3-番外編:オシナの戦い勝手反省会

 自分たちが離れた後、オシナの戦いで起こったことを知った真琴は、あの戦いはゴッズバラ王国が勝てたと言いはじめた。ビール片手に野球監督の采配にケチをつけるオッサンみたいだなと思いながら、仲間の三人は軍師様の考えを詳しく拝聴することにした。


 彼らが囲む机の上にはオシナ周辺の地図が置かれ、両軍の配置が分かっている範囲で書き込まれている。

 こんな真似を始めた最大の原因は「娯楽不足」である。今日は雨が降って室内に篭もるしかなかったから余計に暇だった。リンウで出版する本を書くなど雨天でも出来る作業はあるが、ずっと根をつめていられるのは司だけだった。地味に見える彼女も何かおかしい。


 一人地図の前に立って真琴が言った。

「要するにジョージ王子が主導権をあっさり敵に渡したのが悪い。『これで何とか引き分けにできる。この状態を維持したい』と思ったんでしょうね。常に勝つつもりで動かなければ、敵に反撃の余裕を与えてしまうのに」

「そうは言っても前半戦のダメージで余力がなかったんだろ。どうやったら、あそこから勝てたって言うんだ?」

 文武がジョージを擁護する。真琴はディベートがしたいらしいので、半ばわざとだった。それに、ここで思ったことを吐き出させてやらないと、この世界の人間に吹聴してトラブルになるかもしれない。彼らがメンツをとても大事にすることは日常的に感じられる。

 万が一、悪口に改変されて王孫の耳に入ったら……寒気を感じるのは隙間風のせいだけじゃない。


 よくぞ聞いてくれましたと目を輝かせて、真琴はゴッズバラ軍の本隊からオシナの内部を通してマクィン軍の陣地まで指をなぞらせた。

「外で戦わずに街の中を通って後ろに回り込めばいい!陣地を全部潰せば包囲を止めさせることができるし、北に向かう道まで封鎖できたらマクィン軍の壊滅だってありえた!どう!?」

 彼女があまりに自信満々で言うので納得しかけてしまう。実際の戦争はそんなに簡単じゃないのではないか。そんな気がするのだが、明快な方針こそ勝利に繋がるのも確かだろう。命令する側が半信半疑では勝てる戦いも勝てない。


「んー?マクィン軍の本隊が戻ってきたらどうするの?別働隊を攻めたのはゴッズバラ軍本隊を誘い出すための見せかけで、すぐに戻ってくるかもしれない」

 しばらく考えて、湯子が小さく手をあげ指摘した。ちょうど賤ヶ岳の戦いを連想させる展開もありえたと言うことか。残された陣地を攻める部隊が佐久間盛政隊になる。真琴は見えないメガネをくいっと指であげる仕草をした。

「そこはマクィン軍の動きを見極めるしかないでしょうね。城外でバカ正直に攻撃を仕掛ければやられるでしょうけど、オシナ城内から出撃するなら敵が戻ってきたら城内に逃げ込めばいいんだし、そうやって敵を引き付ければ少なくとも別働隊の離脱は助けられるでしょ」

 小勢のソラト総督は敵を警戒しへっぴり腰で戦場に近づいていた。そんな彼を捕捉するには大軍での追撃が必要だったはずで、中途半端にオシナに戻ることは難しいのではないか。真琴は考えをまとめた。

 最初から湯子の言った誘い出し作戦を立てていたが、ジョージが動かなかったので別働隊の追撃に的を絞ったとも考えられる。そこは状況をもっと細かく調べないと分からない。ゴッズバラ軍が再度の賭けに出ず、消極的だったことは間違いない。


「その……そもそもオシナの城門は使える状態だったのでしょうか?外での戦いが始まる前に攻められていたから使えなかった可能性もあるのでは?」

 司も疑問点を口にした。なんだか真琴がみんなから持論を守る流れになっている。別に彼女の意見を否定したいわけじゃないのだが。

「確かにそれは……調べてみないと分からないけど……」


「ちょっと調べてみようか?味方の落ち度を探っていると思われないように気をつけて。もし、俺たちが王孫と同じ立場になっても動けるようにした方がいい」

 積極的なアイデアが出たのは岡目八目だからだろう。文武は真琴に視線で同意を求めた。

 ちなみにこの世界に聞いた範囲で囲碁はなく、チェスに似たものはあったがサイコロを振って駒を動かす運の要素が強いものだった。転移者たちは将棋のルールを覚えていたので将棋は再現できたが、囲碁は石を囲まれると取られることしか覚えておらず再現は難しかった。同じく麻雀も再現できずにいた。そもそも牌や札の裏面を見分けをつかない状態に加工することが難しい。だからトランプも手書きで作れはするが裏面の特徴を覚えたら別のゲームになってしまう。特に真琴と司は記憶力が良かった。

「そうね。エレベーターのことも調べないといけないし……」

 真琴も持論を補強するためにも、今後の戦闘に巻き込まれたときのためにも、情報を収集する必要を感じた。その方法を考えることも暇つぶしになった。

 転移者たちは人手がない中で、旅人や部下の兵士には聞き込みを欠かさず、行商人がオシナ方面に向かう際には小金を握らせて気になることの確認を依頼した。



 その結果、わかったことはオシナの北側の城門は何とか出撃可能な状態だったこと、ジョージ黄太子にそこからの出撃を提案した人物は一人もいないらしいことだった。また、マクィンの陣営がオシナの北1分里マイル(海洋民が普及させた距離単位。赤道直下で真東か真西に向かった時、天頂月の高さが1分=1/60度だけ角度を変える距離)にあって、北への退路を守っていたことも分かった。

 陣営の残存兵力によっては退路を断とうとして挟み撃ちに遭う可能性があった。そこまで行くのは危険だったかもしれない。


 どうも王孫やその側近は大将はどっしり構えているべきと考えているようだった。ちまちまと小細工を弄して負けると一気に信用を失うからだ。敗戦続きでゴッズバラ軍が士気を保っているのは、その姿勢によるところも大きい。

 だが、それで負け続けていればジリ貧なのも間違いなく、彼は転機を待っていたようだ。そこに現れたのが転移者たちだったのである。



真琴が主張したゴッズバラ軍の動きの図を下記近況ノートに貼りました。

https://kakuyomu.jp/users/sanasen/news/16817330653836236607

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