15.本音を引きずり出すには。

 星咲ほしざきみたいなタイプは基本的に「傲岸不遜に出る相手」を選んでいる。それこそ、俺みたいに「ちょっと強気に出てもガチで怯えることはないし、飄々と受け流しそう」な人間には強く当たる。まあ、そもそも俺の場合は、そうなるような言動を俺がしてるってのがあるけどな。直す気はないけど。直したところでメリット無いし。星咲みたいなやつは下手に出るとどんどんつけあがるからな。


 ただ、その選別で行くと、二見ふたみは「強く当たりにくいタイプの人間」だ。


一応、強く当たっても怯えることはない。驚くくらいはするだろうが、冷静に対処するだろう。


 ただ、それ以前に彼女は何も悪いことはしていない。そう。強気で当たってもいいという免罪符になる要素が何もないのだ。しかも、どうやらここの店員っぽい。そうなると聞かれたことをはぐらかすのが大変難しい。何故って、この手の人種は「キレて無理やり話を切り上げること」で乗り切るのが常套手段だから。


 そして、これは俺の読みだが、恐らく二見は、


「面白そうか、面白くなさそうかで言ったら……面白そう、ではあった、かな」


 ぽつぽつと、かなり言葉を選びながら、星咲が答える。すると二見は満足げに、


「そっか。なら良かった。それならさ、星咲さん。いっそのこと、原作を零くんにやってもらうのってどうかな?」


 その提案には俺と星咲が二人して、


「「は、はぁ!?」」


「おお、息ぴったり」


 ええ、それはもう。最悪なくらいに、ね。


 二見はなおも続ける。


「や、ほら。星咲さん、絵美味いじゃない。んで、れいくんはこう見えても、結構色んなものを読んできてるから。面白いシナリオもきっと作れると思うし」


「こう見えては余計だよね?」


 二見はそんな俺の抗議もさらっと無視して、


「だから、二人が手を組んだら、きっと良いものになると思うんだけど、どうかな。もちろん、星咲さんが描きたい話もあるだろうから、その辺は折り合いをつけることになると思うけど」


 なんの提案をしているんだ、と思わなくもない。


 なにせ、星咲と俺の性格相性はまあ、最悪だ。俺の方はともかく、星咲の方が無理だというだろう。 


 加えて、星咲の立ち位置が分からないというのもある。


 確かに、俺が原作をやって、星咲が作画をやれば、面白いものが出来上がる可能性はある。


 俺自身、見る側としての経験はあるものの作る側としては素人同然だが、そもそも対抗馬となる星咲の描くシナリオが“アレ”である以上、今より作品の質が下がることはまずない。そういう意味でも、手を組むというのは「面白い漫画を作る」という点においては悪くない提案だと言える。


 しかし、それは星咲があくまで「面白い漫画を作る」という一点にフォーカスしていた倍に成立する話だ。


 いくら漫画を描くからといっても「誰か原作を立ててまで、面白い作品を描きたい」と思っているとは限らない。俺からしてみれば下の下に近い「ありきたりな異世界転生」を星咲が好んでいて、ああいう話を描きたいという欲があるのかもしれない。


 もしそうでなかったとしても、自分がシナリオも作画もやるというところをどうしても譲れない可能性だってある。と、いうか、星咲の性格を考えれば、そっちの可能性の方が高いと言っていい。


 そうだとしたら……いや、そうじゃなかったとしても、二見のした提案は「シナリオを書くことを諦めろ」と通告しているようなものだ。それは星咲からすれば到底受け入れられない可能性だって十分にある。

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