳をしていたような気がする。


 なんとも嫌な話だ。言い訳というのも俺としては不本意だし、その相手が二見というのがまた嫌だ。


 まあ、そんな話を当の本人にしたら、「え、零くんはいつも言い訳ばっかりじゃない」なんてことを言い出しそうな気もするけどね。違うんだな。俺の中では言い訳と論破は全く違うんだよ。んで、夢で見たのは(断片的だったけど)前者だったってこと。


 嫌だなぁ……俺が二見に言い訳なんて。一番何を言っても許してくれる(恐らく)幼馴染という関係性に対して、対面を保つなんて生き方はしたくない。うん。


 嘘をつかないとは言わないけど、安易に言い訳をする人間にだけはならないようにしたい。だってその方がなんかいいじゃん。逃げてる主人公ってカッコ悪いから。別に俺はなんの主人公でも無いんだけどね。


「っていうか零くん、ホントに出席日数大丈夫なの?不安にしかならないくらいしか見かけないけど」


「見かけないっていうけど、そもそもお前だってそんなに優秀な学生ではないだろ」


「バレたか」


 そう。


 何を隠そう、我が幼馴染こと二見つかさも、決して出席率が良い方ではない。


一応、クラスに友達はいるらしいし、その辺りで居心地の悪さを感じているみたいなことは一切ない。無いのだが、彼女自身がかなりいい加減で、目が覚めたらお昼過ぎだった、みたいなエピソードを聞いたのは一度や二度ではない。


 それも、両親が一緒に住んでいるのだから起こしてあげればいいのにと思わなくも無いのだが、陽菜と明の話を総合すると「何度起こそうとしてもぴくりともしない上に、喫茶店の準備やなんやで一番忙しい時間帯なので、余り構う時間もなく、仕方なく」とのことらしかった。


 一応発生頻度がそこまで高くない為、俺のように日数がギリギリセーフどころかアウトに片足を突っ込んでいる状態の人間とは雲泥の差があるものの、クラスでの出現確率はどちらかといえば低い方に分類され、元々レアモンスターなみの頻度でしか現れない俺との遭遇率は必然的にかなり低くなる。


従って、二見が学校で俺を見かけないのも正直「たまたまかみ合わなかっただけ」という可能性の方が高い。ただ、それを加味しても、


「ま、ぎりぎりの綱渡りをしているのは事実だな」


「だよね。つくづく零くん、学校に興味ない感じ」


「まあなぁ……」


 一応、これでも興味を持とうとはしてみたのだ。一通りの気になる部活動には顔を出してみたし、似合わないと言われそうだが、運動部だって体験入部してみたこともあるのだ。


 が、結果としては、


「正直、喫茶二見で司とだべってる方が楽しいんだよなぁ……」


「それ、誉め言葉として受け取っていいのかちょっと複雑だよ……」


「そうか?俺としては褒めてるつもりだけどな」


 部活動という響きに興味が無いわけではない。


 ただ、運動部となると当然拘束時間が長く、体育会系特有の無駄な人間関係が煩わしい。文科系ならその縛りも緩いだろうが、残念なことに我らの高校には漫画研究会のようなものが無い。


一応、文芸部ならあるにはあるのだが、どっちかっていうと純文学寄りで、はっきり言ってお堅い。いるんだよな、ああいう「理解されなくても芸術であればいい」みたいなの。いや、芸術を否定する気は無いんだけど。なんか話聞いてる感じだと、エンタメ自体を軽く下に見てそうな感じの部員が多めだったから、やめといたんだよ。


 んで、そうなると、後に残るのは自分で作るって選択肢だけだ。ただ、部活動を設立するってなっても人数がいる。確か五人くらい。


 別に顔見知りに声をかければ、名前くらいは貸してくれるだろうけど、そんなことをするほどの熱意もない。それだったら喫茶二見の一角で、二見とダベるほうが楽しいって訳。最近は安楽城あらき伊万里いまりさんっていう仲間も増えたしな。


 後は……あきらさんとももうちょっと踏み込んだ話をしてみたいもんだ。あの人、なんか人脈とか色々凄そうだし。きっと面白い物語シナリオを持っているんだろう。ううん、気になる。

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